社内不正があった時の会社の対応|社内不正調査
会社という組織には、さまざまな人間がかかわるため、時として不正や不祥事が起きてしまうことがあります。
社内で不正があった場合は、次のような目的で社内不正調査を実施することが重要です。
- ・事実関係の確認・調査
- ・客観的な資料(証拠)の収集と保全
- ・社内外の情報のコントロールと開示
- ・処分の検討・決定・実行
- ・再発防止策の策定と運用
社内における不正には、迅速に適切に対応することで、会社の被害を最小限に食い止めることができます。
本記事では、会社の役員や従業員による不正行為が発生した場合の対処法について、わかりやすくステップを踏みながら解説していきます。
目次
会社内で起きた不正や不祥事…
どう対応する?
社内で起きた不正や不祥事に適切に対応していくために、まず知っておくべき重要な2つのポイントについて解説していきます。
会社に関連する不正には2種類ある
会社にかかわる不正には、さまざまなものがありますが、大きくは次の2種類に分けることができます。
業務にかかわる不正
- ・横領
- ・粉飾決算
- ・逆粉飾決算
- ・背任
- ・賄賂
- ・不正取引
- ・営業秘密の漏洩
- ・データの改ざん
- ・粉飾決算
- ・不正な商品の販売
- ・セクハラ、パワハラなどのハラスメント
- ・コンプライアンス違反 など
業務とは関係ない不正
- ・交通事故のひき逃げ
- ・窃盗、万引き
- ・痴漢 など
役員・従業員の不正発覚で
会社がとるべき6つの対応
役員や従業員がかかわる、上記のような不正の情報が入ってきた場合に会社がとるべき対応は、大きく分けると次の6つになります。
- ①事実関係の確認・調査
- ②客観的な資料の収集・証拠保全
- ③情報のコントロール
- ④社外への情報開示
- ⑤処分の検討・決定・実行
- ⑥再発防止策の策定
これらの対応は通常、「社内不正調査」と呼ばれます。
企業の損害を最小限に食い止めるためには、
適切な社内不正調査が重要になります。
社内不正調査の具体的な内容と
手順を解説
ここでは、社内不正調査を実施するにあたって重要なポイントについて、ステップを踏んで解説していきます。
初動対応
まずは初期段階での初動対応として、不正行為が事実なのかを確認する必要があります。
情報収集
事実関係を正確に把握するため、経営幹部や危機管理担当者などは関係者や関係部署から情報を収集します。
今後の対応方針を決定
不正行為の内容、事実関係などを大まかに把握できたら、今後の対応についての方針を決定します。
- ・さらに調査を進めるかどうか
- ・調査を実施するなら、どこまでの範囲で行なうか
- ・社内での調査か、それとも外部の弁護士などを入れた調査か
社内に内部通報窓口を設置しており、不正の報告が窓口にあった場合は、情報が外部に漏れる(社外に告発される)可能性が大きくなります。
また、初動対応を誤るとインターネット上での炎上を招くリスクもあります。
会社の社会的な信用や企業価値が著しく低下して、取り返しのつかないことにならないよう慎重に進めていくべきです。
なお、初期の段階で次の対応を行なっておくことも大切です。
- ・不正行為が疑われる役員や従業員に自宅待機を命じる。
- ・通報者や不正行為の被害者に対して、今後の対応について説明する。
・懲戒事由の有無の調査のために自宅待機
命令を出せるか?
社内不正調査の内容と手順を
解説
さらなる調査が必要と判断した場合は、社内
不正調査を実施します。
役員や従業員の不正による企業の損害を最小限に食い止めるためには、非常に重要なプロセスになります。
①調査チームを組織する
社内不正調査を実施するためには、調査チームを組織します。
今後、調査チームの役割は不正調査だけでなく、行政機関等対応や交渉、調査結果に基づく経営改善案の策定などにもおよびます。
そのため、担当者の選出では、不正行為の当事者とは直接の利害関係がないメンバーを中心に構成します。
法務・総務・経理・人事など各部門のスタッフの他、顧問弁護士がいればメンバーに加わってもらうのがいいでしょう。
なお、不正事案の内容や性質よっては「第三者委員会」を立ち上げて、調査を行なう必要があります。
後ほど詳しく解説しますが、第三者委員会というのは、不祥事などが起きた際に原因を究明し、再発防止策の策定などを行なうために設置されるものです。
②事実関係の確認・調査
「社内不正調査」を実施し、何があったのか、どのような被害が発生しているのか、事実関係をできるだけ正確に把握していきます。
社内不正調査の重要な目的は、不正についての客観的な証拠を確保することにあります。
そこで、不正行為の当事者だけでなく、同じ部署の責任者や同僚などに対してもヒアリングを行なっていきます。
「いつ」「どこで」「どのように」、何について聞き取りをするのかを明確にしておく必要があります。
なお、現代では「デジタル・フォレンジック」も重要になっています。
IT技術の発達に伴い、現在ではパソコンなどを使用しない業務は少ない時代になっています。
