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配置転換の有効・無効の判断基準とは?

最終更新日 2024年 06月13日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

配置転換の有効・無効の判断基準とは?

●配置転換とは、従業員を同一事業所内で、職種の異なる部署に配置換えをすることで、会社側に広範な裁量が認められています。
 
●会社としては、従業員を配置転換することで、余剰人員を吸収して解雇を回避できたり、能力不足・成績不良の社員の新たな適性を見極めたり、生産性の向上を図るなどがきるため、よほどの理由がなければ配置転換命令が「権利の濫用」として無効になることはありません。
 

●従業員は、原則として会社からの配置転換命令を拒否することができないのですが、すべての配置転換が有効となるわけではなく、違法と判断されるケースもあります。
 

●配置転換が無効・違法と判断されないためには、「就業規則や労働協約などに根拠があり、会社に配置転換命令権があること」「配置転換命令権の濫用にあたらないこと」が重要なポイントになります。
 

●そして、配置転換命令権の濫用にあたらないためには、
 

  • ①「配置転換命令に業務上の必要性があること」
  • ②「不当な動機や目的によってなされたものでないこと」
  • ③「従業員に通常甘受するべき程度を著しく超える不利益を与えるものでないこと」

 

という基準があることに注意が必要です。
 

本記事では、従業員に対する配置転換命令が違法と判断される場合と、有効とされる場合のそれぞれについて、根拠となる基準の詳細や裁判例について解説していきます。
 

目次

従業員の配置転換は違法?合法?

(1)配置転換とは?

従業員を、同一事業所内で、職種の異なる部署に配置換えをすることを「配置転換(配転)」といいます。
 

配置転換は人事異動のひとつで、勤務地の変更で転居をともなうものは転勤になります。
 

なお、出向や転籍は他の会社への人事異動になります。
 

欧米とは異なり、これまでの日本の企業では職種を限定せず採用することが一般的で、配置転換は従業員にさまざまな職種の経験を積ませるためや、会社の労働力の調整などのために行なわれてきました。
 

<配置転換の目的例>

  • ・さまざまな職種の経験を積ませるため(ジョブローテーション)
  • ・会社の労働力の調整(人員が余っている部署から足りない部署への移動など)
  • ・能力不足、成績不良の社員の新たな適性を見たり、適材適所化を図る
  • ・従業員の仕事への意欲を刺激する
  • ・トラブルがあった従業員同士や、パワハラ等のあった上司と部下を引き離す

 
しかし、従業員側からすると配置転換は必ずしも歓迎すべきことではなく、納得のいかない配置転換に不満を感じる場合もあるのが現実です。 
そのため、配置転換を拒否するなどで労使間の争いが起きてしまうケースもあります。
 

(2)配置転換は有効?それとも違法?

配置転換については、会社側に広範な裁量が認められています。
 

特に正社員の場合は職種の限定のない採用の場合が多く、配置転換することで余剰人員を吸収して解雇を回避できたり、生産性の向上を図ることもできるため、よほどのことがなければ配置転換命令が「権利の濫用」として無効になることはありません。
 

つまり、従業員は原則として会社からの配置転換命令を拒否することができないのです。
 

近年では状況も変わりつつありますが、日本には終身雇用制度があります。
 
状況によっては、会社が従業員の解雇を防ぐために配置転換したり、転勤させたりする必要もあるため、日本の労働者に終身雇用が保証される代わりに、会社の広範な裁量による配転・転勤命令が認められているわけです。
 

就業規則や労働協約などに根拠があり、会社に配置転換命令権がある場合は、従業員との間に合意がなくても配置転換を命じることができる、とする裁判例もあります。
 

東亜ペイント事件」では、次のように判示しています。
 

当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の乱用になるものではない。
(最高裁判決 昭和61年7月14日)

 
これは転勤命令についてですが、配置転換命令にも当てはまるとされています。
 

【参考資料】:「配置転換」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性(厚生労働省)

 

【関連記事】 
就業規則とは何か?

配置転換命令が有効と認められる条件について

(1)配置転換命令権とは?

ただし、配置転換命令のすべてが有効と認められるわけではなく、次の要件が必要になります。
 

  • ・労働契約上、会社に配置転換命令権が与えられていること
  • ・配置転換命令権の濫用にあたらないこと

 

配置転換命令権の根拠となるのは、次の条文です。
 

「労働契約法」
 

第7条(労働契約の成立)
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

 

第12条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

 

就業規則に「業務上必要がある場合、会社は労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。」といった規程を確実に明記して、それを従業員に周知していれば、会社の配置転換命令権は有効であり、違法ではないということになります。

(2)配置転換命令権の濫用にあたるケースについて

配置転換命令権の濫用と判断されると、会社の配置転換命令は無効となる可能性があります。
 

では、配置転換命令権の濫用にあたるかどうかの判断には、どういった基準があるのでしょうか?

