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適法な解雇と不当解雇の判断基準

最終更新日 2022年 06月27日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠


解雇は、使用者と労働者のあいだでトラブルの原因となりやすいものです。
 
むろん、解雇そのものが悪いというわけではありません。ですが、法に則った解雇をおこなうためには、守るべき基準と手順があります。

本記事では、解雇に関する法の定め、および、適法な解雇と不当解雇の判断基準について、実際の裁判例も含めて、ご説明します。

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解雇とは

解雇とは、ひとことで言えば、使用者が労働契約を一方的に終わらせることです
 
とはいえ、使用者が自由に労働契約を終わらせて、労働者を辞めさせることが許されているわけではありません。

解雇について、労働契約法第16条には、以下のように明記されています。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」

 
つまり、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当ではない解雇は、権利の濫用であるとして、無効と判断されるのです。

解雇が適法であるか不当であるかは、客観的に合理的な理由があるか否か、社会通念上相当であるか否かが、判断基準となります。

たとえば、勤務態度が悪いなど、労働者に非があって解雇するにしても、一度の失態でただちに解雇が認められるものではありません
労働者の行為の内容や、会社が被った損害の大きさなど、さまざまな事情を考慮して判断しなくてはならないのです。

期間の定めのある労働者についても、
やむを得ない事由がないかぎり、契約期間が満了するまで解雇はできないと定められています。

期間の定めのある労働者は、期間の定めのない労働者と違って解雇されやすいと思われているかもしれませんが、そんなことはありません。
期間の定めのない労働者よりも、解雇の有効性が厳しく判断されます。

有期労働契約をくりかえし更新しており、実質的には無期労働契約と変わらないとみなされるときは、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当でなければ、雇い止め(労働契約を更新しないこと)は認められません。

解雇の事由は、就業規則に記載しておかなくてはいけないとされています。念のために、会社の就業規則に目を通しておいたほうがよいでしょう。

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解雇制限とは


一定のケースに該当する労働者については、法律で解雇が禁止されています。これを解雇制限と呼びます。

解雇制限の対象となるのは、たとえば、以下のようなケースです。

  • ・労働者が業務上の負傷や疾病のために療養している期間と、その後30日間の解雇
  •  

  • ・労働者が産前産後の休業を取得している期間と、その後30日間の解雇
  •  

  • ・労働者が労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇
  •  

  • ・労働者が公益通報をしたことを理由とする解雇
  •  

  • ・労働者が労働組合の組合員であること、あるいは、労働組合の正当な行為をおこなったことなどを理由とする解雇
  •  

  • ・労働者の性別・国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇
  •  

  • ・女性労働者が結婚・妊娠・出産したこと、あるいは、産前産後の休業を取得したことを理由とする解雇
  •  

  • ・労働者が育児休業・介護休業の取得を申し出たこと、あるいは、育児休業・介護休業を取得したことを理由とする解雇
  •  

 
これらに該当する解雇は、不当解雇ということになりますので、認められません。
ただし、解雇制限の対象であっても、例外として、解雇が認められる場合もあります。この場合も、所轄の労働基準監督署長の認定を受けなければならないとされています。
 
・労働者が業務上の負傷のために療養中だが、使用者が打切補償を支払う場合
・天災事変などのやむを得ない事由のために、事業の継続が不可能となった場合

解雇予告とは


解雇制限に該当せず、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である解雇であっても、守らなくてはいけない解雇の手順があります。
 
それが解雇予告です。原則として、解雇には事前の予告が必要であると定められています。

労働基準法第20条には、以下のように明記されています。

「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」

「予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。」

 
たとえば、次のような解雇予告は、適法だと言えます。
 

解雇予告の例
・労働者に解雇を予告したのが解雇予定日の31日前
・労働者に解雇を予告したのが解雇予定日の15日前で、15日分の平均賃金を解雇予告手当として支払う

 

