パワハラが成立する3つの要件と6つの行為
パワハラが成立する3つの要件
最近、テレビや新聞、ネットなどでパワハラやセクハラに関するニュースを見かけることが多くなったと思いませんか?
もし、「そんなことはない」と思うなら、会社の危機管理に問題があるかもしれません。
今や、パワハラ・セクハラは社会問題にもなっています。
会社内でパワハラ・セクハラが起きると、会社は大きな損害を被りかねません。
そもそも、どのような行為をパワハラというのでしょうか?
パワハラを防ぐためには、どのような行為がパワハラにあたるのかを正確に把握しておく必要があります。
厚生労働省が設置した、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」は、平成24年1月に行った報告において、パワーハラスメントを以下のように定義しています。
「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」
「職場内の優位性」には、上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、部下から上司に対するものまで、さまざまな優位性を背景に行われるものも含まれることに注意が必要です。
また、パワハラと認められるには、「業務の適正な範囲」を超える必要があります。
つまり、個人の受け取り方によっては、業務上の指示や、注意・指導を不満に感じたりする場合でも、それが業務上適正な範囲で行われたならばパワハラにはあたらないことになります。
以上まとめると、ある行為がパワハラにあたるかどうかの判断基準は次のようになります。
パワハラにあたるかどうかの基準
① 同じ職場で働く者に対して行われたか
② 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に行われたものか
③ 業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させるものか
ところで、上記要件のうち、ある行為が対象となる人に精神的・身体的苦痛を与えるものかどうかを判断するにあたっては、誰を基準とすればよいでしょうか?
裁判例では、「平均的な心理的耐性をもった人」を基準として判断すべきとしています。
「海上自衛隊自殺訴訟」(福岡高判 平成20.8.25)
護衛船に乗船中の海上自衛隊員が、上司たちから継続的に罵声を浴びせられ、そのために心理的負担を感じて自殺してしまったという事案について、「一般に、人に疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した場合には、心身の健康を損なう危険があると考えられるから、他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は、原則として違法であるというべき」であり、「心理的負荷を過度に蓄積させるような言動かどうかは、原則として、これを受ける者について平均的な心理的耐性を有する者を基準として客観的に判断されるべき」と述べて、その行為の対象となった人自身ではなく、「平均的な心理的耐性をもった人」を基準として判断すべきとした。
パワハラとなる6つの行為
パワハラにあたる行為には、具体的にどのようなものがあるでしょうか?
前述の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」の報告では、パワハラにあたる行為の類型として、大きく次の6つをあげています。
①「身体的な攻撃」
②「精神的な攻撃」
③「人間関係からの切り離し」
④「過大な要求」
⑤「過小な要求」
⑥「個の侵害」
①「身体的な攻撃」とは、言葉のとおり、いわゆる暴行・傷害行為を指します。これらは、それぞれ「暴行罪」、「傷害罪」として罰せられる犯罪行為ですから、暴行・傷害行為は業務の適正な範囲に含まれません。
②「精神的な攻撃」とは、脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言のことを指します。
③「人間関係からの切り離し」とは、ある人を隔離、仲間はずれにしたり、無視したりすることを指します。これらのうち、脅迫、名誉毀損、侮辱は犯罪行為にあたりますし、その他の行為についても、通常業務を行ううえで適正な行為とはいえませんから、原則として「業務の適正な範囲」を超えるものはパワハラにあたると考えられます。
④「過大な要求」とは、業務上明らかに不要なことや、遂行不可能なことを強制したり、仕事を妨害したりすることなどを指します。
⑤「過小な要求」とは、まったく必要もないのに、能力、経験とかけ離れて程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えないなどの行為を指します。
⑥「個の侵害」とは、対象の人について、私的なことに過度に立ち入ることを指します。
「身体的な攻撃」、「精神的な攻撃」、「人間関係からの切り離し」に分類される行為は、その内容から、「業務の適正な範囲」を超えるもの、すなわちパワハラにあたることが明らかです。
「過大な要求」、「過小な要求」、「個の侵害」に分類される行為については、それが「業務の適正な範囲」を超えるかどうか直ちに判断できない場合があります。
そのため、これらに分類されると思われる行為が行われた場合には、「業務の適正な範囲」を超えるかどうか慎重に判断する必要があります。
パワハラの類型
① 身体的な攻撃……暴行・傷害行為など
② 精神的な攻撃……脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など
③ 人間関係からの切り離し……隔離、仲間はずれにしたり、無視したりするなど
④ 過大な要求……不要、不可能な仕事の強制、仕事の妨害など
⑤ 過小な要求……不必要に程度の低い仕事の押しつけ、仕事を与えないなど
⑥ 個の侵害……私的な領域への過度の立ち入り