仮処分手続の内容 従業員を解雇した時の仮処分申立とはどのような手続か?(2)
目次
仮処分の申立
仮処分の申立ては、申立書を裁判所に提出して行います(民事保全法2条)。管轄裁判所は、仮の地位を定める仮処分の場合、本案訴訟の管轄となる裁判所です(民事保全法12条)。
申立は、被保全権利及び保全の必要性を疎明しなければなりません(民事保全法13条)。
ここで、「被保全権利」とは、本案訴訟によって保全すべき権利ないし法律関係のことです。
また、「保全の必要性」は、仮の地位を定める仮処分の場合、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに認められるとされています(民事保全法23条2項)。
解雇された従業員が本案訴訟において解雇の無効を争う場合、被保全債権は、労働契約に基づく従業員たる地位です。
保全の必要性については、地位保全の仮処分申立に関しては、強制執行が予定されていないため使用者に任意の履行を期待する仮処分であることや、賃金仮払いが認められれば債権者(労働者)の生活の保護は図られることなどから、保全の必要性が認められない傾向にあります。賃金仮払いの仮処分申立に関しては、労働者にとって賃金が唯一の生計の手段であることを疎明する必要があります。
具体的には、他の固定収入の有無や、預貯金等の資産の有無、直近の家計(同居家族の収入を含む)の事情等から疎明する必要があります。
仮処分事件の審理
保全処分手続の場合は、口頭弁論を行う必要はなく(民事保全法3条)、地位保全・賃金仮払いの仮処分の場合には、当事者双方が出席する審尋期日がおよそ10日から2週間に1回の頻度で開催され、おおむね3ヵ月以内に審理を終了することを目安としているため、およそ1ヵ月に1回の頻度で開催され、終了まで平均的に1年程度かかる本案訴訟と比べて、迅速に審理が行われます。
また、事実認定のための立証も、本案訴訟が証明(確認を抱かせる程度の心証のこと)を必要としているのに対し、保全処分手続の場合は被保全債権と保全の必要性についての疎明(確信ではなく、一応確からしいと認められる程度の心証のこと)で足りるとして簡易化されています。
仮処分決定
保全処分手続における裁判所の判断は決定とよばれます。
債権者の申立てを認め仮処分命令をだす場合には、債権者に担保をたてさせることもできますが(民事保全法14条)、地位保全・賃金仮払いの仮処分命令がだされる場合には、債権者である労働者の経済状態等から、無担保で仮処分命令がだされる場合が多いようです。
保全異議・取消手続
仮処分命令がだされた場合、債務者は、その命令を発した裁判所に保全異議を申し立てることができます(民事保全法26条)。
保全異議がだされた場合には、裁判所は改めて審査を行い、保全命令の認可、変更、または取り消す決定をだすことになります(民事保全法32条)。
仮処分命令をだした裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、2週間以上の一定期間における本案訴訟の提起等を命じ、それを証する書面を債権者が提出しなかった場合には、仮処分命令を取り消さなければなりません(民事保全法37条)。
また、たとえば、地位保全・賃金仮払いの仮処分の場合で、仮処分命令発令後に債権者である労働者が再就職して収入を得ることができるようになったなど事情の変更があり、保全の必要性が消滅したような場合は、債務者の申立てにより仮処分命令を取り消すことができます(民事保全法38条)。
仮処分手続における抗告
仮処分申立を却下した決定に対しては、債権者は、その告知を受けた日から2週間以内に即時抗告をすることができます(民事保全法19条1項)。