逆に、次のような解雇予告は、適法とは言えません。

解雇予告の例
・労働者に解雇を予告したのが解雇予定日の15日前で、解雇予告手当を支払わない

 
期間の定めのある労働者に関しても、有期労働契約を3回以上更新している場合や、1年を超えて継続勤務している場合には、30日前までの解雇予告が必要であるとされています。

一方で、この解雇予告をおこなわずに解雇することが認められている労働者もいます。下記に該当する労働者については、解雇予告が不要とされています。

解雇予告なしで解雇が認められている労働者
・日々雇い入れられる者
(雇用が継続して1か月を超えない場合に限る)
・2か月以内の期間を定めて使用される者
(雇用が契約期間を超えない場合に限る)
・季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者
(雇用が契約期間を超えない場合に限る)
・試用期間中の者
(雇用が継続して14日を超えない場合に限る)

 
また、所轄の労働基準監督署長の認定を受ければ、例外として、30日前の解雇予告や解雇予告手当の支払いが免除される場合があります。
 
・天災事変などのやむを得ない事由のために、事業の継続が不可能となった場合
・労働者の責に帰すべき事由により解雇する場合

解雇とは似て非なる退職勧奨とは


解雇とよく似たものに、退職勧奨があります。退職勧奨とは、その名のとおり、使用者が労働者に「退職してくれないか」と勧めることです。

解雇が、使用者が労働契約を一方的に終わらせることであるのに対して、退職勧奨については、労働者には拒否する権利が認められています。

辞めたくないのであれば、自分の意思で退職を拒むことができるのです。この場合は、退職勧奨には応じないという意思表示を、はっきりすることが重要です。

退職勧奨は、客観的に合理的な理由があるかどうか、社会通念上相当であるかどうかは、問われません。この点は、解雇とは大きく異なると言えるでしょう。

むろん、退職勧奨に応じるのも、労働者の自由です。会社が退職勧奨して、労働者が同意して退職することには、なんら問題はありません。

ですが、労働者が退職を拒否しているにもかかわらず、くりかえし退職勧奨をおこなったり、退職勧奨に応じるよう強要したりしたときは、違法な権利侵害に該当することもあります。

退職勧奨に応じるにしても断るにしても、その場で即答する必要はありません。その場の雰囲気や勢いで結論を出したりしないよう、慎重に対応することをおすすめします。

ちなみに、退職勧奨に応じて退職しても、自己都合による退職という扱いにはなりません。

整理解雇とは

長引くコロナ禍の影響から、会社が経営悪化に陥り、解雇や雇い止めをされた労働者も少なくありません。

このように、不況や経営不振などの理由から、会社が人員削減のためにやむを得ずおこなう解雇を、特に整理解雇と言います。

整理解雇であっても、解雇制限は適用されますし、客観的に合理的な理由があるか、社会通念上相当であるかが、問われます。

そして、整理解雇に関しては、満たすべき要素が4つにまとめられています。俗に、整理解雇の4要素と呼ばれるものです。
 
人員削減の必要性
 不況や経営不振など、人員削減をしなければならない経営上の必要性が、客観的に認められるかどうか。
 
解雇回避の努力
 労働者の配置転換や出向、希望退職者の募集など、整理解雇を回避するために、会社が最大限の努力をしたか。
 
人選の合理性
 整理解雇の対象者は、勤続年数や年齢などの客観的・合理的な基準で選ばれたか。また、その基準に沿って、公正に運用されたか。
 
解雇手続の妥当性
 整理解雇の必要性や時期・規模・方法・人選の基準などについて、労働者の納得を得るための説明や協議をじゅうぶんにしたか。
 
以上の4要素が不十分である整理解雇は、不当解雇ということになります。
単に会社の経営が悪化したからという理由だけで、好き勝手に解雇をしていいわけではないのです。

【関連動画】

解雇をめぐる裁判例


参考例として、解雇をめぐる裁判例を5件ご紹介します。
 
解雇の是非は、一律に論じられるものではありません。適法であるか不当であるかは、あくまで、個別に判断されるものです。
だからこそ、解雇が適法であるかどうかを考えるうえで、実際の裁判例は、ひとつの判断材料になるでしょう。

