残業代請求でタイムカードがない場合の対処法
残業代を請求するには、残業していたことを証明できる証拠が必要です。
タイムカードは残業を立証できる証拠ですが、タイムカードを設置していない会社もあるでしょう。
タイムカードがないからといって残業代請求を諦めてはいけません。
残業して働いた分のお給料は労働の対価として支払われるべきものです。
タイムカード以外にもPCのログインなど残業の記録が残っている可能性があります。
ここでは、タイムカードがない場合の残業代請求の対処法について解説します。
目次
タイムカードがないことは違法に
ならない?
そもそも会社にタイムカードを設置していないことは違法にならないのか疑問に思う方もいるでしょう。
タイムカードがないことの違法性の有無や、違法になるケースについて解説します。
タイムカードがないことは
違法ではない
タイムカードを会社に設置しないこと自体は、違法になりません。
使用者には労働者の労働時間を把握することが法律で義務付けられていますが(労働安全衛生法第66条8の3)、その方法がタイムカードでなくてはならないという法律はなく、何らかの方法で労働時間を管理していれば違法にはならないです。
厚生労働省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、労働時間の確認と記録を正確に把握する方法として以下の方法が記載されています。
- ・使用者が自ら現認することにより確認すること
- ・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
タイムカードがなくて違法に
なるケース
タイムカードがないことは違法ではないものの、場合によっては違法になることもあります。
使用者が労働者の労働時間を管理することは法律で義務付けられているため、使用者による労働時間の正しい管理が行われていなければ違法になります。
厚生労働省のガイドラインでは、やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合、適正な措置を講じれば自己申告も認められるとされています。
ただし、自己申告をする場合は以下の点に注意すべきと規定されています。
- ・自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等のガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと
- ・自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合は実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
- ・使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと
- ・36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないか確認すること
上記の点が守られていない場合、違法になる可能性があります。
・労働時間とは何か?
残業代が請求できるケースについて
タイムカードがなくても未払いの残業代がある場合は、残業代請求をすることができます。
残業代請求でタイムカードがない場合の対処法について知る前に、残業代請求できるケースなのか確認しましょう。
下記の項目に当てはまる場合、残業代請求できる可能性があります。
- ・会社の定める所定の労働時間を超えて働いているにも関わらず、残業代が支払われていない
- ・法定労働時間である1日8時間、週40時間を超えて労働したにも関わらず、超過分の残業代が割増賃金で支払われていない
- ・22時~5時までの深夜労働に、深夜労働の割増賃金の支払いが行われていない
- ・休日労働に対する割増賃金の支払いがない
- ・裁量労働制という理由で残業代が全て免除されている
- ・変形労働時間制で、1ヵ月または1年単位で見ると所定労働時間を超えている
- ・みなし残業によってどれだけ働いても残業代が一定になっている
・残業代の知識まとめ きっとあなたも損をしている !?
残業代請求でタイムカードがない
場合の対処法
残業代請求においてタイムカードは残業を客観的に立証できる証拠です。
しかし、タイムカードがない場合には、以下の方法によって残業代請求を行います。
タイムカード以外の残業を立証できる証拠を集める
残業代請求をするには、残業時間をしたという証拠が必要です。
タイムカードは残業をしたという証拠でもあり、残業時間を名確に立証できるものになります。
しかし、タイムカードがない場合は、他の証拠を集める必要があります。
「残業していたことが分かる記録」「残業時間が把握できる記録」が客観的な証拠になります。
また、「残業を指示された記録」なども証拠のひとつです。
具体的に証拠となるものには、以下のような物が挙げられます。
勤怠管理システムのデータ
近年では、タイムカードの代わりに勤怠管理システムで労働時間を管理している会社が増えています。
勤怠管理システムは、出退勤の時間をパソコンやアプリなどで管理するシステムです。
出退勤時刻や労働時間を把握できるシステムなので、タイムカードと同様に労働時間を立証できます。
パソコンのログイン・
ログアウト情報
業務で使用しているパソコンがある場合、パソコンのログイン・ログアウトデータがタイムカードの代わりになる可能性があります。
出社時にパソコンを起動し、退社時に電源を落としているのであれば、タイムカードのように労働時間を証明できます。
ただし、パソコンによってデータが残っているかどうかは異なりますし、情報の確認方法にも違いがあります。
使用しているパソコンの環境を調べ、パソコンのログイン・ログアウト情報を調べてみてください。
入退室データ
職場のビルやオフィスの入退室をIDカードで行っている場合、入退室のデータが記録されます。
入退室データがあれば、会社へ出勤した時刻と退勤した時刻を証明できます。
労働時間が記録されているものではないものの、証拠のひとつになる可能性があります。
メールの送受信記録
メールの送受信記録も労働時間を証明する証拠になる可能性があります。
なぜならば、メールを送受信している時間は労働をしていることが推認されるからです。
業務に関するメッセージの送受信記録だけではなく、メールの内容も大切です。
