「顧客満足度No.1」など広告の「No.1表示」の注意点
企業(事業者)が、紙媒体やネット等に掲載する自社製品やサービスの広告を制作する際、「No.1表示(広告)」というものが問題になるケースがあります。
- ・〇〇ランキング第1位!
- ・シェアNo.1
- ・〇年連続売上第1位
- ・品質No.1!
- ・安さNo.1!
- ・顧客満足度第1位
- ・合格実績No.1
- ・地域最安値
- ・日本一
- ・世界一 など
これら「No.1」や「第1位」などの表現・表記・表示は、競合事業者と比較して自社の商品やサービスが優良であることを示すために使われますが、「景品表示法」の「優良誤認表示」や「有利誤認表示」に該当し、違法と判断される可能性があるのです。
景品表示法に違反すると、次のような措置を受ける場合があります。
- ・消費者庁や都道府県から措置命令(行政処分)を受ける。
- ・違反企業として社名や違反内容が公表・報道される。
- ・措置命令に違反すると、課徴金納付命令を受ける可能性がある。
※実際、2023(令和5)年度には、景品表示法違反で44事業者が行政処分を受け、そのうち13事業者が不適切なNo.1表示(広告)に関係する処分でした。
【参考資料】:No.1 表示に関する実態調査報告書(2024年9月26日)(消費者庁)
景品表示法関連報道発表資料 2025年度(消費者庁)
社名が公表・報道されると、企業の信頼性やブランド力が損なわれ、取引解除や社員の離職、最悪の場合は業績の悪化を招きかねません。
景品表示法違反となる不適切な広告活動は、リスクが大きいことを知っていただきたいと思います。
「知らなかった」「他の企業もやっている」といった言い訳は最終的には通用しないと考えてください。
そこで本記事では、景品表示法の内容や注意点、No.1表示(広告)の該当例、企業が取るべき対応策などについてお話ししていきます。
目次
おさえておきたい!景品表示法と
不当表示規制の基礎知識
景品表示法とは?
景品表示法は、1962(昭和37)年に施行された法律で、「不当な表示」や「過大な景品類」を規制し、公正な競争を確保することで消費者が適正に商品やサービスを選択できる環境を保護するという目的があります。
第1条(目的)
この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。
【参考資料】:よくわかる景品表示法と公正競争規約(消費者庁)
景品表示法では、企業(事業者)が売り上げを増やしたいがために、第1位でもNo.1でもないのに、広告にこうした表示をして消費者を誘い込むような行為も、消費者の利益を損なうものであると規定し、禁止しているわけです。
No.1表示(広告)が問題になる不当表示規制について
では、景品表示法の中で、No.1表示(広告)が問題になるのはどういう場合なのでしょうか。
景品表示法が定める規制は、大きくは「不当表示規制」と「景品規制」がありますが、ここでは不当表示規制について見ていきます。
①優良誤認表示(第5条1号)
企業(事業者)は、自己の供給する商品やサービスについて、次の表示しをしてはいけないと規定しています。
- ・内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示
※「著しく」=誇張・誇大の程度が社会一般に許容されている程度を超えていること。 - ・内容について、事実に相違して競合他社のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示
【参考資料】:優良誤認とは(消費者庁)
②有利誤認表示(第5条2号)
商品・サービスの価格、その他取引条件についての不当表示に関する規定で、次の2点が問題になります。
- ・取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
- ・取引条件について、競合他社のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
【参考資料】:有利誤認とは(消費者庁)
責任を負うのは広告主
不適切なNo.1表示(広告)が違法として処分されるのは誰かというと、広告主である企業(事業者)です。
中には、「調査会社に依頼した結果としてNo.1表示をしたのに、当社が責任を取らなければいけないのか?」と思う事業主もいるでしょう。
また、「調査会社には費用も支払っている。責任を負うのは、調査会社なのではないか。納得がいかない」と考える場合もあるかもしれません。
しかし景品表示法上、責任を負うのは広告主であることは忘れないでいただきたいと思います。
なお現在では、景品表示法の規制が強化される流れになっています。
そのため、景品表示法に基づく消費者庁の措置命令(行政処分)の公開文書には、どの調査会社が実施した調査結果であるかが明記されるようになっていることで、実質的に調査会社の社名も公開されています。
景品表示法に違反していないかどうか不安な場合は、弁護士に相談してみることもおすすめします。
・景品表示法の概要と弁護士に頼めること
景品表示法違反で負う
ペナルティは?
