権利濫用にあたる場合 転勤命令ができない場合(2)
労働契約法は、労働契約に基づく権利の行使にあたっては、それを濫用することがあってはならないと規定しています(労働契約法3条5項)。
したがって、労働契約上の合意がある場合でも、配転命令が権利濫用にあたる場合には、配転命令は無効となります。
裁判例では、転勤命令が権利濫用にあたるか否かについて、「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の乱用になるものではない」と判示しました(東亜ペイント事件 最判昭和61年7月14日)。
したがって、権利濫用にあたるか否かについては、転勤の業務上の必要性があるか否か、転勤命令が不当な動機・目的をもってなされたものか否か、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものか否か、の3つの要素に基づいて判断されることになります。
転勤の業務上の必要性があるか否かについて
業務上の必要性について、裁判例では、「当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務能率の増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべき」としています(東亜ペイント事件 最判昭和61年7月14日)。
したがって、定期異動、後任補充、余剰人員の再配置、部門強化、労働者の能力不足や健康状態悪化の場合等への対応などの場合も業務上の必要性があるといえます。
転勤命令が不当な動機・目的をもってなされたものか否かについて
たとえば、経営批判に対する報復や嫌がらせのために転勤を命じたり、退職勧奨を拒否した労働者を退職に追い込むために転勤を命じたりした場合には、不当な動機・目的をもってなされたといえ、転勤命令は権利濫用にあたり無効となります。
労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものか否かについて
裁判例をみると、家族との別居を余儀なくされる一般的な単身赴任による場合等は、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益とはいえないとしています。
しかし、妻や子、両親などの家族が、介護を必要とする病気であったりするような事情がある場合には、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせると判断される可能性があるといえます。