転籍について 業務命令として出向や転籍を命じることはできるか?(2)
転籍とは、労働者が自己の雇用先(転籍元)から他の企業(転籍先)へ籍を移して当該他企業の業務に従事することをいいます。
転籍の方法としては、①A会社(転籍元)を退職し、B会社(転籍先)に就職する方法、②A会社(転籍元)とB会社(転籍先)との間で、A会社が労働者に対して有する債権債務をB会社に包括的に譲渡する方法の2つがありますが、どちらの場合でも労働者の同意が必要となります。
問題となるのは、必要とされる労働者の同意が、実際に転籍する際の個別具体的同意に限られるのか、それとも、入社時などにおける事前の包括的同意で足りるのか、という点です。
もし後者の包括的同意で足りるとすれば、実際に転籍を命じた際に労働者の同意を得られなくても、転籍を命じることができることになります。
この点、転籍は、移転先との新たな労働契約の成立を前提とするものであり、この新たな労働契約は元の会社の労働条件ではないから、元の会社が労働協約や就業規則で業務上の都合で自由に転籍を命じるような事項を定めることはできないとして、転籍については個別具体的な同意が必要であると考えられています(ミロク製作所事件 高知地判昭和53年4月20日)。
したがって、転籍の場合、特に転籍の方法が上記①の方法のように、転籍元を退職し、転籍先に就職するという場合は、原則として個別具体的な同意が必要であり、同意が得られない場合に転籍を命じることはできないと考えられます。
一方で、別の裁判例において、転籍先の企業があらかじめ明示され転籍の可能性について説明をされ同意をしており、転籍先の企業が実質的には転籍元の企業の一部門ともいえるような密接な関係にあり転籍が永年継続的に異議なく行われ、その労働条件も転籍元とほぼ同一に定められていた事案において、転籍先の労働条件等が著しく不利益であったり、同意の後の不利益な事情変更により当初の合意を根拠に転籍を命じることが不当と認められるなど特段の事情のない限り、入社の際の包括的同意を根拠に転籍を命じることができるとしたものもあります(日立精機事件 千葉地判昭和56年5月25日)。
以上から、例外的に、事前に転籍先企業が明示されて労働者が同意がある場合に、転籍元と転籍先との関係や、会社の人事体制として永続的に行われてきたか否か、転籍後の労働条件の変更の有無等を総合的に考慮し、入社時の事前の同意によって転籍を命じることが有効と認められる場合があるといえますが、転籍においては、原則として労働者の個別的な同意を得ることが必要であると考えるべきでしょう。