利用規約の作り方と注意点
事業者(サービス提供者)が利用者(ユーザー)に提供するサービスについて、利用に関するルールを記載したものを「利用規約」といいます。
利用規約は、事業者がサービスを提供する際は必ず作成しなければいけないものですが、明記しなければいけない条項などがあり、また「著作権」や「特定商取引法」、「消費者契約法」などさまざまな法律が関わってきます。
そのため、事業者が法的に知っておくべき知識や注意するべきポイントがあり、簡単に作成できるものではありません。
そこで本記事では、利用規約を作成する際に必ず盛り込んでおくべき条項や、インターネット上での炎上トラブルを防ぐための注意ポイント、万が一トラブルが発生した場合の対処法などについて、弁護士が解説していきます。
目次
まずは押さえておきたい利用規約の基礎知識
利用規約とは?
事業者(サービス提供者)が提供するサービスの利用についてのルールを記載したものを「利用規約」といいます。
利用規約は、さまざまなビジネスにおいて作成されますが、インターネット上のウェブサイトやアプリなどでサービス(SNS・クラウド型サービス・各種ダウンロードサービス・マッチングサービスなど)を提供する場合、サービス利用の前に利用規約を表示して、利用者(ユーザー)に同意を求めるのが一般的になっています。
基本的に利用規約は、事業者が一方的に作成して、利用者に提示するもので、約款(定型的な契約条項)と同じように利用者から同意を得られると、利用規約は契約の一部となります。
そのため、利用規約は利用者を法的に拘束するものでもあり、その内容がトラブルが起きた場合の解決に大きく影響するのです。
法律上、サービス提供者に利用規約を作成する義務はありません。
しかし利用規約を作成しなければ、サービス提供者は利用者に対して、遵守してもらいたい事項や権利義務関係について個別に説明、交渉しなければならなくなってしまいます。
そこで、特に不特定多数の利用者を対象にサービスを提供する場合には、統一的なルールを利用規約に定めておくことで、契約締結の手続きを簡易に、素早くでき、管理しやすくなるのです。
利用規約と約款は何が違う?
では、利用規約と約款(やっかん)や契約書は何が違うのでしょうか?
通常、約款と利用規約は同じ意味合いで使用されることが多いのですが、約款には事業者側の義務に関する条項も記載されるケースが多いなどの違いがあります。
なお、約款の中の「定型約款」についてのルールは、改正民法(2020年4月1日から施行)で変更されています。
以前の民法の条文には、定型約款についての明記がなく、たとえば利用規約の内容をしっかり認識していない場合や内容を変更する場合などで、取扱いに関する問題点などが明確になっていませんでした。
そこで、利用規約の多くが該当する「定型約款」の規定を整備することで、利用規約に関わる問題点の取扱いを明確にするために法改正が行なわれています。
サービス内容の見直しなどにともなって利用規約の内容を変更したい場合、利用規約が「定型約款」(民法第548条の2第1項)に該当し、一定の要件を満たすなら、利用規約の変更をすることで利用者の同意がなくても契約内容を変更できるとされています(民法第548条の4第1項)。
- 1.定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
- 2.定型約款を準備した者が、あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
<利用者の同意を得なくても利用規約を変更できる場合>
- 1.定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
- 2.定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、
・変更の必要性
・変更後の内容の相当性
・定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無
・その他の変更に係る事情
に照らして合理的なものであるとき。
さらに、事業者が利用規約を変更する場合は、
・変更の効力発生時期(変更後の内容が適用される時期)を定めたうえで、
・インターネットなどを通じて、
・定型約款を変更する旨、変更後の定型約款の内容、その効力発生時期を周知すること、
が必要になります(第548条の4第2項)。
※なお、利用規約の変更が利用者にとって有利なものであった場合は、周知をしなくても効力が生じます。
しかし、不利または中立的な内容での場合、周知をしなければ変更の効力が生じない(第548条の4第3項)とされているので注意が必要です。
利用規約と契約書の違いについて
●通常、契約書は当事者間(サービス提供者と利用者)の交渉により内容を決定するのが原則となっています。
⇒利用規約はサービス提供者(事業者)がすべて作成して、利用者には同意を求めるのみです。
●契約書には当事者それぞれの権利、義務を盛り込みます。
⇒利用規約は「利用者が負う義務」や「提供者の免責事項に関する条項」のみが記載されているのが一般的です。
●契約書の内容を変更するには、当事者間の同意が必要です。
⇒利用規約は、変更する内容が定型約款に該当する場合、一定の要件を満たせば、提供者側は利用者の同意を得ずに内容を変更することができます。
●契約書は通常、契約する当事者以外の第三者が閲覧する機会はありません。
⇒利用規約はインターネット上で公開されるケースが多いため、第三者も閲覧できます。
間違いのない利用規約を作成するためのポイント解説
ここでは、利用規約を作成する際に注意するべきポイントを見ていきましょう。
利用規約に盛り込む項目と内容について
