商標とは何か?企業が知っておくべき基礎知識
商品名やサービス名、ロゴ、キャッチフレーズなど、企業が自社の商品やサービスを他社のものと区別するために使用するマークやネーミングなどを「商標」といいます。
商標は自社の財産ですから、自社の利益を守るためには商標登録をする必要があります。
商標登録をすることで、企業は次のようなメリットを得ることができます。
- 自社の商標としての独占権を得ることができる
- 他社の模倣や使用を防御できる
- ブランド価値を向上させることができる
ただし、商標登録にはさまざまな条件や区分があるため、出願の際は専門家のサポートを受けることも検討していただきたいと思います。
本記事では次のテーマを中心に、商標と企業の利益についてお話ししていきます。
- 「商標」と「商標権」の概要と役割
- 「商標登録」をすることで得られる
メリット - 商標登録の出願方法と注意するべき
ポイント - できるだけ迅速に商標登録するために
大切なこと
ぜひ最後まで読んでいただき、商標登録の正しい知識を得て、今後の企業活動に役立てていただきたいと思います。
目次
企業が知っておくべき
「商標」についての基礎知識
商標とは?
企業(事業者)が、自社の商品やサービスを他社のものと区別するために使用するマーク(標章・識別標識)やネーミングなどを「商標」といいます。
「商標法」では、次のように定義されています(第2条1項)。
「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状、もしくは色彩またはこれらの結合、音その他政令で定めるもの。」
具体的には次のものなどが該当します。
- 商品名
- ロゴ
- サービス名
- キャッチフレーズ など
なお、2015(平成27)年4月の商標法改正からは上記のものに加え、次のものも商標法の保護対象として認められるようになっています。
- 色彩のみ
- 動き
- 音
- ホログラム など
商標の役割とは?
消費者が商品を選択する際に損をしないために、また各企業が経済活動を円満に行なっていくためには、商品やサービスに触れたときに、
- その商品やサービスは、誰が製造・提供したものなのか。
- その商品やサービスの質としては、
どのくらいのものが期待されるのか。
といったことがわかるシステムが必要です。
そのための商標としての役割には次のようなものがあります。
商品・サービスの識別
消費者が商品やサービスを識別し、購入する際の目印としての役割。
出所表示
どの企業の商品・サービスなのかを特定する役割。
品質保証
すでに認知度や信頼性のある商品と同じ商標が表示されているものは、一定の品質が保証されているという信頼を消費者に与える役割。
ブランドイメージの構築
企業のブランドイメージを形成し、顧客のロイヤリティ(企業に対する信頼や愛着)を高める役割。
消費者が商品を購入したり、サービスを利用する際、安心・安全で品質のいいもの、自分が好きなものを「商標」を目印の1つとして選択しているでしょう。
また企業は、これまでの商品開発や営業努力などによって消費者の信頼を得て、価値を積み重ねていくことでブランドを構築してきています。
そのブランド力の証明の1つが、商標になります。
このように、商標は顧客と企業の双方にとって重要な指標となる役割があるのです。
【参考資料】:知っておかなきゃ、商標のこと!商標を分かりやすく解説!(政府広報オンライン)
商標権とは?
