下請法で親事業者が禁止される行為と違反の効果をわかりやすく解説
下請法で親事業者が禁止される行為と、科されるペナルティ(罰則)について解説していきます。
下請法では、下請事業者が不当に取り扱われないよう、親事業者に対して「4つの義務」と「11の禁止行為」を規定しています。
そして禁止行為には、50万円の罰金が科される可能性があります。
また、違反した企業は企業名が公表され、マスメディア等で報道される場合があります。
下請法に違反すると、取引先や消費者から「下請事業者を不当に扱った事業者」と判断されて、社会的信用を失う可能性があるので注意が必要です。
目次
下請法とは?
「下請法」は、下請事業者の利益を保護し、下請取引の公正化を図るため、1956(昭和31)年に公布・施行された法律で、正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といいます。
第1条(目的)
この法律は、下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。
資本力等が小さく立場の弱い下請事業者は、優位な立場にある発注者(親事業者)から、さまざまな圧力をかけられたり、不当な取引を強要される場合があります。
そのため下請法には、下請取引における親事業者に対して、「4つの義務」と「11の禁止行為」などが定められています。
下請法は、2003(平成15)年に法改正が行なわれ、規制対象が役務取引に拡大され、違反行為に対する措置が強化されています。
【参考資料】:下請法の概要(公正取引委員会)
下請法で規定されている親事業者の
4つの義務について
下請法では、親事業者は次のような義務を負うと規定されています。
下請代金の支払期日を定める
義務(第2条の2)
親事業者は、下請代金の支払期日を定めなければいけません。
支払期日は、発注した物品等の受領日から60日以内の、できるだけ短い期間内となります。これは「下請法の60日ルール」とも呼ばれています。
「書面の交付義務」(第3条)
発注の際、親事業者は直ちに法律で定められた書面(三条書面)を交付しなければなりません。
これは、口頭発注によるトラブルを未然に防止するためで、次のような取引内容に関する具体的な記載事項をすべて記載します。
- ・親事業者と下請事業者の名称(番号,記号等による記載も可)
- ・発注日
- ・発注内容
- ・納期(役務提供委託の場合は,役務が提供される期日または期間)
- ・納入場所
- ・検査を完了する期日(検査が必要な場合)
- ・下請代金の額(算定方法による記載も可)
- ・下請代金の支払期日
- ・下請代金の支払方法 など
遅延利息の支払い義務
(第4条の2)
親事業者が支払期日までに下請代金を支払わなかった場合は、受領した日から起算して60日を経過した日から実際に支払いが行われる日までの期間、その日数に応じて下請事業者に対して、年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります。
この遅延利息は、民法や商法、当事者間で合意して決めた利率より優先されます。
なお、遅延利息を支払えば、支払いを遅らせてもいいわけではないことに注意が必要です。
書類の作成・保存義務
(第5条)
親事業者は、下請事業者から受領した給付(物品等)の内容、下請代金の額など、取引に関する記録を書類、または電磁的記録(データ)として作成し、2年間保存する義務があります。
【参考資料】:親事業者の義務(公正取引委員会)
下請法で禁止される親事業者の
11の行為とは?
どのような取引が下請法違反になるのかについては、取引内容や資本金によって異なり、すべての取引が下請法の適用対象になるわけではありません。
そこで下請法では、次の11の行為を禁止(違反)事項として規定しています。
受領拒否の禁止
(第4条1項1号)
下請事業者に責任がないのに、親事業者が発注した物品等の受領を拒否することです。
発注の取消しや納期の延期などを理由に納品物を受け取らないことも受領拒否にあたります。
受領拒否事項に違反しないのは、「三条書面」の条件を満たした発注書に明記された委託内容と異なる場合、納品物に瑕疵等がある場合、三条書面に明記した納期に納品が行なわれない場合などになります。
下請代金の支払い遅延の禁止
(第4条1項2号)
下請代金を、受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないことで、「下請法の60日ルール」とも呼ばれるものです。
納品物の検査などで日数がかかる場合でも、受領後60日以内に支払わない場合は支払遅延となります。
下請代金の減額の禁止
(第4条1項3号)
下請事業者に責任がないのに、あらかじめ発注時に決定した下請代金を発注後に減額することです。
名目や方法、金額に関わらず、あらゆる減額行為が禁止されています。
返品の禁止(第4条1項4号)
下請事業者に責任がないのに、発注した物品等を受領後、不当に返品することです。
ただし、三条書面に明記された委託内容と異なる場合や、納品物に瑕疵があって速やかに引き取らせる場合などは該当しません。
買いたたきの禁止
