会社の営業秘密の漏洩への対処法
企業の業種、業態によって、社内にはさまざまな「営業秘密」があります。
「顧客情報(名簿)」「取引先情報」「接客・販売マニュアル/ノウハウ」「製造方法・技術」「設計図面」「研究成果」など、どれも企業にとっては重要な情報です。
近年、これらの営業秘密の漏洩が後を絶たず、問題になっています。
従業員や退職者、外部者などによる営業秘密の漏洩は、不正競争防止法で禁止されているもので犯罪になります。
企業は早急に防衛策を講じる必要があるのです。
本記事では、営業秘密の漏洩と不正競争防止法の内容、禁止されている行為、科せられる罰則から防衛策までを、近年の摘発事例も交えて解説します。
目次
営業秘密の漏洩と不正競争防止法に関する3つのポイント
営業秘密とは?
それぞれの会社は、企業の業種、業態によって、さまざまな「社外秘」の情報を持っています。
こうした情報は事業活動を行なっていくうえで重要・有用なものであり、企業があえて秘密にしているので、「営業秘密」と呼ばれます。
営業秘密には次のようなものがあります。
- ・顧客情報(名簿)
- ・取引先情報
- ・接客・販売マニュアル/ノウハウ
- ・仕入れ価格
- ・クレーム情報 など
<技術情報>
- ・製造方法・技術
- ・設計図面
- ・研究成果
- ・実験データ など
<その他>
- ・ビジネスモデル
- ・人事・財務情報 など
不正競争防止法に違反した場合のペナルティとは?
通常、社内の情報を持ち出すことは、就業規則に明記された社内ルールの違反となる行為です。
しかし、上記のような企業活動に重要な情報¬=営業秘密が社外に漏洩した場合、企業は大きな損失を被る可能性があります。
そこで、不正に利益を得る目的や、営業秘密保有者に損害を加える目的で行なう営業秘密の漏洩や不正コピー、ブランド表示の盗用・形態模倣などを禁止し、不正競争の防止、不正競争に関わる差し止めや損害賠償などの措置について定めた法律が「不正競争防止法」です。
第1条(目的)
この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
不正競争防止法における営業秘密に関する規律に違反する行為は犯罪であり、刑事事件においては「営業秘密侵奪罪」となり、次の罰則が科されます。
「10年以下の懲役、もしくは2000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。」(第21条)
※法人の場合は、5億円以下の罰金。
※海外での不正使用目的(海外企業への情報漏洩)の場合は、個人では10年以下の懲役、もしくは3000万円以下の罰金、法人の場合は10億円以下の罰金。
また、民事においては多額の損害賠償の責任が発生する可能性があります。
【参考資料】:不正競争防止法の概要(経済産業省)
営業秘密の3つの要件とは?
企業の営業秘密の種類は、それぞれの会社の事業内容や業態、業種・業界などによっても違ってきます。
また本来、日常的に使うべき情報なのに、カギをかけた金庫にしまっておくような状態にしていてはとても不便ですし、従業員が使えないようでは宝の持ち腐れになってしまいかねません。
そこで、不正競争防止法で保護される営業秘密には、3つの条件が設定されています。
つまり、すべての営業秘密が不正競争防止法で保護されるわけではないことに注意が必要です。
第2条6項
この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
非公知性
保有者の管理下以外では一般的に簡単には入手できない、公然と知られていない情報であること。
たとえば、新聞・雑誌等の刊行物やネットなど、合理的な努力の範囲内で入手可能な媒体に記載されていないもので、企業や研究機関などの限られた関係者しか知らない情報である必要があります。
有用性
客観的に見て、事業活動にとって有用な情報であること。
たとえば、失敗した実験のデータなどは直接のビジネスには利用されませんが、潜在的な価値があることから有用性が認められます。
なお、脱税情報や有害物質の垂れ流し情報などの公序良俗に反する内容の情報は除外されます。
秘密管理性
企業や機関などの内部で、その情報に接する人が秘密情報であると、はっきり認識できるように管理されていること。
営業秘密の漏洩の具体的な行為について
不正競争防止法で禁止されている行為とは?
