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賃貸人が賃料を増額したい時の手続と注意点

最終更新日 2025年 12月25日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

賃貸人が賃料を増額したい時の手続と注意点

この記事を読むとわかること

マンションやアパート、テナントなどの賃貸経営をしている方は、こんなことを考えるのではないでしょうか。

「賃料を上げたいが……」
「賃借人は、簡単には同意しないだろう」

物価高騰の折、すぐにでも実行に移したいと考えている方もいらっしゃると思いますが、
「何かいい手立てはないものか……」
「何から始めればいいのだろう?」
ということで、実際にはまだ着手できていないかもしれません。

そこで今回は、「賃貸人が賃料を増額したい時の手続と注意点」について解説していきます。

原則、賃料は当事者(賃貸人と賃借人)間の合意によって自由に増額できるとされますが、合意がなければ勝手に賃料増額はできません。

そこで、賃料増額(家賃値上げ)に向けての大まかな流れとして、次の項目について話を進めていきます。

  1. 賃料増額の正当な理由は?
  2. 賃料の増額ができるケースと条件は?
  3. 増額交渉の手続きと手順
  4. 交渉がまとまらない場合の対応・対策
  5. 増額交渉・請求での注意点 など

本記事との出会いをよい機会として、不動産オーナーの方には賃料増額の手続きについて理解を深めていただきたいと思います。

賃料増額の法的根拠と
判断基準について

借地借家法の内容を確認

建物を所有する目的で土地を借りる場合や、建物を借りる場合に適用されるのが「借地借家法」です。

物件を貸す側(賃貸人・地主・家主)と借りる側(貸借人・借地人)の権利や義務について定められており、賃料増額の法的根拠となる条文は次のものです。

「借地借家法」
第32条(借賃増減請求権)
1.建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

賃料増額の条件について

条文の内容をわかりやすく整理すると、賃料を増額するには、借地借家法に基づいた、次のような正当な理由が必要だということです。

一つずつ解説していきます。

租税や維持管理費の増加

固定資産税、修繕費、保険料などの値上がりによる負担増など。

土地・建物価格の上昇

土地や建物の価格が値上がりした場合。

経済事情の変動

物価上昇、景気変動、CPI(消費者物価指数)の上昇など。

近隣相場との不均衡

周辺の同条件物件と比較して著しく低い賃料の場合。

物件価値の向上

大規模修繕やリノベーションなどにより、物件の価値が向上した場合。

契約当初からの事情変更

オーナーチェンジや建物改装などの場合。

その他

賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情、その他の事情を総合的に考慮すべき場合。

たとえば賃貸人が、賃借人の事業が軌道に乗るまでは相場より安い賃料でいいという条件の契約を結んだ後、事業が軌道に乗ったタイミングで賃借人に賃料増額の交渉をする場合などが該当します。

賃料増額請求が認められない
ケースは?

原則、賃料は当事者間の合意によって自由に増額できるとされ、合意がなければ勝手に賃料増額はできないことになっています。

賃料増額が認められないケースとしては、主に次の場合が挙げられます。

①家賃収入を増やしたいだけが目的の
値上げ

※賃貸人が抱える個人的な経済的事情などは正当な理由としては認められません。

②近隣物件の家賃相場を大幅に上回る
値上げ

③契約書に記載している内容と異なる
値上げ

賃料増額請求権の規定が
適用されない契約内容の例

次のようなケースは賃料増額請求が認められないので注意が必要です。

賃料不増額特約がある
賃貸借契約をしている場合

賃貸借契約期間の途中で賃料を増額しないことを当事者間で合意するのが「賃料不増額特約」です。

一定期間、賃料を据え置く合意がある場合は、その期間内は賃料増額請求が認められません。

一時使用目的の
建物賃貸借契約をしている場合

建物の利用目的が、明らかに一時的である場合に締結されるのが「一時使用目的の建物賃貸借契約」です。

ある物件のオーナーが、転勤や長期出張などで一時的に家を空ける場合、その期間のみ物件を貸し出すケースなどが該当します。

定期借家契約で増減請求権を
排除している場合

定期借家契約で賃料改定に関する特約がある場合は、賃料増減額請求権は認められません。

建物所有を目的としない
土地賃貸借契約の場合

建物を建てることを主目的としない土地の賃貸借契約では借地借家法が適用されないため、賃料増額請求は認められません。

たとえば、資材置き場やソーラーパネルの設置用地、青空駐車場等の目的の契約などが該当します(この場合は、借地借家法ではなく民法の規定が適用される)。

増額できる賃料の目安は?