①配置転換命令に業務上の必要性が存在しない場合

業務上の必要性について、過去の裁判例では次のように判示しています。
 

「社内の労働力の適正配置や、業務効率化、従業員の人材育成、業績悪化時の雇用の維持など、会社の合理的な運営のためといえる程度の理由があれば、配置転換について業務上の必要性がある。」

 
なお、定期人事異動も業務上の必要性があると判断されています。
 

つまり、上記のような必要性がない配置転換は、配置転換命令権の濫用にあたる可能性があるわけです。

②配置転換命令が不当な動機や目的をもってなされた場合

従業員に対する嫌がらせや報復、退職へ追い込むためなどの不当な動機や目的をもって配置転換命令がなされた場合は、権利の濫用として無効とされる可能性があります。
 

<不当な動機や目的の例>
 

  • ・会社と対立していた(労働組合の活動など)従業員に対する嫌がらせ目的の配置転換
  • ・リストラ目的で、従業員が自ら退職するように追い込むために行なった配置転換

③配置転換命令が従業員に著しい不利益を負わせる場合

従業員に、通常甘受するべき程度を著しく超える不利益を与える配置転換命令も権利の濫用として無効になる可能性があります。 

<著しい不利益を負わせる場合の例>

  • ・持病のある従業員の病状を悪化させるような業務への配置転換
  • ・「育児中で夜勤は困難」との申し出をしている従業員に対して、他の候補者がいるにもかかわらず、夜勤のある部署に配置転換した場合
  • ・資格をもつ従業員を、その資格を活かすことができない部署に配置転換した場合

④その他

<強制法規違反にあたる場合の例>

  • ・組合活動の妨害を目的とするような不当労働行為にあたる配置転換(労働組合法第7条)
  • ・国籍や思想信条による差別にあたる配置転換(労働基準法第3条)
  • ・性別を理由とした差別にあたる配置転換(男女雇用機会均等法第6条)

配置転換が無効とされた裁判例

次に、これまでの裁判例で「権利の濫用」と判断されているものを紹介します。

「医療法人社団弘恵会事件」

【概要】

介護施設で勤務する原告が、
 

  • ・通所部門から入所部門への配転命令は無効であると主張して、入所部門で勤務する義務がないことの確認を求めた。
  • ・被告から,いわゆる「追い出し部屋」での勤務を指示されるなどのパワーハラスメントを受けたと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料等及び遅延損害金の支払を求めた。
  • ・被告が通所部門での勤務を拒絶しているとして、賃金及び遅延損害金の支払いを求めた。

【判決内容】

裁判所は、
 

  • ・本件配転命令は業務上の必要性を欠くか、仮に必要性が認められるとしても不当な動機・目的によって行なわれたもので、権利の濫用にあたり無効であると認めた。
  • ・原告を別室に異動させて一人で勤務させたことなどの一連の行為について不法行為が成立する。

 
と判断し、原告の請求を認めた。
 
(札幌地裁判決令和3年7月16日)

「安藤運輸事件」

【概要】

運行管理業務や配車業務に従事していた原告が、本社倉庫部門において倉庫業務に従事するよう配置転換命令を受けたため、同命令が無効であると主張して提訴した。

【判決内容】

裁判所は、
 

  • ・本件配転命令は、そもそも業務上の必要性がなかったか、仮に業務上の必要性があったとしても高いものではない。
  • ・運行管理業務及び配車業務から排除するまでの必要性もない状況の中で、その能力・経験を活かすことのできない倉庫業務に漫然と配転し、被控訴人に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせたものであるから、本件配転命令は権利濫用にあたり無効である。

 
として原告の主張を認めた。
 
(名古屋高裁判決令和3年1月20日)

「ネスレ日本事件」

【概要】

工場の一部移転にともない、配置転換を命じられた60名のうちの2名が、その配置転換命令は無効であり配置転換先で勤務する義務がないことと配置転換命令後の賃金の支払いを求めて提訴した。

【判決内容】

裁判所は、
 

  • ・勤務場所を限定していない契約の場合には、使用者は業務上の必要に応じその裁量により配置転換を命じる権利があり、その命令に企業の合理的な運営に寄与する点がある限り、業務上の必要性が肯定される。
  • ・本件において、配置転換命令当時の原告らの家族介護の状況などを考慮すれば、原告らが転勤によって受ける不利益は非常に大きいものであった。
  • ・本件配置転換命令は、通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるもので、配置転換命令権の濫用にあたり無効である。

 
として原告の主張を認めた。
 
(大阪高裁判決 平成18年4月14日)

会社が配置転換命令を出す場合の注意ポイント

(1)従業員が配置転換を拒否した場合の対処法

配置転換を命じた従業員が拒否した場合は、次の3段階に分けて対処していく必要があります。

①拒否の理由の聞き取り

まず、従業員が配置転換を拒否する理由について聞き取りをします。
 
そのうえで、従業員にとって著しい不利益を与えるものであれば、再検討をする必要があるでしょう。

②配置転換の必要性の説明

配置転換命令が違法なものでない場合は、配置転換の必要性、配置転換後の勤務条件や職務内容などについて説明して理解を求めることも大切です。
 
そのうえで、従業員を説得する必要があるでしょう。

③配置転換を拒否し続ける従業員への処分

正当な理由がないにもかかわらず、従業員が会社の説得にも応じない場合は、「懲戒処分」「退職勧奨」「解雇」などを検討する必要があります。 
ただし、従業員との間で紛争となり、処分を不服として従業員が提訴するという事態も想定されます。
 