営業秘密の漏洩において、不正競争防止法で禁止される行為は大別すると、「取得」「開示」「使用」になります。
・窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為、又は営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(第2条1項4号)。
・その営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(同5号)。
※最初から知っていた場合。
・その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為(同6号)。
※あとから知った場合。
・営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為(同7号)。
・その営業秘密について営業秘密不正開示行為であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(同8号)。
※最初から知っていた場合。
・その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為(同9号)。
※あとから知った場合。
・第4号から9号までに掲げる行為(営業秘密のうち、技術上の情報であるものを使用する行為に限る)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(同10号)。
「取得」とは……不正に、こっそり盗み取る、ごまかして自分のものにすることです。
たとえば、産業スパイ等に依頼して競合他社の営業秘密を不正に入手したり、会社や研究所の内部の者が営業秘密を勝手に持ち出す行為などが該当します。
「開示」とは……情報を横流ししたり暴露する行為です。
たとえば、不正に入手した営業秘密を報酬目当てに競合他社などに横流ししたり、自分が転職するために営業秘密を競合他社などに「お土産」として提供するケースなどが該当します。
「使用」とは……さまざまな使い方がありますが、不正に入手した営業秘密を使って自社で製品を製造・販売する、大学等の研究者が不正に持ち出した営業秘密で実験をするなどのケースが該当します。
営業秘密の漏洩に関する事件簿
営業秘密の漏洩に関する事例としては、次のようなものがあります。
- ・従業員が会社の秘密情報である顧客名簿を複写して持ち出して、独立・転職・転売した事例
- ・不正に入手した会社の営業情報や顧客リストなどのデータを競合他社に横流しした事例
- ・ソフトウェア受託開発企業が、顧客から預かった情報を自ら使用、あるいは第三者へ開示した事例
ここでは、近年にあった営業秘密の漏洩に関する事件について紹介します。
事件ファイル①派遣社員が個人情報を不正に持ち出し業者に売却
NTT西日本の子会社から900万人以上の個人情報が流出した問題で、営業秘密を不正に持ち出したなどとして不正競争防止法違反(営業秘密の領得、開示)の罪に問われた元派遣社員の被告(当時63歳)の初公判が、2024年5月23日、岡山地裁津山支部であった。
被告は起訴内容を認め、検察側は「借金返済のための身勝手な犯行」などとして懲役3年、罰金100万円を求刑。即日結審した。
起訴状などによると、被告は2023年1月17日、システムの保守業務を担っていた「NTTビジネスソリューションズ」のサーバーから、保管されていた顧客の名前や住所などのデータをダウンロードして複製し、東京都内の名簿業者へメールで送信したとされる。
2013年7月頃から約10年間にわたって、被告は同様の手口で企業や自治体など計69団体の個人情報約928万人分を持ち出し、複数の名簿業者に約250回にわたって売却。総額2500万円以上を得ていたとみられる。
検察側は公判で、「被告は2014年に通信教育大手ベネッセコーポレーションで起きた情報流出事件に着想を得た」と指摘。
派遣先のNTT西の子会社で、コールセンターシステムの運用保守担当という立場を利用し、「借金返済のために顧客情報を売却した、常習的かつ卑劣な犯行だ」とした。
被告は、「派遣先で約13年も働いてきたのに待遇がひどく不満だった」と被告人質問で述べ、弁護側は「被告は反省している」として執行猶予付き判決を求めた。
この事件に関連し、2024年2月、総務省がNTT西を行政指導。
社外の弁護士を入れた同社の調査委員会は、NTTビジネスソリューションズの管理体制の不備や、情報流出の確認を求めた取引先への虚偽回答があった」と指摘。
NTT西の社長(当時)は3月に引責辞任をした。
事件ファイル②ライバル会社の食材の原価や仕入れ先に関するデータの持ち出し
回転ずし大手「かっぱ寿司」の運営会社「カッパ・クリエイト」の前社長がライバル社の営業秘密を持ち出した事件。
2024年2月26日、前社長と共に不正競争防止法違反の罪に問われた法人としてのカッパ・クリエイトと商品部長だった被告(当時44歳)の判決公判が東京地裁であり、裁判長は、カッパ社に罰金3000万円(求刑罰金3000万円)、被告に懲役2年6カ月、執行猶予4年と罰金100万円(求刑懲役2年6カ月罰金100万円)を言い渡した。
判決によると、商品部長だった被告は2020年11月、ライバル社の「はま寿司」の親会社「ゼンショー・ホールディングス」から転職してきた前社長(当時47歳、同罪で懲役3年、執行猶予4年と罰金200万円の有罪が確定)から、はま寿司の食材の原価や仕入れ先に関するデータをメールで受信し、カッパ社内で共有・使用したという。
