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労働審判の答弁書と陳述書の違い

最終更新日 2015年 07月30日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

 

労働審判の弁護士相談

 

はじめに

答弁書とは、労働審判を申し立てられた者(以下、「相手方」といいます。)の作成する準備書面(当事者が労働審判期日において陳述しようとする事項をあらかじめ記載して裁判所に提出する主張書面)で、労働審判手続申立書(以下、単に「申立書」といいます。)に基づく申立人の申立ての趣旨(最終的に労働審判員会に出してほしい審判主文の内容を記載する部分。

 

例えば残業代の支払を求める場合には、請求の趣旨は、「相手方は申立人に対して金○○万円を支払え」となります。)に対する相手方の答弁などを記載した最初の書面のことをいいます。

 

他方、陳述書とは、当事者本人又は証人になる第三者の見聞した事実に関する供述が記載された文書のことをいいます。

 

答弁書と陳述書とは、その役割が異なります。また、答弁書においては、記載しなければならない事項が定められているのに対し、陳述書の場合には記載しなければならない事項は定められていません。

 

役割について

答弁書は、相手方の主張が記載された書面です。これに対し、陳述書は答弁書における相手方の主張を裏付ける証拠になります。

 

労働審判では、採取的には、当事者(申立人・相手方)のいずれの主張を認めるか否かを判断することになりますが、どちらの当事者の主張を認めるかは、それぞれの主張を裏付ける証拠があるか否かによって決まります。

 

例えば、懲戒処分の無効を求めてAが労働審判を申し立ててきた場合において、相手方である会社側が答弁書において、「A(申立人)は、机をたたく、書類を投げる、社員の胸ぐらをつかむ等のパワハラ行為を繰り返しており、右申立人の行為は就業規則上の懲戒事由に該当する」との主張を行ったとします。このとき申立人Aがそのような事実はなかったと否定した場合、会社側は自身の主張する「A(申立人)が机をたたく、書類を投げる、社員の胸ぐらをつかむ等の行為を行っていた」ことを証拠をもって立証できなければ負けることになります。

 

証拠として職場の防犯カメラなど客観的なものがあれば一番よいのですが、そのような証拠がない場合には、実際に申立人Aが上記行為を行ったところを目撃した社員B、又は申立人Aに胸ぐらをつかまれた社員Cが見聞した事実に関する供述を記載した文書(陳述書)をもって、会社側が答弁書において主張した事実を裏付けることになります。

 

記載しなければならない事項について

答弁書について

労働審判の答弁書には、以下の事項を記載する必要があります(労働審判規則16条)
 ①非訟事件手続規則第一条第一項各号に掲げる事項
  -当事者及び利害関係参加人の氏名又は名称及び住所並びに代理人の氏名及び住所
  -当事者、利害関係参加人又は代理人の郵便番号及び電話番号(ファクシミリの番号を含む)
  -事件の表示
  -附属書類の表示
  -年月日
  -裁判所の表示
 ②申立ての趣旨に対する答弁
 ③申立書に記載された事実に対する認否
 ④答弁を理由づける具体的な事実
 ⑤予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
 ⑦予想される争点ごとの証拠
 ⑧当事者間においてされた交渉(あっせんその他の手続においてされたものを含む。)その他の申立てに至る経緯の概要

 

上記記載事項②は、「本件申立てを棄却するとの労働審判を求める」等の答弁を求めることになります。

 

労働審判は、3回の期日以内に事件を処理するとされているため、労働審判委員会が早期に争点を把握し、迅速適正な審理をするために、訴訟においてみられるような形式的な答弁のみを記載し、その余は追って主張するといった答弁書は許されず、上記記載事項③~⑦を記載する必要があります。

 

また、労働審判委員会が当事者双方の立場からみた紛争の経緯を把握することで、早期に実行的な解決の方向性を探ることができるように上記記載事項⑧の記載が要求されます。

 

陳述書について

陳述書は、答弁書と異なり、法律において記載しなければならない事項が定められているということはありません。

 

陳述書の記載内容は、争点となっている事実についての当事者又は第三者の見聞に関する記載が中心となりますが、答弁書には記載しにくい、細かな事実や争点とは少し離れた背景事情などを記載することもあります。

 

なお、陳述書は答弁書と異なり、そもそも提出しなければならないというものではありません。先ほど例であげました、懲戒処分の無効に関する労働審判において、申立人Aのパワハラ行為が職場の監視カメラの映像によって立証できるのであれば、社員Bや社員Cの陳述書は不要です(もっとも、客観的事実が存在したとしても陳述書を作成する場合もあります)。

 

最後に

労働審判手続の審理において提出が予定されている書面は、申立人の主張及び立証計画を記載した申立書と相手方の主張及び立証計画を記載した答弁書のみになります。そのため、答弁書は、労働審判手続において、極めて重要な意義をもちます。

 

また、答弁書の主張を裏付ける客観的証拠が存在しない場合には、陳述書は答弁書の主張を裏付けるための重要な証拠となります。

 

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