このような場合は、労働問題に精通した弁護士に相談・依頼して、適切な対応を進めてくのがいいでしょう。
 

【関連記事】 
配転命令拒否 懲戒解雇

(2)配置転換後の従業員への対応

たとえば、従業員の適性や新たな可能性を見極めるための配置転換の場合、配置転換後に仕事に対する指導などもなく、放置したままにしていると、会社の目的を疑われてしまう可能性があります。
 
また、会社としても有益な配置転換にならないばかりか、のちに紛争となり裁判で争われた時には不利になりかねません。
 

裁判例には、配置転換後に長時間労働に加え、慣れない部署への異動で指導する人間もいない中、他の中堅社員と同様の成果の達成を求められたことで精神疾患を発症したとして争われ、会社の安全配慮義務違反が認められたものもあります。

(3)減給につながる配置転換には注意が必要

賃金の減額がともなう配置転換の場合は、従業員に通常甘受するべき程度を著しく超える不利益を与えるものとして、裁判では違法とされる可能性が高いといえます。
 

この場合も、まずは就業規則や賃金規程に業務内容や職種ごとの賃金体系を明確にしておく必要があります。

(4)能力不足の社員の配置転換の注意点

能力不足の従業員への対応として、配置転換は有効になるのでしょうか。
 

配置転換をすることで、新たな能力・適正を見出すきっかけになる場合がありますし、成長の機会となる可能性もあります。
 
労使ともに、よりよい未来を築いていくために会社は配置転換を検討するべきだといえます。
 

配置転換の検討もせずに能力不足、成績不良を理由に従業員を解雇すれば、従業員から解雇無効の訴えを起こされ、裁判では解雇回避のための努力を十分に行なっていないとして、解雇無効と判断される可能性があります。
 

いわゆる、追い出し部屋に配置転換されるなどして、従業員からパワハラに該当する行為をされたとして不法行為(民法第709条)による損害賠償請求を起される事例もあります。
 

パワハラが発生したとなると、他の従業員への影響も大きく、離職率の上昇などにつながる可能性もあるので慎重に検討し、できるかぎり回避するべきです。
 

【参考資料】:パワハラ6類型(厚生労働省)

配置転換が無効となるケースを再確認

最後に、配置転換が無効となるケースを再度確認しておきます。
 
会社として、慎重に対応していくことが大切です。

①就業規則や労働契約に配置転換に関する定めがない場合

会社の就業規則や労働契約に配置転換に関する定めがないのに配置転換命令を出し、従業員が拒否したために紛争になった場合、裁判では配置転換は無効とされる可能性が高くなります。
 

ただし、長期雇用を前提に採用された正社員については、職務内容や勤務場所を限定するような定めがなく、実際に社内で配置転換が幅広く行なわれているような場合では、配置転換が認められるケースもあります。

②専門職の従業員に配置転換を命じた場合

専門職として雇用している従業員については、雇用契約における明文規定がなかったとしても、他の職種への配置転換は無効とされる可能性が高くなります。
 

<専門職の例>

  • ・医師
  • ・看護師
  • ・弁護士
  • ・公認会計士
  • ・税理士など

③退職を促すために配置転換を命じた場合

従業員を退職させるために配置転換を命じた場合は、人事権の濫用として無効となる可能性が高くなります。
 

次のようなケースはパワハラに該当する可能性があり、従業員から不法行為(民法第709条)を理由に責任を問われ、損害賠償請求されることも考えられるので注意が必要です。
 

  • ・他の従業員から切り離すことで人間関係を断絶させる
  • ・異動先の部署で仕事を与えない、あるいは能力に見合わない簡単な仕事をさせる
  • ・逆に異動先の部署で能力を超えた過酷な仕事をさせる

④従業員にとって不利益が大きすぎる配置転換の場合

従業員が、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負う場合は、人事権の濫用として配置転換が無効となる可能性があります。
 
ただし、裁判例には配置転換が無効とされるものと、有効とされるものの両方があります。
 

配置転換が無効と判断された裁判例としては、次のものがあります。
 

家族を介護する必要がある従業員に対して、遠方の工場への異動を命じた配置転換が無効と判断された事案。
 
(大阪高裁判決 平成18年4月14日)
 

障害を持つ両親を妻や妹らと介護していた従業員に対して命じた遠方への配置転換命令が無効と判断された事案。
 
(札幌高裁判決 平成21年3月26日)

 
一方、単身赴任をともなう配置転換や、子供の保育園への送迎に支障が生じる配置転換については有効と判断された裁判例があります。
 

これまで見てみたように、従業員の配置転換にはさまざまな注意するべきポイントがあります。
 

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