カッパ社や被告側は、「営業秘密に当たらず無罪だ」と主張したが、判決では、「データが、はま寿司社内でパスワード付きで管理され、退職者には守秘義務が課せられていた」、「同社が実際にデータを事業に活用していた」ことなどから、同法上の「営業秘密に該当する」と認定した。
民事においては、2023年12月27日、ゼンショー・ホールディングスがカッパ・クリエイトや前社長に対して、営業秘密の使用禁止や廃棄、5億円の損害賠償請求をしている。
事件ファイル③ライバル会社から自動車部品の取引台帳などを不正取得
警視庁は2023年9月28日までに、転職元の大手商社「兼松」から営業秘密を不正取得したとして、「双日」の元社員の容疑者(当時32歳)を不正競争防止法違反(営業秘密侵害)容疑で逮捕した。
転職直後の2022年7月、兼松のデータベースから派遣社員のIDやパスワードを使って、自宅のパソコンからデータベースにアクセスし、自動車部品の取引台帳や取引先の営業情報などの営業秘密をダウンロードして不正に取得した疑い。
2022年9月、兼松が社内データベースへの不審なアクセスなどについて警視庁に相談。
翌年4月、警視庁が不正競争防止法違反の容疑で双日本社などを捜索していた。
秘密管理性要件を満たすために企業に求められること
企業等は、重要な情報については「秘密管理性」の要件を満たすように管理し、法的に保護されるようにしておくことが重要です。
秘密管理性要件が満たされるためには、 「営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、 当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある」とされています。
では、具体的にどういった対策・管理方法が必要なのか解説していきます。
【参考資料】:営業秘密管理指針(経済産業省)
従業員への対策
情報への接近(アクセス)に対する制御
- ・秘密情報の電子データへの適切なアクセス権の付与・管理とルールの作成
- ・アクセス権者のID登録
- ・秘密情報の復元を困難にするための廃棄や消去方法の選択 など
情報持ち出しの困難化
- ・紙媒体で保管されている情報については、資料の表紙やファイルなどに「㊙」や「社外秘」「社内限り」などを表示
- ・秘密情報資料は、施錠をしているキャビネットなどに収納・保管し、閲覧できる人を制限し、物理的な持ち出しを阻止
- ・電子データの暗号化による閲覧制限
- ・社外へのメール送信、Webアクセスなどの制限
- ・コピー機の使用制限などによる秘密情報の複製(コピー)への制限
- ・個人の私物のUSBメモリや情報機器、カメラなどの記録媒体・撮影機器の業務利用や持込みの制限 など
視認性の確保
- ・「写真撮影禁止」、「関係者以外立入り禁止」「無断持ち出し禁止」などの表示
- ・秘密情報の管理に関する責任の分担
- ・外部へ送信するメールのチェック機能の強化
- ・不自然なデータアクセス状況の通知のための内部通報窓口を社内に設置
- ・PCやネットワークなどのログの記録、保存、周知 など
秘密情報への認識・意識の向上
- ・秘密情報の取扱いなどに関する社内ルールの作成、周知
- ・秘密保持契約などの締結、誓約書の取り交わし
- ・情報漏洩に対する社内処分の周知
- ・人事評価制度(透明性が高い、公平)の構築、周知 など
退職者への対策
- ・アクセス権の制限
- ・会社が貸与していた記録媒体、情報機器などの返却
- ・秘密情報が記された会議資料等の適切な回収
- ・電子データの暗号化などによる閲覧制限
- ・競業避止義務契約の締結
- ・秘密保持契約等の締結
- ・適切な退職金の支払い
取引先・外部者への対策
- ・取引先に開示する情報の選択
- ・取引先での秘密情報の取扱者の限定
- ・秘密情報の管理に係る報告の確認、定期・不定期での監査の実施
- ・取引先への秘密情報であることの表示、秘密情報の取扱いなどについての確認
- ・取引先に対する秘密保持義務条項の設定
- ・契約書などにおける損害賠償や法的措置の記載
- ・適正な対価の支払い
【参考資料】:営業秘密~営業秘密を守り活用する~(経済産業省)
営業秘密の漏洩の防止は顧問弁護士に相談してください!
営業秘密の漏洩は会社にとって重大な損害につながります。
企業などは、防止策を早急に講じる必要がありますが、そこで頼りになるのが、顧問弁護士という存在です。
☑顧問弁護士は、通常の弁護士のように目の前にある法的問題の解決を行ないますが、かかりつけのホームドクターのように自社のことをよく理解してくれるので、経営者の方が気づかない会社の問題を察知し、適切なアドバイス、対応を行なうことができます。
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つまり、営業秘密の漏洩に関する諸問題でも経営者の方は大きなメリットを受けることができるのです。
営業秘密の漏洩以外でも、「契約書の作成とリーガルチェック」「労働問題」「損害賠償問題」「債権回収」「企業紛争」「不動産取引」「相続問題」「事業承継やM&A」など、自社の状況やニーズに合った顧問弁護士と契約することで、さまざまなメリットを得ることができます。
・「顧問弁護士とは?│費用や相場・メリットについて」
営業秘密についてのご相談も、お受けしていますので、まずは一度、気軽にご連絡ください。