企業にとって、商標は自社の財産であり、自社の利益を守るためには、商標を守る必要があります。
そこで、商標を守るのが「商標権」という知的財産権です。
- 商標権を得ると、自社の商品やサービスについて商標を独占的に使用することができる。
- 商標権の効力は、同じ商標や商品・サービスだけでなく、類似する範囲にもおよぶ。
- ただし、著作権のように書籍や映像作品を創作したときに自然に発生する権利ではない。
- 商標権は、特許庁へ商標を出願して商標登録を受けることで取得することができる。
これにより、商標を自社の財産として使用することができるようになり、他人に模倣されたり、勝手に使用されたりすることを防ぐことができます。
商標権の発生と効力について
商標権の発生
商標権が発生するには、次のような手順を踏む必要があります。
- 特許庁に商標登録出願
- 審査を経て登録査定
- 登録料を納付
- 商標登録原簿に設定の登録がなされる
- 商標権が発生
商標権の効力
- 商標権者は、指定商品または指定役務(サービス)について登録商標を使用する権利を専有します(第25条)。
※これを商標権の効力の「専用権」といいます。 - 他社による、その類似範囲の使用を排除することができます(第37条)。
※これを商標権の効力の「禁止権」といいます。 - 商標権者は、権利を侵害する者に対して、侵害行為の差し止めや、損害賠償等を請求することができます。
- 商標権の効力は、日本全国におよびます。
ただし、外国にはおよばないため、外国で事業を行なう場合は、その国での権利を取得することが必要です。
自社の商品やサービスに使用する商標を商標登録しないでいると、競合他社が商標登録をしてしまう可能性があります。
その場合、自社の商標だと思って使用していたものが、他社の商標権の侵害になってしまうため、他社から商標権侵害で訴えられたり、損害賠償を請求されたりするリスクを抱えてしまうことになります。
逆に、商標登録をしておくことで、他社の商標権侵害に対して、差止請求や損害賠償請求などの法的措置をとることができます。
このようなリスクを回避し、メリットを得るためにも自社の商標は登録しておくべきです。
【参考資料】:商標権の効力(特許庁)
商標権の効力がおよばない範囲
次の場合のように、商標権の効力の影響が一律におよんでしまうと、円滑な経済活動に支障を来すと考えられるケースでは、商標権の効力はおよばないようになっています。
自己の氏名・名称等を普通に
用いられる方法で表示する場合
自己の会社名と同一の登録商標がすでにあった場合でも、自己の会社名を示すものとして使用する範囲においては、商標権侵害にはなりません
商品または役務(サービス)の
普通名称・品質等を普通に
用いられる方法で表示する場合
商品やサービスの普通名称や品質を表す文字などが、すでに登録されている場合であっても、商品やサービスの普通名称や品質を表すものとして使用する範囲においては、第三者も自由に使用することができ、商標権侵害にはなりません。
なお、その他の、商標権の効力がおよばない範囲については、「商標法第26条」を参照してください。
【参考資料】:商標法(e-GOV法令検索
商標登録の役割・メリット・条件
などを解説
商標登録で得られる
3つのメリット
商標登録をすることには、次のようなメリットがあります。
自社の商標としての独占権を
得ることができる
商標登録をすることで、指定した商品・サービスについて、登録商標を独占的に使用する権利(商標権)が与えられます。
そのため、安心して商標を使うことができ、他社との差別化を図ることもできます。
他社の模倣や使用を防御できる
自社の商標を、他社が勝手に無断使用したり、模倣した類似商標を使用することから防御することができます。
他社からの商標権侵害に対しては、差止請求や損害賠償請求などの法的措置をとることができます。
ブランド価値を向上させる
ことができる
商標登録をした自社の商標を見て、消費者は安心して商品やサービスを選ぶことができます。
そのため、商標登録は企業に対する信用やブランド価値を高める効果があります。
商標登録のための条件
商標登録が認められるためには、次の点を満たす必要があります。
- 事業者が自己の業務に係る商品・サービスに使用するマーク(識別標識)であること。
- 自己の商品・サービスと、他人の商品・サービスとを区別できること。
商標の種類
商標登録できるものには、次のような種類があります。
商標の種類 | 内容 |
---|---|
文字商標 | 文字(カタカナ、 ひらがな、漢字、 ローマ字、数字等)のみ からなる商標。 |
図形商標 | 写実的なものから 図案化したものや、 幾何学的模様等の 図形のみから 構成される商標。 |
記号商標 | 暖簾(のれん) 記号、文字を 図案化して 組み合わせた記号、 記号的な紋章など。 |
立体商標 | キャラクター、 動物等の 人形のような 立体的形状からなる 商標。 |
結合商標 | 異なる意味合いを 持つ文字と文字を 組み合わせたもの、 文字、図形、記号、 立体的形状の 2つ以上を 組み合わせた もの など。 |
音商標 | 音楽、音声、 自然音等からなる 商標で、 聴覚で認識される もの。 テレビCMで 使われる サウンドロゴ、 パソコン等の 起動音などが 該当する。 |
色彩のみからなる商標 | 単色または 複数の色彩の 組合せのみから なる商標 (図形等に色彩が 付されたもの ではない商標) であって、 輪郭なく 使用できるもの。 商品の包装紙や 広告用の看板など、 色彩を付する 対象物に よって 形状を問わず 使用される色彩が 該当する。 |
ホログラム商標 | 文字や図形等が ホログラフィーや、 その他の方法により 変化する商標。 |
位置商標 | 図形等を商品等に 付す位置が 特定される商標 |
動き商標 | 文字や図形等が 時間の経過に ともなって変化する 商標。 テレビや パソコン画面等に 映し出されて 変化する文字や 図形等が該当する。 |
商標権は、文字や図形などの「マーク(識別標識)」と、そのマークを使用する商品・サービスとの組合せで1つの権利となっています。
そのため、マークだけで商標登録することはできません。
なお商標権は、マークと商品・サービスの組合せからなるものであるため、同じような商標が2つ以上あったとしても、商品やサービスが異なれば登録できる可能性があります。
【参考資料】:「2022年度知的財産権制度入門テキスト 第4節 商標制度の概要 商標とは」(特許庁
商標登録できないものとは?