では、賃料増額請求において、改定後の賃料の相場はいくらくらいと考えておくべきなのでしょうか?

実は、借地借家法には賃料の算出方法が規定されているわけではありません。

ただし、賃料増額後の適正賃料を算出する場合には、①既に賃貸人と賃借人が賃貸借契約を締結していること、②賃借人が現在の賃料が維持されることを期待している点、が考慮されます。

また、次のポイントに注意する必要があります。

  • 現時点で建物賃貸借契約を結ぶ場合の賃料(新規賃料)として、いくらが相当かという観点ではない。
  • 現在の賃料が合意された過去の時点からの「社会的な経済情勢の変化」や「地価や賃料相場の上昇」などに応じた増額による賃料(継続賃料)が認められる。

たとえば、現在の賃料が15万円の場合、近隣物件の相場が25万円だからといって10万円の賃料増額が妥当かといえばそうとはいえず、現在の社会情勢から見て、15万円からいくらの増額が妥当かという基準で判断されるわけです。

そこで、相当賃料額を算出するには近隣相場や不動産鑑定士の評価などを基準に算定します。

通常、増額の幅は5〜10%程度が多く、状況によってはそれ以上が認められる場合もあるでしょう。

算定方法には、「積算(利回り)方式」、「スライド方式」、「差額配分方式」 などがありますが、詳細は弁護士や不動産鑑定士などの専門家に相談されることをおすすめします。

賃料増額を実現するための方法と
手順【6STEP】

賃貸人側が物件の賃料増額(値上げ)を行うための方法と手順は、以下の通りです。

一つずつ詳しく解説していきます。

STEP1:資料の準備

  • 賃料増額請求の根拠となる資料を収集し、準備します。
    たとえば、メンテナンスにかかる費用などの試算表、近隣物件の家賃相場資料などが挙げられます。
  • 有効期限のある書類などもあるため注意が必要です。

STEP2:増額理由と金額の設定

  • 収集した資料やデータから増額の正当な理由を明確化し、増額後の賃料と値上げの時期を設定します。

STEP3:賃借人への通知

  • 口頭だけでなく、内容証明郵便を送って意思表示をし、請求内容を明確に伝えます。
  • 内容証明郵便は発送日やどのような内容の手紙を送ったのか、また相手に届いたことも証明できるものであるため証拠保全に役立ち、後の手続きでも重要なピースになります。

STEP4:賃借人(借主)との
交渉・協議

  • 賃料の改定について賃借人と話し合い(交渉・協議)を行ない、合意を目指します。
  • ここでは、弁護士に依頼して代理人として窓口になってもらうことも検討してください。
    感情的対立を避け、法的根拠に基づいた冷静な話し合いを行なうためです。
  • 賃借人と合意すれば、合意内容を書面(合意書や覚書など)に残し、新賃料で契約更新をします。

STEP5:裁判所での調停

  • 合意に至らない場合は、簡易裁判所に賃料増額の民事調停を申立てます。
  • 民事調停は、裁判官のほか中立の立場の調停委員が当事者の間に入り、話し合いのサポートを行ない、合意による解決を目指す手続です。
  • 周辺相場、建物の築年数や設備等、契約内容、経済事情の変動などの資料をもとに検討し、合意形成が図られます。
  • なお、賃料増額請求では賃料増額訴訟を提起する前に、原則として必ず調停を申立てなければならないことになっています。

STEP6:訴訟を提起して裁判

  • 調停でも合意に至らない場合は、訴訟を提起し裁判での決着を図ります。
  • 裁判所の公式ホームページから、訴訟を申し立てる際の訴状の書式フォーマットをダウンロードすることができます。
  • 裁判では不動産鑑定士の鑑定意見書や、その他の証拠などに基づいて最終的に裁判所が適正賃料を判断して決定します。
  • 多くの場合で不動産鑑定士は裁判所が選び、公的鑑定が行なわれます。
  • なお、裁判になってもすべての事案で裁判所の判決が出されるわけではなく、多くの場合、判決の前に裁判所の仲裁による和解協議が行なわれます。
    ここでも最終的な賃料の調整ができない場合は、判決へと進むことになります。
  • 判決が出るまでには、数か月~1年以上かかることもあります。
  • 裁判で賃料増額が認められた場合、訴訟を起こした側(賃貸人)は裁判所が行なう鑑定費用の全部または一部を相手方(賃借人)に負担させることができます。

賃料増額請求で起こり得る
リスクに備える!

