不動産売買契約書のポイントと注意点
不動産は重要な財産であり、売買取引では大きな金額が動くため、通常は「不動産売買契約書」を作成します。
その際、次のような疑問や問題が浮かび上がってくると思います。
- ・そもそも契約書は何のために作成し、取り交わす必要があるのか?
- ・契約書には、どういった項目を記載すればいいのか?
- ・不動産契約の手続きと流れは?
- ・契約書の作成から締結までで注意するべきポイントは?
- ・契約書で必ず確認しておくべき項目は?
- ・契約書と一緒に必要な「重要事項説明書」とは?
本記事では、わかっているようで曖昧なままにしてしまいがちな不動産契約の世界について、実務面で大切なポイント等をおさえながら解説していきます。
目次
不動産売買契約のポイントと流れを確認
なぜ不動産売買契約書は
必要なのか?
不動産の売買(売却と購入)をする際、なぜ「不動産売買契約書」を作成するのかというと、最大の目的はトラブル回避にあります。
じつは法律上、契約する際には必ずしも契約書が必要なわけではなく、口約束でも契約は成立するとされています。
しかし、不動産売買のように取引で大きな金額が動く契約では、万が一トラブルが起きた場合の損害は大きなものになってしまいます。
口約束だけでは、「約束したではないか」「そんな話は聞いていない」といったように、埒(らち)があかない事態になってしまう可能性もあります。
そこで、不動産売買に関する詳細な条件(取引を行なう不動産の内容や契約の条件など)を文章で明確にして、契約当事者の責任と義務を明示することでトラブルを回避するために契約書を作成し、締結するのです。
不動産売買契約の基本的な
流れと手続きを確認!
現在では、不動産の売買を行なう際は不動産会社に依頼して仲介してもらうことがほとんどでしょう。
そこで、ここでは不動産会社に依頼した場合の取引の大まかな流れを見ていきます。
不動産を売却する場合(売主)
①不動産会社に物件売却の相談
物件の調査・価格の査定などを依頼します。
⇓
②不動産会社との媒介契約の締結
不動産会社が物件の買主を探し、売却活動を行ないます。
⇓
③重要事項説明
売買契約成立までの間に、契約の重要事項説明を受けます(法律上の義務ではない)。
⇓
④売買契約の締結
買主との間で合意したら、売買契約を締結します。
⇓
⑤売買代金の決済・引き渡し
売買代金の決済を行ない、物件を引き渡します。
不動産を購入する場合(買主)
①不動産会社に物件購入の相談
⇓
②物件の選定
不動産会社から物件の紹介を受けて選定を行ない、対象物件を実際に内覧します。
⇓
③購入の申し込み
⇓
④資金計画を立てる
ローンの事前審査などを受けます。
⇓
⑤重要事項説明
売買契約成立までの間に契約内容を確認し、重要事項説明を受けます。
⇓
⑥売買契約の締結
売主との間で合意したら、売買契約を締結します。
⇓
⑦売買代金の決済・引き渡し
売買代金の決済を行ない、物件の引き渡しを受けます。
ローンの場合は、本審査・契約・融資実行の手続きが必要になります。
不動産売買契約書の記載項目と
注意ポイント
次に、不動産売買契約書に記載するおもな重要事項と注意するべきポイントについて解説していきます。
不動産売買契約書に記載する重要項目
記載項目①当事者と売買物件の表示
不動産売買の基本となるのは、当事者(売主と買主)と対象物件で、これらを特定して記載する必要があります。
- ・当事者の氏名と住所(未成年者の場合には法定代理人)
- ・法人の場合は代表者名と住所
- ・取引対象となる不動産については、登記事項証明書に記載されている内容
記載項目②売買物件の面積
売買物件の面積によって売買代金が変わってくるので、正確に把握して記載する必要があります。
注意するべきは、長年の間に増改築などを繰り返している場合です。
トラブル回避のためには、登記簿に記載されている面積と実際の面積が異なる場合は、実測をして正確な面積を記載しておくべきですが、当事者の合意によって異なる扱いをすることもあります。
記載項目③売買代金の金額・
支払い時期と方法
不動産の売買代金は高額になるため、売買代金は必ず記載し、その支払い方法と時期についても事前に決めて記載します。
一般的には、不動産の引き渡しと同時に売買代金の支払いが行なわれますが、売買契約から物件の引き渡しまでの間に中間金を支払う場合もあります。
記載項目④手付金と中間金
売買契約の成立を前提として、正式な契約の前に買主が売主に対して取引金額の一部を現金で支払うものを「手付金」といいます。
不動産の売買契約締結後、すぐに代金の支払いと物件の引渡しが行なわれるわけではなく、タイムラグが生じますが、その間にも法的関係をしっかり保つ目的で手付金が支払われることが多いです。
