退職後に不正が判明した場合、懲戒解雇できるか?
依願退職後に不正が判明したり、懲戒処分の決定手続や不正行為の調査に時間を要している間に労働者が退職届を提出してしまったりするケースがあります。
このように退職してしまった後で不正が発覚した場合、懲戒解雇できるのでしょうか?
退職届が提出され辞職の意思表示がなされただけであれば、退職の効果が生じるまでの2週間(民法627条1項)の間に懲戒解雇処分が決定すれば、懲戒解雇できます。
しかし、2週間経過した後や、不正を知らずに使用者が退職を承認し合意解約が成立してしまった後は、その時点で雇用契約が終了してしまいますので、雇用関係にない者を解雇するということは意味のないことになります。
したがって、退職後不正が発覚したとしても、原則として懲戒解雇できないと考えます。
ただし、ここで退職した者を懲戒解雇したいという使用者側の目的の一つとしては、懲戒解雇の場合は退職金の全部または一部を不支給とできる場合があることを踏まえ、退職後に不正が発覚した場合にも退職金を不支給・減額すること、あるいは既に支払後の場合は返還請求することにあると考えます。
裁判例では、労働者が(懲戒解雇以外の理由により)既に退職した場合においても、退職金の功労報賞的性格に照らすと、当該労働者において、それまでの勤続の功を抹消する行為があったと認められるときは、使用者は、当該労働者による退職金請求の全部又は一部が権利濫用に当たるとして、当該労働者に対する退職金を不支給又は減額することができると判断しています(ピアス事件 大阪地判平成21年3月30日)。
また、会社が退職金返還条項に基づき既に支払った退職金の返還を求めた事例においては、懲戒解雇事由が明らかになった場合の退職金の返還請求については、退職金が功労報賞的な性格と賃金の後払いとしての性格を併せ有していることからすると、単に懲戒解雇事由等が存在するということだけでは直ちに退職金の返還が認められるわけではないが、労働者のそれまでの勤続の功を抹消してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に退職金の返還請求を認められるとしています(ソフトウェア興業事件 東京地判平成23年5月12日)。
なお、退職した者を懲戒処分したいという使用者側の目的には、退職金の返還等以外に、報復的な意味合いで、当該労働者が懲戒に該当する行為を行ったことを社内外に公表したいということも挙げられます。
この点については、社内的な記録に懲戒解雇相当などとして残すことは可能であると考えますが、社外にも併せて公表することは、公表の必要性や、内容の真偽、表現方法、公表範囲、当該労働者の名誉、信用に対する配慮などが必要で、場合によっては、当該労働者から名誉毀損として慰謝料を請求される可能性もあるので注意が必要です。