企業の不祥事における第三者委員会とは?
企業や大学、病院、独立行政法人などの法人組織、あるいは官公庁や地方自治体などで不祥事が起きた際に設置されるのが「第三者委員会」です。
第三者委員会は、独立性・中立性・公正性を確保するために、利害関係のない外部の人物で、法令・コンプライアンス・ガバナンスに関する知識や調査対象事項に関する専門的知識を有する人物から委員を構成します。
そのため、弁護士や公認会計士、大学教授などの学識経験者、IT関係の専門家などから最低3人以上が選出され、就任します。
第三者委員会では、原因究明や再発防止策の検討・策定、調査報告書の作成などを行ないます。
企業等としては不祥事の再発防止、ステークホルダーとの信頼や持続可能性の回復のためにも、第三者委員会の設置を検討、実施することが危機管理上の重要事項になっています。
そこで本記事では、第三者委員会の役割やメリット、デメリット、委員選出における注意ポイント、ガイドラインの内容、過去に起きた不祥事と第三者委員会設置の事例などについて解説します。
目次
危機管理で重要な第三者委員会の基礎知識
第三者委員会とは?
第三者委員会とは、企業や大学、病院、独立行政法人などの法人組織、あるいは官公庁や地方自治体などで不祥事が起きた際、①原因究明、②再発防止策の検討・策定、③調査報告書の作成、などを目的に設置される機関です。
不祥事の再発防止、ステークホルダーとの信頼や持続可能性の回復のためにも、第三者委員会は、あくまでも公平・公正な立場から調査・検討を行ない、最終的な調査報告書の作成と報告までを行ないます。
そのため、第三者委員会は法人や組織の内部からは独立したものでなければならず、独立性や中立性を確保するために、利害関係のない人物が委員に選出され、就任します。
なぜなら企業の場合、不祥事の調査や検討を経営陣や従業員のみで行なうと、なれ合いや隠したい心理が生まれてしまい、対応が不十分になってしまう懸念があり、社会的な信用を得られない可能性があるからです。
委員の選出について
委員の選出に規定はありませんが、通常、第三者委員会のメンバーには弁護士(顧問弁護士以外)や公認会計士、税理士、学識経験者など外部の専門家が選任されます。
原則、第三者委員会の委員は3名以上とされています。
- ①対象企業との利害関係がない人物
- ②法令・コンプライアンス・ガバナンスなどに関する知識を有する人物
- ③調査の対象事項に関する専門的知識を有する人物
第三者委員会と内部調査委員会の違いとは?
組織の不祥事を調査・検討する場合、内部調査委員会が設置される場合もありますが、第三者委員会とはどういった違いがあるのでしょうか。
第三者委員会の特徴
第三者委員会は企業の内部者を含まないため、経営陣などの協力を得られなければ適切な調査・検討を行なうことができません。
すると、調査報告書の内容や再発防止策が不十分になってしまう可能性があります。
そのため、経営陣などは第三者委員会の調査に対して積極的に協力することが必要となります。
第三者委員会では、調査により判明した事実とその評価が企業等の現在の経営陣に不利になる場合であっても、調査報告書に記載し、公表することになっています。
なお、第三者委員会の独立性を守るために、調査報告は事前非開示となっているため、公表前に企業などの経営陣が見ることはできません。
被害額が大規模であったり、大手メディアに大々的に報道された不祥事などの場合は、透明性・公正性の観点からも第三者委員会を組織するのが望ましいといえます。
内部調査委員会の特徴
通常、内部調査委員会は経営陣や監査部門を中心に、弁護士など外部の識者を加えて立ち上げられます。
そのため、社内の内部事情を踏まえた詳細な調査を行ないやすいという特徴があります。
また、第三者委員会と比較して外部委員の数が少ないため、コストを抑えられるといったメリットもあります。
一方、第三者委員会と比較すると独立性や中立性・公正性が確保されにくいというデメリットがあります。
第三者委員会の設置に関わる費用
第三者委員会の設置にかかる費用については、公費の助成などを受けることはできないため、企業が全額負担します。
なお、委員や調査担当弁護士に対する報酬は、時間制(タイムチャージ)が原則とされています。
第三者委員会のガイドラインの内容について
第三者委員会を組織する場合のガイドラインを日本弁護士連合会が策定しています。
このガイドラインでは、「第1部 基本原則」と「第2部 指針」が定められており、6つの指針が盛り込まれているので、ここではその要点について抜粋します。
第三者委員会の活動
<調査範囲>
第三者委員会は企業等と協議のうえ、調査対象とする事実の範囲を決定する。
<事実認定>
第三者委員会は各種証拠を十分に吟味して、自由心証により事実認定を行なう。
<評価・原因分析>
第三者委員会は法的評価のみにとらわれることなく、自主規制機関の規則やガイドラインなども参考にしつつ、ステークホルダーの視点に立った事実評価、原因分析を行なう。
<説明責任>
企業等は原則として、第三者委員会から提出された調査報告書を遅滞なく不祥事に関係するステークホルダーに対して開示する。