(第4条1項5号)
通常支払われる対価(類似品等の価格または市価など)に比べて、著しく低い下請代金を不当に定めることです。
親事業者が優位な立場を利用して納品後に下請代金を決定することや、短納期での発注で通常よりもコストが発生したにもかかわらず、増加したコスト分の代金を支払わない行為なども該当します。
購入・利用強制の禁止
(第4条1項6号)
正当な理由がないのに、親事業者が指定する物(製品や原材料など)や役務(保険、リース、サービスなど)を強制的に購入・利用させることです。
なお、下請事業者に発注する物品の品質を維持するため、などは正当な理由とされます。
報復措置の禁止
(第4条1項7号)
下請事業者が、親事業者の不公正な行為を公正取引委員会または中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して不利益な取扱いをすることです。
不利益な取扱いには、取引数量の削減や取引停止などが該当します。
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条2項1号)
親事業者が有償支給する原材料などによって、下請事業者が物品の製造などを行なっている場合に、その原材料等を使って製造された物品の下請代金の支払日より早く、相殺・控除したり、原材料代を支払わせることです。
割引困難な手形の交付の禁止
(第4条2項2号)
下請代金を手形で支払う際、一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付することです。
不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条2項3号)
親事業者が自己のために、下請事業者に金銭や役務、その他経済上の利益などを不当に提供させることです。
協賛金や従業員の派遣の要請など、下請代金の支払いとは独立して行なわれるものが該当します。
不当な給付内容の変更・
やり直しの禁止
(第4条2項4号)
親事業者が、発注の取消しや発注内容の変更を行なったり、受領した後にやり直しや追加作業を行なわせたりする場合に、下請事業者が負担する費用を負担しないことです。
【参考資料】:親事業者の禁止行為」
(公正取引委員会)
違反行為に対して科される
ペナルティ(罰則)について
上記の違反行為があった場合、親事業者には次のようなペナルティ(罰則)が科されます。
罰金
親事業者が、次の違反行為を行なった場合は、代表者、代理人、使用人その他の従業者は、50万円以下の罰金に処されます(第10条・11条)。
- ・第3条1項(書面の交付義務)の違反。
- ・第5条(書類の作成・保存義務)の違反。
- ・公正取引委員会や中小企業庁への報告をしない、もしくは虚偽の報告をした場合。
- ・立入検査を拒み、妨げ、もしくは忌避した場合。
勧告
親事業者が禁止行為を行なっている場合、公正取引委員会から、原状回復措置などの必要な措置をとるべきことを勧告される場合があります(第7条)。
報告徴収・立入検査
公正な取引のために必要な場合、親事業者もしくは下請事業者は、その取引に関する報告を求められる場合があります。
さらには、公正取引委員会と中小企業庁の合同による立入検査が行なわれることがあります(第9条)。
以前は、下請法の運用においては多くの場合で、親事業者に対する指導(警告)のみで終わっていました。
しかし、2003(平成15)年の法改正以降、罰則が強化され、下請法に違反した企業名が報道されるようになっています。
下請法が適用される事業者と取引の
内容とは?
下請法の対象となる取引は、委託する側が親事業者、委託される側が下請事業者になり、次のように定義されています。(第2条1項~8項)
資本金額による区分
※事業者については会社だけでなく、公益法人も該当します。
※②の情報成果物・役務提供委託とは、次のものなどが該当します。
・放送番組や広告の制作、商品デザイン、製品の取扱説明書、設計図面等の作成など、プログラ ム以外の情報成果物の作成
・ビルや機械のメンテナンス、コールセンター業務などの顧客サービス代行など、運送・物品の 倉庫保管・情報処理以外の役務の提供
たとえば、機械のメンテナンス・修理の取引で、「資本金1億円の親事業者」が「資本金2,000万円の下請事業者」に発注するケースで考えると、資本金に5倍の差がありますが、下請事業者が「資本金1,000万円以下」という要件を満たしていないため、下請法は適用されないことになります。
取引内容の4つの区分
下請法の規制対象となる取引内容は、次の4種類です。
「製造委託」(第2条1項)
物品の製造や販売を請け負っている事業者が、他の事業者に「規格」「品質」「形状」「デザイン」「ブランド」などを指定して、物品の製造や加工などを委託する取引。
※建設工事の再委託は建築業法で規定があるため、下請法では対象外です。
また、物品の修理を請け負う事業者が、修理に必要な部品・原材料の製造を他の事業者に委託する取引。
※物品とは動産のことで、家屋などの建築物(不動産)は対象になりません。
※建設工事の再委託は建築業法で規定があるため、下請法では対象外です。