5件とも、解雇された、あるいは、退職させられた労働者が、解雇や退職を無効とする訴えを起こしたケースです。

日本ストレージ・テクノロジー事件

業務遂行能力が著しく低く、勤務態度も不良であり、改善されなかったという事由から、解雇された。
  ⇒解雇が有効であると判断

客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当であったとして、解雇が有効と判断された理由は、下記のようなものです。

・担当する業務の遂行に必要な能力を著しく欠いており、業務上のミスをくりかえし、顧客などから苦情が相次いだにもかかわらず、上司の注意に従わなかった。

・上司の指示に従わず、また、何度も指導・注意を受けたにもかかわらず、勤務態度を改めなかった。

セガ・エンタープライゼス事件

労働能率が劣り、向上の見込みがない、自己中心的で協調性がないなどの事由から、解雇された。
  ⇒解雇が無効であると判断

無効が認められた理由は、下記のようなものです。

・当該労働者が、従業員として平均的な水準に達していないというだけでは解雇事由として不十分であり、ただちに解雇が有効となるわけではない。

・さらなる体系的な教育・指導をすることで、労働能率を向上させる余地もあるため、労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでは言えない。

ナショナル・ウエストミンスター銀行事件

業務部門の廃止に伴う、特別退職金を支給しての退職勧奨も、関連会社への職務転換も拒否。再就職までの人材紹介会社の金銭的援助を約束され、解雇された。
  ⇒解雇が有効であると判断

解雇権の濫用とは言えないとして、解雇が有効と判断された理由は、下記のようなものです。

・賃金水準を維持したままの配置転換ができず、雇用の継続が不可能であったため、解雇には合理的な理由があったと認められる。

・当面の生活の維持や、再就職の便宜をはかるために、相応の配慮がおこなわれた。また、解雇せざるを得ない事由について、約3か月にわたって7回説明があり、銀行は誠意をもって対応していたと言える。

ワキタ事件

部署の余剰人員化に伴い、業績不振・業務量の減少という事由から、パートタイマーが解雇された。
  ⇒解雇が無効であると判断

解雇権の濫用であるとして、無効が認められた理由は、下記のようなものです。

・他部署に配置することも可能であるにもかかわらず、配置転換の提示も退職勧奨もしていない。

・解雇回避の努力を尽くしたとは言いがたく、社会通念に反するものであり、パートタイマー就業規則に定められた解雇事由に該当しない。

学校法人徳心学園(横浜高校)事件

懲戒解雇を示唆されたため、勧められるままに退職願を提出。その後、撤回が認められず、合意退職とされた。
  ⇒合意退職が無効であると判断

解雇権の濫用であるとして、無効が認められた理由は、下記のようなものです。

・そもそも、懲戒解雇に該当する事由がなく、懲戒解雇の可能性がなかった。

・懲戒解雇になると誤解して退職願を提出したので、その退職の意思表示には動機の錯誤がある。

まとめ

繰り返しになりますが、解雇が適法であるかどうかは、さまざまな事情を勘案して、判断されることになります。

不当解雇をされたり、不当解雇を甘んじて受けいれたりしないためにも、解雇に関する正しい知識を持っておくことは、大切です。

とはいえ、この解雇が適用なのか不当なのか、判断に迷うことも多いでしょう。そういうときは、弁護士などの法律のプロフェッショナルに相談することをおすすめします。
「弁護士に相談させてください」「弁護士に相談しています」という発言が、会社に対する抑止力として、効果を発揮することもあります。

労働者にも、自分の雇用は自分で守るという気持ちが必要です。
解雇にまつわる決断は、くれぐれも慎重におこないましょう。

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