未払い残業代を取り戻すために知っておきたい6つのポイント
労働トラブルの中でも多いものの1つが、未払い残業代の問題です。
会社が残業代を支払わないために、あきらめてしまい、泣き寝入りをしている従業員(退職した方も含む)の方もいらっしゃるでしょう。
でも、あきらめないでください!
未払い残業代は正しく請求すれば、しっかり受け取ることができます。
- ・あなたは未払い残業代で損をしていませんか?
- ・当然、手にすることができる正当な権利を手放すつもりですか?
- ・残業代について、どこまで知っていますか?
もし、未払い残業代請求をお考えなら、まずは正しい法律知識を身につけましょう!
本記事では、できるだけわかりやすく「6つの大切なポイント」と「残業代請求の手順と流れ」を解説していきます。
目次
未払い残業代請求で知っておくべき6つの知識
ポイント①:労働基準法とは?
1947(昭和22)年、日本国憲法第27条の「労働権」の規定に基づいて制定された法律で、「労働組合法」、「労働関係調整法」とあせて労働三法と呼ばれます。
「労働基準法」は労働者と使用者の双方が守るべき重要な法律で、労働者の労働契約や労働時間、休日、賃金、安全などの労働条件の最低基準について規定しています。
ポイント②:法定労働時間とは?
原則として、会社は従業員に対し、休憩時間を除いて、1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはいけません。
これを「法定労働時間」といいます。(労働基準法第32条)
会社は、法定労働時間を超えて従業員を労働させた場合、「時間外労働」として「割増賃金」を支払わなければいけません。(同法第37条)
ポイント③:法定休日とは?
原則として、会社は従業員に対して、毎週少なくとも1日は休日を与えなければなりません。
これを、「法定休日」といいます。(同法第35条)
法定休日に従業員を労働させた場合、会社は従業員に対し「休日労働」として「割増賃金」を支払わなければいけません。
ポイント④:割増賃金とは?
午後10時から午前5時までの間に従業員を労働させた場合も、会社は従業員に対し「深夜労働」として「割増賃金」を支払わなければいけません。
これらの割増賃金を、一般に「残業代」と呼んでいます。
残業代の割増率は次のように規定されています。
- ・1か月の合計が60時間までの時間外労働、及び深夜労働⇒2割5分以上の割増
- ・1か月の合計が60時間を超えた時間外労働⇒5割以上の割増
- ・休日労働⇒3割5分以上の割増
- ・深夜労働⇒2割5分以上の割増
- ・時間外労働が深夜業となった場合⇒合計5割(2割5分+2割5分)以上の割増
- ・休日労働が深夜業となった場合⇒6割(3割5分+2割5分)以上の割増
なお、時間外労働をさせて割増賃金(残業代)を支払わなかった場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
・割増賃金の計算方法は?
ポイント⑤:36協定とは?
労働基準法第36条では、「会社は、過半数組合または過半数代表者との書面による労使協定を締結し、かつ行政官庁にこれを届けることにより、その協定の定めに従い労働者に時間外休日労働をさせることができる」と規定しています。
これを「36協定(さぶろくきょうてい・さんろくきょうてい)」といいます。
届け出をしないで時間外労働をさせた場合も、労働基準法違反として、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
・36協定とは何か?
ポイント⑥:会社に科される3つの支払い金
従業員側が「未払い残業代」による民事訴訟を起こし、訴えが認められた場合、会社は次の3つを支払わなければいけません。
未払い残業代の支払い
認定された残業代の未払い分の全額を支払わなければいけません。
付加金の支払い
裁判所が必要と認めた場合、会社側は未払い残業代と同額を上限とした「付加金」を支払わなければいけません。
会社側の違反が悪質な場合、全額が認められるケースも多くあります。
つまり、会社は未払い残業代分の2倍の金額を従業員に支払わなければならなくなるのです。
ただし、付加金は違反があったときから3年以内に請求しなければ無効となります。
これを「消滅時効」といいます。
遅延損害金の支払い
さらに、未払い残業代と付加金には利息がつくのですが、これを「遅延損害金」といいます。
利息の利率は、従業員が在職中であれば6%、退職している場合は14.6%と2倍以上になります。
法律に違反すると、会社側には刑罰が科せられ、未払い残業代の2倍以上のお金を支払わなければいけない可能性があるわけです。
消滅時効についてもう少し詳しく解説
なぜ消滅時効は重要なのか?
一定の時間が経過したために、あることの効力や権利が消滅する制度を「消滅時効」といいます。
消滅時効は債権や損害賠償請求権など、さまざまな権利に適用されますが、未払い残業代の請求権にも適用されるので、知っておくべき法的知識です。
消滅時効を援用(自己の利益のために何らかの事実を主張すること)した者は、その負担する債務が消滅します。
未払い残業代であれば、会社側が時効の成立を主張すれば、従業員の方は一切、1円も請求できなくなってしまうわけです。
未払い残業代の請求において、消滅時効がいかに重要か、おわかりいただけるかと思います。
消滅時効の期限には要注意!
前述したように、未払い残業代請求の時効の期限は3年です。
3年を過ぎると、その後は一切、未払い残業代を請求できなくなってしまうので、十分注意していただきたいと思います。
時効を完成させないための方法とは?
