会社のM&AにおけるDD(デューディリジェンス)とは?
DD(デューディリジェンス)をご存知でしょうか?
たとえば、企業のM&Aで相手企業を買収する場合、相手企業に出資する場合、企業間の取引などにおいて、対象企業を調査して、正確な価値を算定し、事前に抱えているリスク等を明らかにする必要があります。
その際、買い手企業(M&Aの場合)が費用を出し、弁護士や公認会計士、税理士などに依頼して行なうのがDD(デューディリジェンス)です。
DD(デューディリジェンス)は1つではなく、主に次のような種類があります。
- ①法務DD(デューディリジェンス)
- ②財務DD(デューディリジェンス)
- ③税務DD(デューディリジェンス)
- ④人事DD(デューディリジェンス)
- ⑤事業DD(デューディリジェンス)
- ⑥IT DD(デューディリジェンス)
本記事では、M&Aなどで欠かすことのできないDD(デューディリジェンス)について、その種類や調査項目、費用や期間、注意ポイントなどについて解説していきます。
目次
企業のM&Aが注目される理由
M&Aとは?
M&A(エムアンドエー)とは、企業や事業の合併・買収のことです。
合併(Mergers)と買収( Acquisitions)の頭文字をとって、M&Aと呼ばれています。
基本、M&Aは会社の売り手(譲渡側)と買い手(譲受側)が交渉をして、条件面での折り合いがつけば契約成立となります。
通常は、間にM&A仲介業者が入り、案件によりM&Aアドバイザーが助言を行ないます。
欧米がM&Aの本場という時代がありましたが、近年は日本の起業家、経営者の間でM&Aのニーズがかなり高まっており、その重要性と必要性に大きな注目が集まっています。
今やM&Aは、起業家や経営者にとっては欠かせない経営戦略の1つといってもいいでしょう。
なぜM&Aの需要が増えているのか?
M&Aを検討、実施する理由はさまざまありますが、主なものを次にあげます。
売り手企業側
後継者不在の場合の事業承継
中小企業の場合、経営者の方が会社の事業承継を検討し始める年齢になった時、まず息子や娘など子供や親族に継がせたいと考える方は多いでしょう。
しかし、後継者としての子供がいない、あるいは子供が会社を継ぐ気がない場合、経営者の資質がないような場合では、後継者不在の問題に直面することになります。
そこで親族以外の外部者、つまり買収を希望する企業に売却(譲渡)して会社を存続させるためにM&Aを検討、実施するケースです。
自社の成長のために会社や事業を譲渡
会社の成長戦略として、このまま自社単独では将来的な成長が見込めない場合、より規模の大きな企業の傘下に入り、資本の注入を受けて会社を成長させるためにM&Aを検討、実施するケースもあります。
創業者利益の確保
創業した会社をある程度成長させたうえで高値で売却し、創業者利益を確保するためにM&Aを実行する場合もあります。
シリアルアントレプレナー(連続起業家)などが経営手法として使うケースです。
買い手企業側
会社の状況や将来的な成長戦略、自社の属する業界の動向などにより、会社の規模拡大、経営基盤の安定化、市場の獲得などを図るためにM&Aで他社を買収・合併します。
【参考資料】:中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題(経済産業省)
中小M&Aガイドライン(中小企業庁)
M&AのDD(デューディリジェンス)が重要な理由
DD(デューディリジェンス)とは?