措置命令を消費者庁や都道府県から受ける
景品表示法に違反した事業者に対して、消費者庁や都道府県が広告表示や景品の提供の停止を命じるものを措置命令といいます(第7条)。
消費者庁や都道府県には、違反の有無を調査するため事業者に対して報告を求めたり、事業所内への立ち入り検査をする調査権限が与えられています(第29条)。
法令違反があったことを明確にして再発を防止するため、すでに違反行為をやめていても措置命令が発令されることがあります。
なお、措置命令では罰金や営業停止などは科されません。
違反企業として社名などが
公表・報道される
措置命令が出されると、消費者庁や都道府県のWEBサイトに違反企業として社名や違反内容が公表されます。
また、新聞などのマスメディアでも社名などが報道される場合もあります。
課徴金納付命令を受ける
措置命令に違反すると、課徴金納付命令を受ける可能性があります(第8条)。
課徴金は刑事罰の罰金とは違い、「優良誤認表示」か「有利誤認表示」に違反した場合に科されます。
課徴金の対象となる違反行為による売上額に3%を乗じた額の納付が命じられます。
事業者が知らずに違反してしまった場合でも課徴金は科されますが、知らなかったことについて事業者が相当の注意を怠った者でない場合(過失がない場合)は、課徴金は科されません。
【参考資料】:景品表示法への課徴金制度導入について(消費者庁)
景品表示法違反行為を行った場合は
どうなるのでしょうか?(消費者庁)
刑事罰と罰金が科される
措置命令に違反すると、事業者は2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
さらに法人については、3億円以下の罰金が科される可能性があります。
なお、措置命令の具体的な事例や詳細については、消費者庁HPを参考にしてください。
2019年まで遡って確認することができます。
【参考資料】:景品表示法関連報道発表資料 2025年度
2023(令和5)年の景品表示法改正により、悪質な違反行為に対して「直罰規定」が導入されるようになっています。
改正以前は、No.1表示などで不適切な広告を表示し、措置命令を受けても従わなかった場合に課徴金や罰金が科されていました。
しかし現在では、直罰規定により措置命令などを経なくても、優良誤認表示や有利誤認表示に対して100万円以下の罰金を科すことができるようになっているので注意が必要です(第48条)。
【参考資料】:景品表示法の改正法案(概要)
(消費者庁)
なぜ「No.1」「第1位」表示は
法律違反になるのか?
すべての「No.1表示」が違法になるわけではない
「No.1表示」が違法と判断されるのは、次の場合です。
・合理的な根拠に基づかない場合
ということは、条件を満たしていれば、違法ではない適切なNo.1表示がある、ということです。
この点について、消費者庁が公開している「No.1表示に関する実態調査報告書」(2024年9月26日)では、「合理的な根拠に基づく表示」と認められるには、次の4つのポイントを満たす必要があると示されています。
比較対象となる商品・サービスが適切に選定されていること
競合他社の比較対象となるべき同種または類似商品などを適切に選定して、順位を調査する必要があります。
たとえば、インターネットで検索した際に上位に表示された商品だけを比較対象としてしまうと、適切な比較ではないとされる可能性があります。
調査対象者が適切に選定されていること
調査の客観性が担保されるためには、次の方法が推奨されています。
- ・調査対象者を無作為に抽出する。
- ・表示内容、商品の特性等を踏まえて調査対象者の属性を検討する。
たとえば、次のような調査結果は合理的な根拠とは認められない可能性があります。
- ・自社商品などを継続的に購入している顧客だけを調査対象者に選定した場合。
- ・No.1表示の対象商品などを利用したことがない人を調査対象者とした場合。
- ・利用経験の有無を確認せずに調査対象者を選定した場合。
調査が公平な方法で実施されていること
恣意性や調査対象者のバイアスなどを排除して、公平な調査が行なわれるように留意する必要があります。
たとえば、1位になるまで調査を繰り返したり、1位になったタイミングで調査を終了するようなケースでは、そこで得られた結果は合理的な根拠として認められない可能性があります。
表示内容と調査結果が適切に
対応していること
報告書に明記されている、「調査結果を正確かつ適正に引用していること」の要件に注意する必要があります。
「商品等の範囲」、「地理的範囲」、「調査期間・時点」、「調査の出典」の4点ですが、これについては後ほど詳しく解説します。
どういったケースが景品表示法違反になるのか?