一方、出願をしても商標登録できないと判断されるものもあります。
商標は、自社の商品・サービスと他社の商品・サービスとを区別するために用いられるものだからです。
次に代表的な例をあげておきます。
自己と他人の商品・
役務(サービス)を
区別することができないもの
商品やサービスの普通名称、産地、販売地、品質、特徴等を表示するにすぎない商標は、「他人の商品・サービスと区別する」という商標本来の機能を発揮しないため登録できません。
たとえば、自社が指定した野菜に「北海道」の文字や地図の図形などを表示して登録しようとした場合、他社の商品と区別することができない、また単に野菜の産地を表しているとしか思えないといった理由で登録はできません。
公益に反する商標
- 国旗と同一または類似の商標、公序良俗を害するおそれがある商標(きょう激・卑わいな文字・図形、人種差別用語等)は登録することができません。
- 商品やサービスの内容について誤認を生じるおそれがある商標(「ビール」に「○○ウィスキー」、「コーラ」に「〇〇茶」という商標など)は登録することができません。
- 公益的な団体や事業などを表す著名なロゴや名称と同一、あるいは類似する商標は、一個人や一企業が独占することは適当ではないため登録できません。
他人の商標と紛らわしいもの
他人の登録商標と同一、または類似の商標であって、商標を使用する商品・サービスが同一、または類似であるもの(紛らわしいもの)は登録することができません。
マークが同一・類似である、指定商品・サービスも同一・類似である、という2つの要素がそろった場合は、紛らわしい商標になるため登録できません。
なお、指定商品・サービスが同一・類似でなくても、有名な商標と誤認や混同を起こすと考えられる場合も登録できません。
自己の業務に使用しないもの
基本的に、登録できる商標は、自分が使用する、または使用する意思がある商標になります。
指定商品・サービスが
明確でないもの
指定商品・サービスの表示は権利の範囲を確定する必要があるため、明確なものでないと登録できません。
【参考資料】:事例から学ぶ 商標活用ガイド(特許庁)
商標権の存続期間
商標権は、一度登録したら永遠にその権利が存続するわけではなく、存続期間の規定があります。
- 商標登録がなされた日(設定の登録日)から「10年間」(商標法第19条)です。
- ただし、特許権などとは異なり、商標権の存続期間は更新が認められています。
- 更新後の存続期間も、更新前と同様に10年です。
- 存続期間の更新は何度でもできます。
- 更新時には、新規登録時と同様に商標権の登録料を納付する必要があります。
商標登録ができるのは
誰なのか?
商標登録は個人でも可能か?