DD(デューディリジェンス)とは買収監査のことで、デューデリジェンス、デューデリなどとも呼ばれます。
買い手企業がM&Aを実施する場合、あるいは相手企業に出資する場合や企業間の取引などにおいて、対象企業を調査して、正確な価値や抱えているリスク等を明らかにする必要があります。
その際、一般的に買い手企業が費用を出し、弁護士や公認会計士などに依頼して行なうのがDD(デューディリジェンス)です。
なぜDD(デューディリジェンス)は重要なのか
たとえばM&Aの場合、一般的には買い手企業は、まず売り手企業の資料を精査してM&Aを実施するかどうかの検討に入ります。
その後、売り手企業に訪問したり、社長や役員との面談を行ない、買収の意志が固まれば仮契約などを行ないます。
しかし、この段階で最終契約の締結に進むのはリスキーな行為と言わざるを得ません。
なぜなら、売り手企業の経営者が気づかずに抱えてしまっていた問題や故意に隠していた不正などがある場合があるからです。
そこで、売り手企業の財務については公認会計士、法務については弁護士などの専門家に監査・調査を依頼し、その結果をもとに、
- ・本当にM&Aを実施するべきなのか
- ・最終的な買収金額や投資額はいくらが妥当なのか
- ・契約書にどういった条項を入れるべきなのか
などについて決定するわけです。
企業規模や価値によっては数十億円、数百億円規模の取引にもなるため、DD(デューディリジェンス)は非常に重要な作業・工程となるのです。
実施するべき6つのDD(デューディリジェンス)を解説
買い手企業が実施するべき主なDD(デューディリジェンス)には次のようなものがあります。
法務デューディリジェンス
対象企業・事業の法務について調査し、リスクを洗い出すもので、社内規定や特許などの権利関係、取引先との各種契約関係などは重要な調査ポイントになります。
たとえば、取引先から損害賠償請求されるような訴訟リスクを抱えていたり、法的規制の違反の実態などがあれば、買い手企業としては買収後に大きなリスクを抱えてしまうことになりかねません。
また、対象企業が保有する権利や許認可などが買収後に失効してしまうのであれば、あとから再取得をしなければいけないという問題が発生するケースもあります。
調査対象になる書類・資料等には次のものがあります。
- ・就業規則や社内規定
- ・会社組織や役員・社員に関する資料
- ・株式と株主関連の資料
- ・業務に関する資料
- ・許認可に関する資料や免許
- ・知的財産権に関する資料
- ・紛争に関する資料 など
財務デューディリジェンス
対象企業の財務状況、たとえば決算の財務諸表、収益性、諸費用、資産、負債額、キャッシュフロー、資金繰り状況などの詳細を調査します。
財務デューディリジェンスを実施することで、保有する純資産の実態、正確な収益力、簿外債務の有無、正確なキャッシュフロー、内部統制の状況などを把握することができ、潜在的な財務リスクがあれば特定することができます。
特に中小企業などでは、決算書の内容と実際の財務状態が違っている場合があるため、財務デューディリジェンスの実施は必須と考えたほうがいいでしょう。
- ・決算書や総勘定元帳
- ・予算・事業計画書
- ・具体的な証憑類
- ・監査法人による報告書
- ・銀行に提出した資料 など
税務デューディリジェンス
対象企業の税務関連情報を詳細に調査し、税務リスクを洗い出すために実施します。
調査内容には、過去の税務申告内容、納税状況(法人税や消費税などに漏れはないか)、税制度を遵守しているか、未解決の税務問題がないか、などがあります。
ここで重大な税務リスクが発覚した場合は、そのリスクを負っても買収するかを判断し、M&Aを実行する場合は税務リスクを回避・軽減するためのM&Aスキームを検討する必要が生じます。
- ・決算報告書、勘定科目内訳明細など各種基礎資料
- ・財務関連の個別資料
- ・税務関連資料 など
人事デューディリジェンス
社内の人事面からM&Aに関わる課題を特定することを目的に実施します。
従業員の給与や待遇、労働環境、人事に関する取り組みや人事評価の仕組みなど人事制度の運用、さらには人材に関わるリスク、スキルや能力、福利厚生なども調査します。
たとえばM&A後に従業員の大量離職があったり、スキルのある人材が退職してしまうと、会社はいわゆる「空箱」になってしまいます。
また、従業員のスキルに問題があったり、両社の企業文化の適合性に問題があればM&A後の企業統合がスムーズに進まない事態が考えられます。