不適切な例①
「満足度No.1」などと表示しているが、主要な競合商品やサービスが選択肢から除外されたNo.1調査しか実施されていない場合
⇒
これは、「比較対象となる商品・サービスが適切に選定されている」とはいえないため、「合理的根拠を欠くNo.1表示」として景品表示法違反となる可能性があります。
不適切な例②
実際に商品やサービスを利用したことがある者を対象に調査を行なっているかのように「顧客満足度No.1」などと表示をしているが、実際には単なるイメージ調査しか行なっていない場合
⇒
これは、「調査対象者が適切に選定されている」とはいえないため、「合理的根拠を欠くNo.1表示」として景品表示法違反となる可能性があります。
不適切な例③
医師が専門的な知見に基づき推奨しているかのような「医師の○%が推奨」などの表示について、実際は調査対象となった医師の専門分野や診療科などと、商品やサービスの評価に必要な専門的知見とが対応していない場合
⇒
この事例も、「調査対象者が適切に選定されている」とはいえないため、「合理的根拠を欠くNo.1表示」として景品表示法違反となる可能性があります。
不適切な例④
消費者に商品を選択させる場合に自社商品を選択肢の最上位に固定して誘導する、あるいは論理的な必然性がないタイミングで調査を終了するなどの恣意的な調査手法を用いた場合
⇒「調査が公平な方法で実施されている」とはいえないため、こうしたケースも「合理的根拠を欠くNo.1表示」として景品表示法違反となる可能性があります。
そもそも「No.1調査」などというものはないことに注意が必要です。
イメージ(印象・主観)調査の問題点について
前述の「No.1 表示に関する実態調査報告書(2024年9月26日)」(消費者庁)も含め、消費者庁としては、「イメージ(印象・主観)を問うようなNo.1 表示」の摘発を強化していく方向を打ち出しています。
たとえば、ユーザーの「満足している」「使い勝手がよくて便利」などの感想については客観的なデータが取れないにもかかわらず、「調査の結果、No.1」といった表示することは客観性に疑義が発生しているということになります。
そのため、今後は調査が強化されていくと思われます。
すべてのイメージ調査が不適切で違法なものになるわけではありませんが、「イメージ調査の結果、顧客満足度No.1」といった表示は、合理的根拠を欠くNo.1表示と判断される可能性が高いでしょう。
適切な「No.1表示」で必要な対応と注意ポイント
では、No.1表示が不適切と判断されないためには何が必要かというと、次の2点を満たす必要があります。
・調査結果を正確かつ適正に引用していること
客観的な調査の実施で必要な
要件
適切なNo.1表示の根拠となる調査で重要なのは、「客観的であること」です。
「客観的な調査に基づいている」といえるためには、次の2点が必要です。
- ①当該調査が、関連する学術界や産業界において一般的に認められた方法、または関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること。
- ②当該調査が、社会通念上および経験則上、妥当と認められる方法で実施されていること。
「No.1 表示に関する実態調査報告書(2024年9月26日)」(消費者庁)では、景品表示法違反となるおそれがある調査について、次のように指摘しています。
・顧客満足度調査の調査対象者が自社の社員や関係者である場合、または調査対象者を自社に有利になるように選定するなど無作為に抽出されていない場合
・調査対象者数が、統計的に客観性が十分確保されるほど多くない場合
・自社に有利になるような調査項目を設定するなど、調査方法の公平性を欠く場合
また、「当該調査が社会通念上および経験則上、妥当と認められる方法で実施されていること」の判断にあたっては、「表示の内容」、「商品等の特性」、「関連分野の専門家が妥当と判断するか否か」などを総合的に考慮することが必要になってきます。
調査結果を正確かつ適正に引用するための注意点
引用が正確かつ適正なものといえるためには、前述した次の4点に注意する必要があります。
商品等の範囲
たとえば、実際には「中高年向けのダイエット食品」についての調査だったのに、その結果を「〇〇年連続売上実績No.1」と表示すれば、一般消費者には全年齢層での結果であるとの誤解を生じさせる可能性があり、違法となります。
地理的範囲
たとえば、「地域No.1」という表示をした場合、一般消費者が認識する地域の広さはさまざまであるため、正確かつ適正な引用にはなりません。
この場合、No.1表示の根拠となる調査の地理的範囲を明確に表示する必要があります。
調査期間・時点
たとえば、5年前の調査結果でNo.1だったが、現在は調査していないにもかかわらず、単に「売上No.1」と表示すれば、一般消費者は適切な判断ができません。
いつの時点での調査でNo.1だったのか、具体的に表示する必要があります。
調査の出典の明瞭性
調査の出典を正確に表示しないと、一般消費者は適切な判断ができません。
そのため、No.1表示の根拠となる調査の出典は具体的かつ明瞭に表示する必要があります。
「No.1表示(広告)」で不安がある場合は弁護士にご相談ください!
ここまで、景品表示法違反となる「No.1表示(広告)」について解説してきましたが、複雑で難しいと感じた方もいらっしゃるかもしれません。
そこで次のような場合は、できるだけ早く弁護士に相談されることをおすすめします。
公正競争規約の確認・解釈で
迷っている
「公正競争規約」とは、各事業者や事業者団体が表示または景品類に関する事項について自主的に設定している業界のルールです。
【参考資料】:公正競争規約(消費者庁)
自社が属する業界に公正競争規約があれば、内容を確認して違反しない、適切な表示をしていくといった必要があります。
その際、解釈が難しいのでサポートがほしい、正しく解釈しているか確認したいという要望があれば、弁護士に相談されるといいでしょう。
リーガル(法務)チェックを
受けたい
法的な部分については、自社で勝手に判断するのはリスクが大きいと言わざるを得ません。
広告の制作・出稿に際しては、景品表示法だけでなく、不正競争防止法や著作権法なども関わってくるため、法律違反にならないためには、事前に弁護士などの法務の専門家のリーガルチェックを受けることも大切です。
・広告を出す時に知っておくべき法律知識
措置命令を受けてしまった場合の対応策
措置命令を受けないためにも、事前のリーガルチェック行なっていただきたいわけですが、万が一、措置命令を受けてしまった場合は、損失を最小限にとどめるための早急な法的対応が大切です。
そのためにも、まずは弁護士相談し、今後の対応策を検討されるのがいいでしょう。
弁護士法人みらい総合法律事務所は全国対応で、随時、無料相談を行なっています(事案によりますので、お問い合わせください)。
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