第三者委員会の独立性・中立性
<起案権の専属>
調査報告書の起案権は第三者委員会に専属する。
<調査報告書の記載内容>
第三者委員会は、調査により判明した事実とその評価が企業等の現在の経営陣に不利となる場合であっても、調査報告書に記載する。
<調査報告書の事前非開示>
第三者委員会は調査報告書提出前に、その全部または一部を企業等に開示しない。
<利害関係>
企業等と利害関係のある者は、委員に就任できない。
企業等の協力
<企業等に対する要求事項>
第三者委員会は受任に際して、企業等に次の事項を求めるものとする。
- ・企業等が第三者委員会に対して、企業等が所有するあらゆる資料、情報、社員へのアクセスを保障すること。
- ・企業等が従業員等に対して、第三者委員会による調査に対する優先的な協力を業務として命令すること。
- ・企業等は、第三者委員会の求めがある場合には、第三者委員会の調査を補助するために適切な人数の従業員等による事務局を設置すること。
- ・事務局担当者と企業等の間で、厳格な情報隔壁を設けること。
<協力が得られない場合の対応>
企業等による十分な協力を得られない場合や調査に対する妨害行為があった場合、第三者委員会はその状況を調査報告書に記載することができる。
公的機関とのコミュニケーションに関する指針
第三者委員会は、調査の過程で必要と考えられる場合には、捜査機関、監督官庁、自主規制機関などの公的機関と適切なコミュニケーションを行なうことができる。
委員等
<委員の数>
原則、第三者委員会の委員数は3名以上とする。
<委員の適格性>
- ・委員となる弁護士は当該事案に関連する法令の素養があり、内部統制、コンプライアンス、ガバナンス等、企業組織論に精通した者でなければならない
- ・委員には事案の性質によっては学識経験者、ジャーナリスト、公認会計士などの有識者を委員として加える。
その他
<調査の手法>
第三者委員会は次のような手法などを用いて、事実をより正確、多角的にとらえるための努力を尽くさなければならない。
- ・関係者に対するヒアリング
- ・書証の検証
- ・証拠保全
- ・統制環境等の調査
【参考資料】:企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン(日本弁護士連合会)
第三者委員会が設置された過去の不祥事事件ファイル
近年に第三者委員会が設置された企業等の不祥事事件には次のものがあります。
ビッグモーターによる保険金不正請求問題(2023年)
第三者委員会は、調査報告書に次のように記載した。
「──これらの崇高な理念に真っ向から反する背信行為であり、顧客の信頼を裏切って、自社の収益獲得を優先したとの非難を逃れ得ない。かような行為が繰り返されれば、いずれ保険料率の上昇を招きかねず、そうなると保険ユーザー全体の不利益にもつながるという意味で一層罪深い。」
(特別調査委員会の『調査報告書』より一部を抜粋)
日本大学アメフト部における薬物の蔓延及び大学上層部による隠蔽問題(2023年)
第三者委員会は、「学内調査が不適切だったことや、調査内容に関する理事長や学長、副学長らの対応に問題があるとして、ガバナンスが機能不全に陥っていた」と指摘した。
【参考資料】:「アメリカンフットボール部薬物事件対応に係る第三者委員会」からの調査報告書の公表について(日本大学)
ダイハツ工業車両認証試験大規模不正問題(2023年)
過去34年間にわたる認証試験での大規模不正が発覚。
【参考資料】:第三者委員会による調査報告書公表のお知らせ(ダイハツ工業株式会社)
ジャニーズ性加害問題(2023年)
日弁連が策定した第三者委員会ガイドラインにある、「不祥事の実態を明らかにするために、法律上の証明による厳格な事実認定に止まらず、疑いの程度を明示した灰色認定や疫学的認定を行うことができる」との原則が、性加害事案において適用された。
【参考資料】:ジャニーズ事務所「調査報告書」概要版全文(東京新聞)
旧ジャニーズ事務所問題に関する特別調査委員会による報告書(TBSホールディングス)
愛知県東郷町町長による町職員へのハラスメント問題(2024年)
町の第三者委員会は調査報告書で、職員などへの聴き取り内容から該当する言動が複数あったと認定し、「町政に対する悪影響を生んだと言っても過言ではない」とした。
企業等の不祥事への対応は弁護士に相談・依頼してください
ここまで、企業等の不祥事において設置される第三者委員会について解説しました。
第三者委員会には弁護士がメンバーとして参加するので、第三者委員会を設置する場合は、まず弁護士に相談・依頼されるのがいいでしょう。
企業等の不祥事で実績のある弁護士であれば、第三者委員会や内部調査委員会への参画だけでなく、不祥事対応でさまざまなサポート、アドバイスができます。
また、企業等が抱える、まだ顕在化していない問題、リスクを事前につかみ、将来的なトラブルを未然に防ぐこともできます。
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