そうしたリスクを把握しておくことで、問題があれば改善策を検討できるため、重要な調査になります。
- 雇用関係、人事規定、年金関連、労使関係等の各種資料 など
事業デューディリジェンス
対象企業のビジネス全体を詳細に調査、把握するために実施します。
対象企業が属する業界、分野など市場全体をマクロに見ながら、その企業の事業活動や市場競争力、事業戦略、顧客との関係性、将来の成長性などを分析し、M&Aにおけるリスクやビジネス機会を明らかにします。
- ・決算資料各種
- ・事業計画書
- ・競合他社や仕入先の情報
- ・顧客情報
- ・製品やサービス等の情報
- ・自社が保有する技術
- ・市場の情報 など
ITデューディリジェンス
対象企業が採用しているIT(情報技術)リスク、セキュリティ問題、システムの効率性などを分析し、M&A後のITに関わる課題を特定するために実施します。
M&A後に、両社の情報システムを統合する必要がある場合はITインフラストラクチャー、ソフトウェア、セキュリティ、データ管理などを詳細に調査して、統合・移行のためにかかる作業量やコストなどを分析します。
- ・情報システム関連の資料
- ・アプリケーション関連の資料
- ・インフラ関連の資料
- ・コストに関する資料
- ・システム管理を担う人材
- ・セキュリティの状況 など
その他
環境デューディリジェンスでは、対象企業の工場や土壌の汚染リスクなどを調査します。
知的財産デューディリジェンスでは、対象企業が保有する特別なノウハウの著作権や特許権などを調査します。
その他にも、不動産デューディリジェンス、顧客(カスタマー)デューディリジェンス、人権デューディリジェンスなどを実施する場合もあります。
DD(デューディリジェンス)の手続きと流れ
一般的に、DD(デューディリジェンス)では次のような手順、手続きで調査を行なっていきます。
- ①弁護士・公認会計・税理士などの専門家に依頼
- ②業務の担当者と専門家による調査チームを組成
- ③調査範囲の確認と決定
- ④対象企業に資料開示を要請
- ⑤資料の分析・聞き取り(インタビュー)調査などの実施
- ⑥調査結果の分析と検討
DD(デューディリジェンス)の費用の相場は?
対象企業(売り手企業)側の業種や事業規模、調査の内容や種類、依頼する専門家の人員数、また買い手企業側の企業規模など、さまざまな状況によってDD(デューディリジェンス)の費用は当然違ってきます。
そのため、一律の金額を提示できないので、ここでは一般的な相場金額の目安と考えてください。
対象企業が中小企業の場合:数十万~数百万円
対象企業が大手企業・海外企業の場合:数百万~数千万円
DD(デューディリジェンス)の期間の目安は?
DD(デューディリジェンス)の期間についても、企業規模や調査範囲によって違ってきます。
中小企業の場合、短ければ1、2日、あるいは3,4日、弁護士や公認会計士で編成されたチームが売り手企業に訪問して、資料の調査やインタビューなどを行ないます。
大手企業の場合は、1、2カ月かかるケースもあります。
DD(デューディリジェンス)で注意するべき3つのポイント
DD(デューディリジェンス)のタイミングに注意
DD(デューディリジェンス)は、たとえばM&Aであれば最終契約の前、売り手企業と買い手企業が基本合意契約を交わした後に行なうのが通常です。
調査の適正な規模と範囲を見極める
費用や時間がかかるからといって、DD(デューディリジェンス)の規模や範囲を省略などすると、重要な調査ポイントを見逃してしまいます。
また、調査範囲を広げ過ぎても、会社やM&Aの規模からは不必要なケースもあります。
適正なDD(デューディリジェンス)の規模や範囲については、まずは弁護士や公認会計士、税理士など専門家に相談するのがいいでしょう。
対象企業(売り手企業)は積極的に情報提供を行なう
DD(デューディリジェンス)は会社を詳しく調査、分析していくため、隠し事をしても明らかにされてしまいます。
対象企業(売り手企業)としては、積極的に情報提供を行なってDD(デューディリジェンス)に協力することで、M&A後のトラブルを防ぐこともできますし、金額交渉などもスムーズに進めることができます。
弁護士法人みらい総合法律事務所では随時、無料相談を行なっています。
M&AにおけるDD(デューディリジェンス)、M&Aの契約書や顧問弁護士についてのご相談もお受けしていますので、まずは一度、気軽にご連絡ください。