利用規約には、次の項目などを明記する必要があります。
- ①利用規約全体への同意
- ②提供するサービスの具体的な内容
- ③用語の定義
- ④サービスを利用する際のルール
- ⑤違反者に対するサービスの利用停止
- ⑥利用規約の変更
- ⑦権利の帰属
- ⑧利用料金と支払い方法
- ⑨サービスの停止・変更・終了
- ⑩個人情報の取り扱い
- ⑪秘密保持
- ⑫損害賠償/免責事項
- ⑬紛争時の裁判管轄/準拠法
次に詳しく見ていきましょう。
利用規約全体への同意
利用規約を契約の内容に含め、法的拘束力をもたせるためには、事業者(サービス提供者)はあらかじめ、その内容をウェブサイトなどに表示して、利用者(ユーザー)からの同意を取得することが必要です。
そのためには、利用者が申し込みをする前に、利用規約の全文が表示されるようにウェブサイトを設計し、利用規約に同意をしなければ申し込みに進めないようなフォーム、仕組みを構築しておく必要があります。
提供するサービスの具体的な内容
事業者が利用者に対して提供するサービスの内容を、できる限り具体的に記載する必要があります。
- ・対象となるサービスの名称・概要
- ・サービスを提供する流れ(フロー)
- ・提供しないサービスの内容 など
用語の定義
条文の冒頭または末尾に、利用規約の中で使用する用語の定義を記載しておきます。
特に、自社サービスに関する独自の用語などは第三者にも意味がわかるようにしておく必要があります。
サービスを利用する際のルール
サービスの利用に当たって、利用者がしてはならないこと(禁止事項)や守るべきルールについても、利用規約に記載しておきます。
- ・サービスを円滑に提供することを阻害する可能性のある行為
- ・利用者間の公正な利用を害する可能性のある行為
- ・他の利用者の迷惑になり得る行為
- ・サービスを悪用した違法・不適切な行為 など
違反者に対するサービスの利用停止
利用者が利用規約や法令等に違反した場合は、事業者が利用者のアカウントを削除したり、サービスの利用を停止することができるという内容を記載しておきます。
- ・利用料を期限内に支払わなかった
- ・利用に関するルールを守らなかった
- ・秘密保持義務に違反した など
利用規約の変更
自社の都合により利用規約を変更する場合の方法や手続きについて規定して記載しておきます。
利用者に不利な内容の変更を行なう場合は特に注意が必要です。
トラブルが発生した場合、民法の定型約款が適用される場合、民法の規定に従って、利用規約の変更手続が具体的に、適切に定められていたかどうかは大きな争点になるからです。
権利の帰属
事業者が提供するコンテンツの権利の帰属について規定し、記載します。
たとえば、インターネット上のウェブサイトのコンテンツの著作権や特許などの知的財産権が発生するような場合、その権利は事業者に帰属することなどを明記しておく必要があります。
また、利用者の投稿サイトなどでは利用者が投稿したコンテンツの著作権の帰属についても明記します。
たとえば、そのコンテンツ(音楽や小説、漫画など)の権利が事業者に帰属する場合、その内容がわかりにくい利用規約では、後々にトラブルの原因になる可能性があるので、わかりやすく規定しておくことが必要です。
利用料金と支払い方法
サービスを利用する際の料金と計算方法、支払方法を規定して記載します。
また、利用料金が発生するタイミング、中途解約時の利用料金の取扱いなどについても明示しておきます。
サービスの停止・変更・終了
事業の状況などによっては、サービスの提供の停止や終了をせざるを得ない場合もあるため、事業者の都合で停止・変更・終了できることを記載しておきます。
また、既存のユーザーに事前の通知をする際の方法やサービス終了時の利用料金の取扱いについても記載します。
個人情報の取り扱い
個人情報の取り扱い方法について記載しますが、プライバシーポリシー(個人情報の取り扱いについて別途規程)を別に設ける場合は、「個人情報の取り扱いについては、別途プライバシーポリシーで定める」などと規定してもいいでしょう。
秘密保持
特に事業者向けサービスでは、秘密保持に関するルールも念のため記載しておくのがいいでしょう。
・会社の営業秘密の漏洩への対処法
損害賠償/免責事項
サービス提供にあたって、利用者が損害を被った場合の損害賠償についての規定と、免責(事業者が責任を負わないこと)に関する規定も記載します。
具体的には次のような規定を設けておくことが多いです。
「当社に故意または重大な過失がある場合を除き、当社は本サービスの利用に起因して利用者が被った損害を賠償する責任を負わない。」
「当社が負担する損害賠償額の上限は、〇円とする。」
事業者側の責任を限定する方向で設定するのがいいですが、「一切の責任を負わない。」と規定すると、消費者契約法により無効となります。
また、あまりに低い損害賠償金額を規定した場合は無効となる可能性があるので、注意が必要です。
また、利用者のルール違反により事業者に損害が発生した場合は、利用者に損害賠償を求める内容を規定しておくといいでしょう。
紛争時の裁判管轄/準拠法
トラブルが発生した場合に備えて、第一審の管轄裁判所を定めておきます。
一般的には、サービスを提供する事業者の本店所在地を管轄する裁判所と定める場合が多いです。
また事業者が日本企業で、利用者が外国籍である場合に備えて、日本法を準拠法(その契約上の権利義務について適用される法律)として明記しておくのがいいでしょう。
利用規約を作成する際に抑えておくべき法律
事業者が利用規約を作成する場合は、次の法律をしっかり押さえておく必要があります。
- ・著作権法
- ・資金決済法
- ・特定商取引法
- ・個人情報保護法
- ・消費者契約法
利用規約の条項が無効とされる場合に注意!