その一方で、不正アクセスやデータ改ざん、遠隔操作などのサイバー犯罪の数が急増しています。
デジタルデータは消去や改変などが容易にできてしまうものであるため、証拠の保全と分析を行なう必要があり、これをデジタル・フォレンジックといいます。
【参考資料】:デジタル・フォレンジック(警察庁)
③客観的な資料の収集・証拠保全
関係者へのヒアリングと並行して、不正行為の裏付けとなる客観的な証拠となる資料を収集します。
資料には内部資料と外部資料があり、証拠には物的証拠と人的証拠(関係者の証言など)があります。
優先順位としては、会社が貸与しているパソコンや携帯電話、メールデータ、その他のデータファイルなどから始めます。
というのは、証拠隠滅を防ぐため、物的証拠のうち消去されてしまいかねないものから収集する必要があるからです。
なお、収集だけでなく保存・管理も大切なのは言うまでもありません。
役員や従業員へのヒアリング調査の音声や動画などは、証拠の確保のために記録化して保存して、一元的に管理しておくことも忘れてはいけません。
④情報のコントロール
⑤社外への情報開示
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などが発達した現代においては、情報のコントロールは最重要項目の1つです。
情報の漏洩は、会社にとって大きな打撃になりかねませんが、不正や不祥事が発生した場合に情報を開示しないというのも、現代では大きなリスクになります。
情報開示の仕方によっては、ネットユーザーなどから批判を受け、「炎上」しかねないため、誠実な謝罪を公表することで、その後の会社を取り巻く状況を好転させることもできます。
特に被害者が出ているような事案では、適切なタイミングで、必要な範囲で情報を社外に開示する(メディアを通じた公表も含む)ことが重要になります。
プレスリリースなどを作成し、情報開示をすることも検討するといいでしょう。
従業員や取引先、株主、ユーザーなどへの適切な情報開示は会社の利益になると考えるべきです。
・企業がマスコミ・ネット上で炎上した場合の対応
⑥処分の検討・決定・実行
社内不正調査の結果、役員や従業員の不正行為が事実であると認定された場合は、職務執行停止や解任、懲戒処分を検討し、決定の後に実行という流れで処分を進めていきます。
ただし会社としては、懲戒権の濫用に当たらないような法的な対応が求められます。
その後、必要であれば刑事告発や損害賠償請求の検討も行ないます。
・懲戒処分とは何か?種類は?
⑦再発防止策の策定
不正行為の全貌が明らかになったら、その結果にもとづいて、今後同じような不祥事が発生しないように再発防止策を講じます。
再発防止策の策定と公表は、企業の社会的な信頼性を回復させるために重要なポイントになります。
●不正行為の原因を分析・解明
原因の解明だけでなく、なぜ防止できなかったのかも分析する必要があります。
会社の構造、システム、体制などに問題があれば、改善策を講じます。
たとえば経費であれば、一人の担当者や役員だけでチェックするのではなく、複数人でチェックするなど「業務内容の見える化」への取り組みなども必要になります。
●役員や従業員への研修制度の立ち上げと実施
どのような行為が不正になるのか? 不正が起きた場合のリスクは? どのような刑事責任に問われるのか? といった内容について定期的な研修会の実施などを通して啓発していくことが大切です。
●管理体制の改善・構築・運用
社内規程、行動規範、業務マニュアル等を明確化して、周知徹底します。
そのうえで、管理体制に不備があれば改善し、新たに構築して運用していきます。
●内部通報窓口の設置
「内部通報制度」を整備し、社内に内部通報窓口を設置して、従業員等が組織内で発生している不正行為や違法行為、倫理違反、その他の問題点などを通報できる窓口を設置することも検討するといいでしょう。
内部通報制度とは、企業内部の問題を知る従業員などからの内部通報により、早期に是正を図る仕組みです。
【参考資料】:内部通報制度(公益通報制度)の整備・運用に関する 民間事業者向けガイドライン
(消費者庁)
・内部通報窓口・公益通報窓口を弁護士に
依頼するメリットとデメリット
社内不正調査で外してはいけない
2つの重要ポイント
第三者委員会の立ち上げ理由は
独立性・中立性の確保
社内不正調査を行なうチームを組織する場合、内部調査委員会を設置する場合もありますが、大手企業や上場企業の事案、あるいは社会的に影響力の大きい事案などの場合は、第三者委員会を立ち上げる必要があります。
第三者委員会は企業の内部者を含まず、対象企業とは利害関係のない弁護士や有識者等の3名以上から構成されます。
これは、独立性・中立性が重要なためです。
主な目的は、①原因究明、②再発防止策の検討・策定、③調査報告書の作成、などです。
第三者委員会を設立することで、対外的にも調査の透明性や客観性をアピールできるという利点もあります。
・企業の不祥事における第三者委員会とは?