起業する前に、「いいネーミングを思いついたので、先に他社に登録されてしまう前に自分で商標登録したい」と考える方もいらっしゃるでしょう。
この場合、企業でなくても、個人名義での商標登録の出願は可能です。
民法で定める「権利能力」(権利を取得したり、義務を負ったりすることのできる地位・資格のこと)を有する者の商標登録の出願であれば、受けつけられます。
法的に、権利能力を有するのは自然人(人間・個人のこと)と法人になります。
法人でない団体は出願できない
商標登録は、株式会社や合同会社などの営利法人も、社団法人や財団法人などの非営利法人も、規模の大小にかかわらず出願することができます。
一方、同好会や町内会などの権利能力を有しない団体は出願することはできません。
外国人も出願は可能
日本国内に住所、居所があれば、外国人の方も出願は可能です。
また、パリ条約に加盟している国の国民や、その国に居住する外国人であれば、日本国内に居住していなくても商標登録に出願可能です。
商標登録の出願の手順と
注意ポイント
商標登録を受けるためには、特許庁に商標登録の出願をする必要があります。
ここでは、その流れを簡単に説明します。
商標登録の手続きの5ステップ
- ロゴマークやネーミングを考案
- 商標登録する商品・サービスを指定
※商標をどのような商品・サービスに
使うかも指定します。 - 類似の登録商標がないか調査・確認
- 出願書類の作成・特許庁へ出願
※出願手数料
(3,400円)+(区分数 × 8,600円)
が必要。
※紙で出願した場合は 出願手数料に
加えて電子化手数料
(2,400円 + 枚数 × 800円)
が必要になります。
※上記は、2025年8月時点での金額。 - 審査結果を待つ
※通常、出願してから約6~7か月程度
かかります
商標登録の出願で注意するべきポイント
商標を使う商品・サービスの
区分に要注意
自社の商品やサービスを商標登録する際は、どの区分に該当するかを記載する必要があります。
この区分は、1類から45類まであり(1類から34類までが商品、35類から45類までがサービス)複雑なうえ、記載が明確でないと登録が拒否される可能性があるので注意が必要です。
【参考資料】:類似商品・役務審査基準(特許庁)
類似商品・サービスの登録が
あるか必ず調査する
すでに似たような登録がされているかどうかは、次の特許情報プラットフォームから検索することができるので、事前に調べておく必要があります。
【参考資料】:商標検索(J-PlatPat)
出願方法は3種類
商標登録の出願方法には次の3種類があります。
- インターネット出願
- 紙の書類で特許庁の窓口に出願
- 紙の書類を特許庁に郵送して出願
紙出願の場合は、出願時に加え、特許庁に書面を提出するたびに書面を電子化するための手数料がかかってしまいます。
そのため現在では、インターネット出願が便利だと思います。
【参考資料】:電子出願ソフトサポートサイト(特許庁)
紙での出願の場合は、こちらを参考にされるとよいでしょう。
【参考資料】:商標登録出願書類の書き方ガイド(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)
登録料の支払いは30日以内
特許庁の審査官が登録可能と判断すると、「登録査定」という書類が届きます。
登録料の支払い期限は、登録査定を受け取ってから「30日以内」となっています。
登録料は10年分を一括で納付する場合は、1区分当たり32,900円、複数の区分を設定した場合、32,900円×区分数になります。
なお、5年分を分割して納付する場合は、1区分当たり17,200円になります。
※上記は、2025年8月時点の金額。
登録料を支払うと、商標登録が完了します。
拒絶理由書が届いたら
どうすればいいのか?
商標登録できない理由がある場合は、特許庁から「拒絶理由通知」が届きます。
ただし、拒絶理由通知は、商標登録が認められないという最終結果ではないことに注意してください。
通知の内容を踏まえて、自社の意図や出願内容についての意見を述べたり(意見書の提出)、指定商品・サービスを修正したり(手続補正書の提出)することで拒絶理由を解消できれば、登録は可能になります。
【参考資料】:お助けサイト~通知を受け取った方へ~(特許庁)
商標登録の検討は早めに行なう
日本の商標権の場合、特許庁に最初に書類を提出した人が権利を取れる「先願主義」を採用しています。
商品やサービスの商標権を取ろうとした時、すでに他社が登録済みの場合は商標登録できないことになるので、商標登録の検討はできるだけ早めに行なうのがいいでしょう。
【参考資料】:初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~(特許庁)
【参考資料】:商標審査官が教えます 商標出願ってどうやるの?(特許庁)