業務と関係のない内容のメッセージであれば労働時間内のメールのやり取りかどうかを判断できませんが、上司や同僚などと勤務に関する内容のメールのやり取りをしているのであれば、証拠になり得ます。
乗車記録
会社と自宅を公共機関で通勤している場合、交通系ICカードの乗車記録が出退勤の記録の代わりになり得ます。
ICカードの乗車記録は公共交通機関の運営会社が保有しており、アプリなどで詳細を確認できます。
また、車で移動や出退勤をしている場合、ETCカードの履歴も証拠になる可能性があります。
業務日報などの記録
業務の内容などを記録した業務日報や業務日誌といった記録がある場合、残業代請求における残業の証拠になる可能性があります。
日報に労働時間が記されていることや、業務内容から残業していることが分かることが証拠として認められます。
業務日報などの記録の原本の持ち出しができない場合には、コピーなども十分な証拠になります。
手書きのメモ
タイムカードがない場合、自身で出退勤時間や休憩時間を記録したメモも労働時間の証拠になります。
とくに勤務先の勤怠管理が行われていないような場合、自分で記録を残しておくと良いでしょう。
労働時間だけではなく、業務内容なども記録しておくと信ぴょう性が高まります。
手書きのメモは捏造や改ざんなどが疑われやすい証拠なので、日頃から詳細にメモしておくことをおすすめします。
LINEなどのメッセージ
家族や恋人、同僚などに仕事を終えて帰宅する際にメッセージを残していれば、こうしたメッセージも残業の証拠になります。
LINEなどのメッセージならば時間や日付も残っているため、労働時間を立証しやすいです。
「今から帰る」「今まで残業していた」などのメッセージのやり取りがある場合は、スクショなどをして残しておきましょう。
会社に情報の開示を請求する
タイムカードに代わる残業の記録は会社が保有しており、手元にないというケースも多いでしょう。
会社が保有する残業の証拠は、開示請求をすることで勤怠記録を開示してもらうことができます。
開示請求をする方法は、以下の2通りがあります。
内容証明郵便での請求
会社に対して内容証明郵便で勤怠記録の開示を請求すれば、会社側はその請求に応じる必要があります。
勤怠記録の開示請求と併せて残業代の請求も行うことが一般的です。
口頭や普通の書面で請求するのではなく内容証明郵便で請求する理由は、請求したという事実を客観的に記録できる手段だからです。
裁判手続きでの請求
内容証明に応じない場合や、残業代請求での交渉で相手が支払いに応じない場合は裁判手続きへ進むことになります。
裁判手続きに進めば、会社が保有する勤怠記録の提出命令を申立てることができます。
また、訴訟の前に勤怠記録の処分や改ざんが行われる可能性がある場合は、証拠保全手続きを取ることで証拠を保全します。
証拠集めで不利な状況にならないようにするために、証拠保全は重要なものです。
残業代請求をする方法
タイムカードがなくても、残業の証拠を集めることで残業代請求をすることができます。
残業代請求の方法は複数あるため、自身の状況に応じた方法で残業代請求を行いましょう。
労働基準監督署に相談する
残業代請求は、労働基準監督署に相談することができます。
残業代の未払いは労働基準法に違反するため、相談を受けた労働基準監督署は調査を行います。
調査で労働基準法違反が認められれば、労働基準監督署から会社に対して是正勧告が行われます。
是正勧告に従わなければ刑事訴追される可能性があるため、残業代を支払ってもらえる可能性があります。
ただし、労働基準監督署は弁護士のように代理人になって請求を行ってくれるわけではないため、請求自体は自身で行う必要があります。
また、残業代が発生しているかどうか、解釈に争いがある場合は支払いは期待できません。
直接交渉する
残業代請求は、まずは会社に直接交渉することから始めることが一般的です。
直接交渉が成功すれば、早期に残業代を回収できます。
会社と交渉する際には、残業の証拠を示し、法的根拠に基づいた金額を請求します。
また、請求する際には内容証明で請求を行い、残業代請求をしたという事実を証拠に残しておくことも大切です。
従業員が直接交渉をしても会社が適切な対応をしてくれないケースが多いですが、弁護士を通して内容証明で請求を行えば会社側もすぐに対応してくれる可能性が高まります。
弁護士に依頼する
残業代に関するトラブルは、弁護士に相談や依頼することができます。
弁護士に相談すれば、残業代の未払いが起こっているのかどうか判断することや、証拠集めの方法など具体的なアドバイスを得られます。
また、依頼すれば代理人として残業代請求を行ってくれるため、内容証明の送付や交渉などを任せることができます。
弁護士が介入することで会社側は法的な手続きに進む可能性があることを察し、要求に応じてくれる可能性が高まります。
労働審判を申立てる
会社との交渉が成立しない場合、労働審判を申立てるという選択肢があります。
労働審判とは、労働者と事業主の間に起こった労働関係のトラブルを解決するための手続きで、地方裁判所にて非公開で行われます。
労働審判では、裁判官と労働審判員によって審理が行われます。
まずは調停という話し合いでの解決を試みますが、合意に至らない場合には労働審判委員会による判断が下されます。
労働審判は原則として3回以内の期日で終了するため、訴訟に比べると迅速に解決を目指すことができます。
訴訟の提起
労働審判に不服があって異議申し立てを行えば、自動的に訴訟手続きへ移行します。
また、労働審判を申立てることなく最初から訴訟を提起することも可能です。
訴訟では残業があったことを立証する必要があるため、客観的な証拠の提出や、合理的な立証が必要になります。
訴訟は複雑な手続きになるため、弁護士のサポートが必要になるでしょう。
訴訟は労働審判と異なり期日の制限がないため、解決までに時間がかかる可能性があります。
・未払い残業代を取り戻すために知っておきたい6つのポイント
まとめ
タイムカードがない場合でも、残業をしていたことや残業時間を立証できる証拠があれば残業代を請求することができます。
ただし、タイムカードがない場合の証拠は会社が保有しているケースが多いため、証拠集めに苦戦する可能性があります。
そうした場合は早急に勤怠記録の開示請求を行うことや、証拠保全手続きをすることが大切です。
証拠集めや会社との交渉を自力で行うことは簡単ではないため、専門家である弁護士にご相談ください。
・残業代請求の方法と弁護士に相談すべき9つの理由