賃料増額を考えて実行する際には、さまざまなトラブルなどのリスクもあります。

この項目では、起こり得るリスクや対処法などについて解説します。

自力交渉でよく起こる
リスクに注意

賃料増額はオーナー(賃貸人)が持つ権利ですが、入居者(賃借人)にも値上げを拒否する権利があります。

賃貸人の方の中には自力・独力で交渉を進めていこうとする方もいらっしゃいますが、次のようなトラブルは避けておきたいところです。

  1. 賃料増額の根拠となる資料が法的・
    内容的に不十分で賃借人の同意が
    得られない
  2. 話し合いをしていくうちに
    感情的になってしまい、賃借人との
    関係が悪化
  3. 退去者が増えて、家賃収入が減少して
    しまう
  4. 賃借人に夜逃げされて家賃が未回収
  5. 交渉から訴訟による解決まで
    予想以上の時間と費用が
    かかってしまう

賃料増額請求を円滑に進める
7つの重要ポイント

最後に、賃料増額を実現するために大切なポイントは以下の通りです。

一つずつ詳しく解説します。

根拠資料・書類は
正しくそろえる

近隣物件の相場を賃料増額の根拠にするなら不動産業者が公表している相場賃料の資料、固定資産税や都市計画税の上昇であれば納税通知書といったように正しい根拠資料を用意する必要があります。

通知は早めに行なう

賃料増額の通知は、できるだけ早めに行なうのがいいでしょう。

というのは、増額は正当だと裁判所が認めた場合、その効果は賃貸人が賃料増額請求をした日までさかのぼって発生するからです。

つまり、調停や裁判などで解決に時間がかかったとしても、そこからさかのぼって賃貸人が増額の通知を出した日までの増額分も認められるというわけです。

また、賃借人に検討期間を与えることも大切です。

そのため、契約更新の3〜6か月前の通知が目安となります。

賃借人への丁寧な説明

賃料増額の通知後、一度の説明で賃借人が納得してくれるとは限りません。

トラブルを未然に防ぐためにも、感情的にならずに冷静に、丁寧な説明を何度か行なうことも必要です。

段階的な増額も検討する

賃借人としては賃料増額の理由に同意できても、たとえば経済的な問題などで現実的にすぐに対応できない場合もあるでしょう。

そうしたケースでは、最終的な賃料増額に合意したうえで、賃借人の状況を考慮して段階的な値上げも検討するといいでしょう。

たとえば、最初の1年間は月3,000円、次の年は月5,000円というように少しずつ段階的な値上げを行なう対応も考えられます。

賃借人のメリットも提示する

賃借人にはメリットのある条件を提示することも有効です。

たとえば賃料を増額する代わりに、防犯カメラやオートロックなどのセキュリティを強化したり、宅配ボックスの設置、無料Wi-Fiの導入、共用部分の充実、次回分の更新料を無料にするなどの検討も行なうといいでしょう。

裁判所への提出資料は
多めに用意する

調停・裁判の際には、裁判所に提出する資料や書類はできるだけ多く用意したほうがいいでしょう。

資料が多ければ、裁判所も賃料増額が正当だという判断をしやすくなります。

合意書や覚書の内容は
正確に記載する

合意書や覚書を作成する際は、後のトラブルを未然に防ぐためにも次の点に注意してください。

  • 契約書の名称、覚書を交わした日付、
    変更点などを正確に記載する。
  • 当事者双方が変更内容に合意している
    旨を明記する。
  • 当事者双方が必ず署名、押印をする。

賃料増額でお困りの場合は
弁護士に相談を!

賃貸物件のオーナーにとって賃料の見直しは、収益改善の絶好の機会です。

また、賃貸経営の目的は、長期的・安定的な契約によって賃料収入を得ることですから、賃借人との信頼関係を良好に保つことが重要です。

しかし、ここまでお話ししたように法的な問題があり、場合によっては相手方とのトラブルに発展するリスクもはらんでいます。

そこで現在、賃料増額を検討している、あるいは賃借人とのトラブルを抱えているといった場合は、まずは一度、弁護士にご相談ください。

弁護士に依頼すると次のようなメリットが得られます。

  • 適正な賃料、増額幅などがわかる。
  • 適正な賃料増額に関する資料などを
    収集してもらえる。
  • 必要な文章の作成でアドバイスを
    もらえる。
  • 交渉の代理人を任せることで時間的・
    精神的な負担を軽減できる。
  • 調停や訴訟になった場合の対応を
    任せることができる。
     など

弁護士法人みらい総合法律事務所は全国対応で、随時、無料相談を行なっています(事案によりますので、お問い合わせください)。

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