内部通報者の保護は慎重に
行なう
これまで、内部通報によって多くの企業の不正行為が明らかになってきました。
その一方で、通報者への報復などが行われることもあったことから、2006(平成18)年4月に「公益通報者保護法」が施行され、2022(令和4)6月には「改正公益通報者保護法」が施行されています。
この法律には、公益のために通報を行なった従業員などが不利益な取扱いを受けることがないよう、保護をする目的があります。
これに違反すると、次のような行政措置や罰則が科されます。
●企業の規模や従業員数にかかわらず、内部通報制度を整備していない場合
⇒消費者庁による報告徴収、助言、指導、勧告の対象となり、企業名が公表される場合もある。
●報告徴収に応じない、または虚偽報告をした場合
⇒20万円以下の過料を科される場合がある。
●公益通報対応業務従事者、または公益通報対応業務従事者であった者が、正当な理由なく公益通報者を特定させる事項を漏らす行為
⇒30万円以下の罰金
また、不正行為の公益通報を行なった従業員などに対し、解雇その他の不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
- ・第3条(解雇の無効)
- ・第4条(労働者派遣契約の解除の無効)
- ・第5条(不利益取扱いの禁止)
第三者委員会や内部通報者の保護については、法的に整備する必要があるので、一度、弁護士に相談されることをおすすめします。
不正を行なった役員や従業員への
対応
不正行為を行なった役員や従業員への対応としては、主に次の3つがあります。
懲戒処分
社内規定や就業規則に基づいて、適切な処分を行ないます。
・就業規則とは何か?
懲戒処分には、軽いものから順に次のような処分があります。
- ・けん責、戒告
- ・減給
- ・降格
- ・出勤停止
- ・論旨解雇
- ・懲戒解雇 など
なお、懲戒解雇など重い処分では、対象の役員や従業員から「解雇は無効だ」「不当解雇だ」と訴えられる可能性もあります。
裁判になった場合、具体的な事情に照らして懲戒解雇処分に相当性がないとされた場合は、「懲戒権の濫用」として無効となる場合があるので注意が必要です。
損害賠償請求
役員や従業員の不正行為により会社が損害を受けた場合は、民事上の責任追求として損害賠償請求をすることが可能です。
役員に対しては、不正行為に直接関わっていなくても、監視・監督を怠っていた場合、または不正判明後に損害拡大防止を怠ったような場合も請求できます。
- ・会社が被った損害を立証する資料をもとに損害額を算出。
- ・内容証明で支払い請求書を送付。
という段取りで進めます。
なお、役員が支払いに応じない場合は訴訟を提起して、裁判を起こすなどの法的手段を検討するのがいいでしょう。
刑事告発
不正行為が悪質、会社の被害額が大きい、弁償が行なわれていない、といった場合は刑事告訴をすることもできます。
なお、刑事告訴する場合は警察に被害届を提出するか、告訴状を提出することが必要になります。
告訴状が受理されれば、警察や検察官が捜査を進めていくので、対象者に刑事罰を科したいと考える場合は告訴を検討するといいでしょう。
ただし、刑事事件として捜査が行なわれれば、マスメディアで報道される可能性があります。
また、他の従業員の仕事への士気や意欲の低下も懸念されます。
さらに、刑事告訴や損害賠償となると時間的にも経済的にもコストがかかることが考えられます。
会社としてどのように対応するかについては、さまざまなリスク・メリット・デメリットも考えて慎重に検討・判断するべきです。
役員や従業員の不正行為が発生
したら弁護士に相談してください!
ここまで、会社の役員や従業員の不正行為が発覚した場合の対応法について解説してきましたが、どうお感じになったでしょうか?
法的に専門的なことが多すぎて、とても自社内では対応できないと思われた方もいらっしゃるでしょう。
そうした場合は、まずは弁護士にご相談ください。
なお危機管理において、いつでも相談・対応できるよう、顧問弁護士を持つことも検討していただきたいと思います。
顧問弁護士を持つことのメリットとしては、次のことがあげられます。
●顧問弁護士と契約することで、
いつでも気軽に法的な相談ができて、
サポートを受けることができます。
顧問弁護士は、目の前にある法的問題やリスクを素早く解決できます。
また、ホームドクターのように自社のことをよく理解してくれるので、経営者の方が気づかない会社の問題を察知し、適切なアドバイス、対応を行なうことができます。
そのため、経営者の方は安心して事業に専念することができます。
●顧問弁護士なら、将来的なリスクの芽を事前に摘み取り、法的にトラブル防止をすることができます。
顧問弁護士であれば、何よりも優先的にあなたの代理人となって、さまざまな問題を法的に解決、サポートすることができるので、さまざまなリスクを未然に防ぐことができます。
いざという時、いつでも迅速に対応ができる顧問弁護士を持っていることは、経営者としては大きな武器を手に入れたようなものともいえます。
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