会社の反論には5つの型がある その2
実際に社員から残業代請求がなされた場合、会社側の反論には5つの主要なモデルがあります。
【会社の主要反論モデル 一覧】
①基礎賃金が正しくない
②割増率が正しくない
③残業時間数が正しくない
④消滅時効が完成している
⑤そもそも会社が残業代を支払う義務を負う「労働者」ではない
ここでは、④消滅時効が完成している、⑤そもそも会社が残業代を支払う義務を負う「労働者」ではない、について考えてみます。
主要反論モデルの中でも、この④の反論モデルは適用される場合が多く非常に重要です。
というのも、残業代は2年間という短い期間の経過によって消滅時効が完成し、2年以上前の残業代については、会社は支払義務を免れることができるからです。なお、民法改正により、2020年4月1日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権については時効は3年になります。
したがって、社員の残業代請求がいつの分から請求されているか、消滅時効完成の反論モデルが適用できないかは必ず確認することが必要です。
⑤の反論モデルも、意外に有効な場合がありますので、おさえておくとよいでしょう。
会社が残業代を支払う義務を負う「労働者」は、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」です。
例えば、自己所有のトラックを持ち込み、会社の指示に従って製品等の輸送業務に従事する運転手は、会社に「使用される者」ではありませんので、「労働者」には該当せず、会社は残業代の請求を拒否することができるわけです。
つまり、契約関係が雇用契約ではなく業務委託契約や請負契約に基づくものである場合、会社が残業代を支払う義務を負う「労働者」には該当しないということです。
ただし、会社が残業代の支払義務を負う「労働者」であることを否定するためには、単に当該社員と会社との契約の名称を「業務委託契約」や「請負契約」などとしておけば良いというわけではありません。
この「労働者」性が否定されるためには、当該社員が実態として、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」ではないことが必要となります。
裁判上は、次のような事情が考慮されて、労働者に該当するか否かが判断されています。
・時間・場所の拘束の有無、程度
(拘束の程度が強ければ労働者性を肯定する事情と評価されます)
・契約に対する諾否の事由の有無
(自由がなければ労働者性を肯定する事情と評価されます)
・契約内容の遂行に当たっての指揮命令の有無
(指揮命令に従っている場合には労働者性を肯定する事情として評価されます)
・経費の負担の有無
(受託者が経費を負担するような場合には労働者性を否定する事情として評価されます)
これらの事情を具体的に主張しなければいけないので、慎重な対応をしていく必要があります。