本来、手付金というのは取引金額の一部を事前に預けて、全額支払いの際には返還されるものですが、慣例的には代金支払いの際の取引金額の一部に充当することが一般的といえます。
なお手付金は、相手方に債務不履行があった場合は損害賠償金や違約金に充当されます。
おもな手付金には次の種類があります。
「証約手付」
契約の成立(締結)を証明するために交付される手付金です。
買主が手付金を交付することで、売買契約が締結されたことが証明されます。
すべての手付には、この証約手付の性質が含まれるといえます。
「解約手付」
相手方の債務不履行がなくても、また同意がなくても、契約を解除できるという趣旨で交付される手付金です。
買主は、支払った手付金を放棄することで一方的な解約ができます。
また売主は、手付金の倍額を買主に支払うことで一方的な解約が可能になります(一定期間の制限があります)。
当事者(買主と売主)の間に特約がなければ、その手付は解約手付と推定され、日本における手付とは、原則として解約手付とされます(民法557条1項)。
「違約手付」
買主に契約違反(債務不履行)が生じた際は没収される、また売主に違約があった場合は手付金を買主に返還し、さらにその手付金と同額を買主に支払う、という趣旨で交付される手付金です。
手付に、この違約手付の性質を持たせるためには、契約書に当事者の特約が必要になります。
なお、手付金を交付してから不動産の引き渡しや移転登記までの間に「中間金」という名目で売買代金の一部が支払われる場合もあります。
・手付放棄による不動産売買契約の解除
記載項目⑤契約解除条項
売主または買主が契約の内容に違反した場合、債務不履行を理由に解除をすることができる旨を、要件や効果も含めて記載します。
契約解除となる場合や、その際の違約金額などを定めておきます。
記載項目⑥ローンに関する
特約条項
買主がローンを利用する場合に、十分な額の借り入れができないなど何らかの理由でローンの利用ができなかった時は、売買契約を解除することができるという特約条項(ローン特約)を記載しておきます。
この条項によって、買主が違約金を支払わなくても契約解除できるようにしておきます。
記載項目⑦所有権の移転と
引き渡しの時期
売主から買主に所有権が移転する時期は非常に重要な問題ですから、その条項を必ず記載します。
というのは、売買契約の後に地震や火災など何らかの理由で不動産が滅失または損傷した場合、その負担は所有者が負うとされているからです。
なお一般的には、不動産の所有権の移転と引き渡しは同時に行なわれます。
記載項目⑧物件の引き渡し前の滅失および毀損に関する条項
不動産売買契約を締結後から引き渡しまでの間に、自然災害等で不動産物件が滅失や毀損した場合の扱いを定めて、記載します。
売主が目的物である不動産の修復をしたうえで買主に引き渡す、というのが一般的でしょう。
記載項目⑨不動産の抵当権
抹消等に関する条項
ローンを組む際に、金融機関等の債権者が債務者に対し、購入する不動産を担保とする権利を抵当権といいます。
買主が物件を完全な形で取得したい場合、抵当権や賃借権などがあれば、所有権が移るまでに売主がこれを抹消する(負担の消除)、という条項を記載する必要があります。
記載項目⑩公租公課の負担に
関する条項
固定資産税や都市計画税などの土地建物にかかる税金を「公租公課(租税公課)」といいます。
これらは、その年の1月1日時点の所有者に対して、1年分が課税されるため、年度の途中で売買契約を行なう場合は、公租公課の負担割合を定めておき、契約書に記載しておく必要があります。
引き渡し日までの税金は売主、引き渡し日以降の税金は買主がそれぞれ負担する、という取り決めが一般的でしょう。
記載項目⑪付帯設備などの
引き渡しに関する条項
建物本体と切り分けた、エアコンや給湯器、照明機器、収納設備、配電設備、給排水設備、庭木、庭石などを「付帯設備」といいます。
売主が取り外して持ち出すのか、買主に引き渡すのかを決め、それぞれの付帯設備を明確にして記載しておく必要があります。
記載項目⑫契約不適合責任条項
引き渡した目的物(物件)の種類や品質、数量等について、契約内容と適合しないところがあった場合には売主が負担することを定めるのが「契約不適合責任」条項です。
以前は、「瑕疵(かし)担保責任」とされていたもので、2020(令和2)年の民法改正で契約不適合責任に変更されています(民法562条)。
瑕疵担保責任では、原則として買主は売主に対し、契約の解除または損害賠償請求のみが可能でした。
一方、契約不適合責任では契約の解除や損害賠償請求だけでなく、目的物の修補、代替物の引渡し、または不足分の引渡しによる履行の追完請求、代金減額請求などが可能になっています。