- ・自動車メーカーが、部品の製造を外部の部品メーカーに委託する。
- ・精密機器メーカーが、受注生産する精密機械に用いる部品の製造を他の部品メーカーに委託する。
「修理委託」(第2条2項)
物品の修理を外部から請け負っている事業者が、修理業務を他の事業者に委託する取引。
自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託する取引。
※正常に動いている物品の点検やメンテナンスは修理委託ではなく、役務提供委託になります。
- ・自動車ディーラーが、請け負った自動車の修理作業を他の修理会社に委託する。
- ・自社工場の設備などを社内で修理している工作機器メーカーが、設備の修理作業を他の修理会社に委託する。
「情報成果物作成委託」
(第2条3項)
情報成果物(ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど)の提供や作成を行なう事業者が、他の事業者に作成作業を委託する取引。
※情報成果物の代表的な例には、次のものなどがあります。
- ・プログラム
- ・文字、図形、記号などから構成されるもの
- ・影像、音声、音響などから構成されるもの
- ・物品の付属品や内蔵部品、物品の設計やデザインに係わる作成物全般
- ・ソフトウェアメーカーが、ゲームソフトや汎用アプリケーションソフトなどの開発を他のソフトウェアメーカーに委託する。
- ・広告会社が、クライアントから受注したCM制作を外部のCM制作会社に委託する。
「役務提供委託」
(第2条4項)
運送やビルメンテナンスなど、各種サービスの提供を行なう事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に再委託する取引。
※建設業を営む事業者が請け負う建設工事は、役務には含まれません。
- ・自動車メーカーが、販売した自動車の保証期間内のメンテナンス作業を自動車整備会社に委託する。
- ・貨物運送業者が、請け負った貨物運送業務のうちの一部経路の業務を委託する。
【参考資料】:ポイント解説 下請法
(公正取引委員会・中小企業庁)
下請法で注意するべき3つの
ポイント解説
下請法の「60日ルール」に
注意!
前述したように、下請代金の支払い遅延は禁止されており、「下請法の60日ルール」が適用さるので親事業者は注意が必要です。
親事業者が、物品等を受領した日(役務提供委託の場合は役務が提供された日)から起算して60日以内に、定めた支払期日までに下請代金を全額支払わない場合、下請法違反になります。
60日ルールの例として、ここでは「毎月末日納品締切/翌月20日支払い」の場合で考えてみます。
仮に6月1日に親事業者が下請事業者から物品等を受領したなら、この支払サイトでは7月20日に支払いが行われるため、受領日から支払日までは60日以内ですから問題はありません。
しかし、「毎月末日納品締切/翌々月10日支払い」という場合、6月1日に親事業者が下請事業者から受領したなら、この支払サイトでは8月10日に支払いが行われるため、受領日から支払日までが60日を超えてしまうため、違反行為になるわけです。
【参考資料】:支払期日を定める義務について
(公正取引委員会)
トンネル会社規制も違反行為!
親事業者が直接、下請事業者に委託をすると「下請代金法」の対象となる場合があります。
こうしたケースでは、下請代金法の適用を逃れるために、親事業者が故意に資本金の小さい会社(子会社など)を取引の間に入れることがあります。
こうした子会社は「トンネル会社」と呼ばれ、関係事業者間の取引実態が一定の要件をともに満たせば親事業者とみなされて、下請法の適用を受けることになります。
これを「トンネル会社規制」といいます。
資本金がいくらであっても、次の2点を満たす場合は、子会社と下請事業者の間には下請法が適用されるので注意しなければいけません。
- ①親事業者が子会社を実質的に支配している。
- ②子会社が受けた取引の相当部分または全部を下請事業者に再委託している。
【参考資料】:トンネル会社の規制<基本的な考え方>(総務省)
発注先がフリーランスの場合は
どうなる?
親事業者がフリーランスに業務を発注する場合は、「フリーランス保護法」が適用されます。
フリーランス保護法は、取引の適正化を通じてフリーランスの労働環境を改善し、安定した労働条件を確保することを目的に、2024(令和6)年11月1日に施行されています。
下請法は、資本金が1,000万円以下の下請事業者を保護対象とする場合、資本金1,000万円超から3億円の親事業者が規制対象となります。
一方、フリーランス保護法は資本金額に規定はなく、すべての発注事業者が規制対象になります。
以前は、下請法の規制対象外となっていた中小・零細企業にも適用されることに注意が必要です。
【参考資料】:フリーランスの取引に関する 新しい法律が11月にスタート!(中小企業庁)
・フリーランス保護法で発注者が注意すべきポイント
弁護士法人みらい総合法律事務所では随時、無料相談を行なっています。
下請法に該当する取引を行なっていて、トラブルを抱えている場合は、まずは一度ご相談ください。