利用規約を、すべて細かく読み込むユーザーはそれほど多くはいないでしょう。
そこで、自社にとって有利な規約を作成しようとする事業者があるかもしれませんが、次のあげるような一方的にユーザーが不利益を被るような条項は、民法や消費者契約法により無効となる可能性があるので注意が必要です。
①利用者の利益を一方的に害する条項
(民法第548条の2第2項/消費者契約法第10条)
②事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項
(消費者契約法第8条1項1号、3号)
③故意または重大な過失による事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項
(消費者契約法第8条1項2号、4号)
④利用者が契約を解除する権利を放棄させる条項
(消費者契約法第8条の2)
⑤利用者が後見開始・保佐開始・補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に契約を解除する権利を付与する条項
(消費者契約法第8条の3)
⑥利用者が支払う損害賠償の額を予定した条項・違約金を定める条項
※そのうち、事業者に生ずべき平均的な損害額を超える部分
(消費者契約法第9条1号)
⑦利用者が支払う遅延損害金を定める条項
※そのうち、未払額に対して年14.6%を超える部分
(消費者契約法第9条2号)
他社の利用規約をそのまま使用してはいけない
他社の利用規約をそのまま使用すると損害賠償請求を受ける可能性があります。
こうした行為は、著作権侵害にあたるとして損害賠償を命じた裁判例(東京地裁 平成26年7月30日判決)もあるので、十分注意してください。
利用規約の作成やリーガルチェックを弁護士に依頼するメリットとは?
ここまで、事業者が提供するサービスの利用規約について解説してきました。
自社で作成する際には、さまざまな注意するべきポイントがあり、関係する法律も多岐にわたるため、「もっと簡単に考えていたが、思ったよりも難しい」と感じた方もいらっしゃると思います。
もし、利用規約の作成で困っているなら、弁護士に相談・依頼することも検討してください。
企業法務やコンプライアンス経営に精通した弁護士であれば、次のことが可能です。
- ・利用規約の作成・運用について会社が抱える問題点を洗い出せる。
- ・問題点や懸案ポイントを一つひとつ、細心の注意をもって法的にチェックして、トラブルを未然に防ぐことができる。
- ・利用規約の作成から、運用する場合のリーガルチェックまでを依頼することができる。
- ・インターネット上で炎上するなどのトラブルが発生した場合は、速やかに対応して、問題を解決することができる。
なお弁護士に、「いつでも、すぐに相談したい」「費用を抑えたい」「いろいろな法的相談も定期的に依頼したい」という場合は、あなたの会社の顧問弁護士をもつこともおすすめしています。
- ・会社や経営者自身が抱える法的な問題を気軽に(電話やメールでも)相談できる。
- ・法的な問題について必要な時に、しかも継続的・優先的に相談できる。
- ・実際に起きた法的トラブルの緊急性を判断して、素早く解決してくれる。
- ・法的トラブルを事前に予防できて、リスクを抑えることができる。
- ・経営者が気づいていない会社の問題点を指摘してもらい、改善できる
- ・弁護士を探して依頼するなどの手間が省ける。
- ・社内に法務部を設置するコストを削減できる。
- ・通常の法律相談や簡単な書類作成は無料になる場合がある。
- ・訴訟にまで発展した場合などの弁護士報酬は割引になる場合も多い。
- ・自社のニーズに合った法務サービスを受けることができる。
- ・法改正などの最新の法律の情報を教えてもらえる。
- ・トラブルの相手方にプレッシャーをかけることができる。 など
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