不動産売買契約書には重要な記載項目があるため、確認に不安があるなら弁護士にリーガルチェックを依頼することをおすすめします。
収入印紙の貼付について
不動産売買契約書は課税文書(印紙税法で課税対象として規定されている契約書や受取書など)であるため、原則として契約金額に応じた収入印紙を貼り付ける必要があります。
現在は、「租税特別措置法」により、不動産の譲渡に関する契約書について、印紙税の軽減措置が講じられており、税率が引き下げられています。
これは、2014(平成26)年4月1日から2027(令和9)年3月31日までの間に作成されるものが対象になります。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
10万円を超え、 50万円以下のもの |
400円 | 200円 |
50万円を超え、 100万円以下のもの |
1千円 | 500円 |
100万円を超え、 500万円以下のもの |
2千円 | 1千円 |
500万円を超え、 1千万円以下のもの |
1万円 | 5千円 |
1千万円を超え、 5千万円以下のもの |
2万円 | 1万円 |
5千万円を超え、 1億円以下のもの |
6万円 | 3万円 |
1億円を超え、 5億円以下のもの |
10万円 | 6万円 |
5億円を超え、 10億円以下のもの |
20万円 | 16万円 |
10億円を超え、 50億円以下のもの |
40万円 | 32万円 |
50億円を超える もの |
60万円 | 48万円 |
【参考資料】:不動産売買契約書の印紙税の軽減措置(国税庁)
なお通常は、不動産売買契約書は売主と買主それぞれが保管しておくので2部作成し、収入印紙はそれぞれが各自で負担します。
・印紙税の納付義務が生じる場面と収入印紙の添付漏れに対する罰則
重要事項説明書のチェックポイントについて
売買契約や賃貸借契約の締結前に、取引に関する重要事項を買主(借主)に説明するためにまとめた書面を不動産の「重要事項説明書」といいます。
不動産会社に仲介を依頼した場合、宅地建物取引業者は売買契約成立までの間に、買主に対して契約上重要な事項を説明する義務があります。
そのおもな目的は、買主の権利や利益の保護にあります。
あとから「知らなかった」「聞いていない」といったトラブルが発生しないように、内容とチェックするべきポイントについて詳しく見ていきましょう。
説明の時期と方法
重要事項説明には、買主が取引に必要な事項を十分に理解し、取引をするか否かの判断ができるようにするという意味があります。
そのため、契約が成立するまでの間に仲介業者から説明を受ける必要があります。
仲介の取引主任者は、取引主任者証を提示したうえで、取引主任者の記名・押印のある書面(重要事項説明書)を交付して、説明を行ないます。
重要事項説明書の内容
仲介の取引主任者が説明を行なうおもな項目には次のものがあります。
取引物件に関する事項
①登記簿に記載された事項
物件の所在地・種類・構造・床面積、登記された権利の種類・内容など。
②法令に基づく制限
都市計画法、建築基準法など。
③私道に関する負担
④上下水道・電気・ガスの供給施設・排水施設等の整備状況
⑤建物設備の整備状況
⑥耐震診断の内容
⑦アスベスト(石綿)使用の調査結果
⑧水害ハザードマップでの所在地(位置)
⑨工事未了(未完成)物件の宅地造成や完成時の形状・構造
⑩建物状況調査結果の内容(既存物件)
⑪住宅性能評価書交付の有無
⑫区分所有建物に関する事項(マンションの場合) など
取引条件に関する事項
⑬購入代金や交換差金以外に授受される金額および目的
⑭契約の解除に関する事項
⑮損害賠償額の予定、または違約金に関する事項
⑯支払金または預り金の保全措置
⑰手付金などの保全措置
⑱金銭貸借のあっせん・あっせんに係る金銭貸借が成立しないときの措置
⑲建物の瑕疵担保責任の履行に関する補償保険契約の締結
⑳契約不適合責任の履行に関する措置
㉑国土交通省令で定める事項 など
不動産契約で不安や疑問があれば
弁護士に相談してください!
ここまで見てきたように、不動産売買契約および契約書は思っていた以上に複雑だと感じた方もいらっしゃるでしょう。
不動産の売買取引は高額になります。
仲介業者を入れずに当事者間で取引をする場合などは特に、ミスやトラブルは避けなければいけません。
大きな損害を被ってからでは、解決も大変です。
契約書の内容確認などで不安や疑問がある場合、またはトラブルを抱えてしまっている場合は、法律の専門家である弁護士に相談することもご検討ください。
弁護士法人みらい総合法律事務所は全国対応で、随時、無料相談を行なっています(事案によりますので、お問い合わせください)。
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