時効の期限が迫っていても、「交渉がなかなか進まず会社側が残業代の支払いに応じない」、あるいは「体調不良などのため交渉を延期したい」といったケースもあるでしょう。
こうした場合、時効を完成させないためには主に次のような方法があります。
会社側に債務を承認する書面(同意書)を書かせる
会社から残業代の支払いを承認する書類をもらっておけば、時効の完成が猶予されます。
会社側に内容証明郵便を送付する
内容証明郵便(催告)によって時効の完成が猶予される期間は6か月のため、6か月以内に訴訟を提起して裁判を起こす必要があります。
裁判を起こす
裁判を起こした場合、そこで時効期間の進行が止まるので、裁判が何年かかっても消滅時効が完成することはありません。
会社に未払い残業代の一部を支払わせる
時効は最後の支払いがあった時点から、また新たに進行することになります。
なお、書面などによって、残業代の支払いに関して協議を行なう旨の合意を会社側との間で取り交わした場合は、次のいずれか早い時までの間、時効は完成しないことになっています。
- ①その合意があった時から1年
- ②その合意において当事者が協議を行なう期間(1年未満)を定めた時は、その期間
時効の更新とは?
それまでの期間がリセットされることを「時効の更新」といいます。
たとえば、2年が経過した時点で更新した場合、再開した時点からまた3年後に時効期限がやってくることになります。
退職後に請求する場合の注意ポイント
在職中に残業代請求はしにくいため、退職後に請求したい方もいるでしょう。
その場合は次の点に注意してください。
- ・現在の時効は3年なので、なるべく早く請求する。
- ・「証拠」は在職中しか入手できないので集めておく。
- ・内容証明郵便を送っておけば6か月は時効完成が猶予されるが、その間に裁判などを起こす。
- ・手元に証拠がない場合は会社に請求する必要がある。
- ・会社側が証拠隠滅を図る可能性があるような場合は、裁判を起こす前に裁判所に「証拠保全手続」を申請する。
残業代請求の段取りのフロー解説
未払い残業代を請求する際の手続きについて、大まかな流れを解説します。
証拠を集める
やはり、まずは「何時から何時まで働いたのか」という証拠が必要になります。
日頃から出退勤の記録(タイムカードやデータなど)をご自身で管理し、画像を証拠としてそろえておくなどをおすすめします。
また、就業規則や雇用契約書も重要です。
就業規則と雇用契約書には通常、給与や雇用形態に関する規定が記載されているはずですし、時間外労働に対する手当に関する内容が記されていれば、未払い残業代を割り出すための重要な資料になります。
その他の証拠となる資料には、次のようなものがあります。
- ・労働条件通知書
- ・勤怠記録
- ・業務日誌
- ・パソコンのログ情報
- ・メール、LINEなどの送受信記録
- ・手帳
- ・Suica、ICOCA、PASMOなどの交通系ICカード など
残業代を計算する
残業代は、次の計算式で算定します。
なお、労働基準法では、法定労働時間を超える労働時間については1分単位で算定することが必要とされています。
そのため、残業時間を30分単位として、30分未満を切り捨てるという扱いは法律違反となります。
・残業代請求の方法と弁護士に相談すべき9つの理由
残業代を請求
会社に対して残業代の請求を行ないます。
会社側との交渉
残業代の支払いを受けるために、会社側と話し合いを行ないます。
相手方が話し合いに応じないケースなどでは、「内容証明郵便」で未払い残業代の請求書を送るなどの対応も検討する必要があります。
交渉で合意が得られたら「合意書」を作成します。
労働基準監督署に相談
合意が得られない場合は、労働基準監督署に相談するという選択もあります。
調査の結果、残業代が支払われていない場合、労働基準監督署は会社に対して勧告をします。しかし、裁判所のように支払を命じる判決を出すことはできないことを覚えておいてください。
労働審判
交渉が決裂した場合、裁判所で「労働審判」をする方法もあります。
労働審判とは、企業と個々の労働者との間の個別労働紛争について、原則として3回以内の期日で審理し、調停による解決を試み、調停が成立しない場合には労働審判を行なうという手続です。
裁判官1名、労働関係の専門的な知識経験を有する者2名の計3名によって構成される労働審判委員会によって行われます。
【参考資料】:労働審判手続(裁判所)
民事裁判
労働審判で出された裁判所の判断について争う場合は、異議申立を行ないます。
これにより、労働審判は自動的に通常訴訟に移行し、民事による労働裁判が開始されます。
裁判をするメリットの1つは、前述したように判決が出ると遅延損害金や付加金が加算される可能性があることです。
つまり、実際の残業代よりも大幅に受取金額が増額する可能性があることを知っておくべきです。
・労働審判は、裁判とは、どう違うのですか?
未払い残業代の請求は今すぐ弁護士に相談・依頼を!
ここまでお話ししてきたように、労働基準法によって従業員(労働者)の方は守られているといってもよく、だからこそ未払い残業代があるなら会社側に請求するべきだと考えます。
繰り返しになりますが、未払い残業代の請求は3年間までしかさかのぼることができません。
もし、未払い残業代請求をお考えなら、今すぐ弁護士などの専門家に相談・依頼することを強くおすすめします。