インターネット通販・ECサイト運営者が知っておくべき法律知識
本記事では、インターネット通販・ECサイト運営者が知っておくべき法律知識について解説します。
2022(令和4)年6月1日以降、「特定商取引法」の改正により、ECサイトなどの表示規制が強化されています。
ECサイトの最終確認画面の表示に不備があると、注文が取消可能になってしまうため注意が必要です。
2022(令和4)年5月1日に「取引デジタルプラットフォーム消費者保護法」が施行されたことで、消費者保護の動きが強化されています。
オンラインモールなどの大手ECサイトの出店者に対する規制も強化されていくことが予想されます。
インターネット通販・ECサイト運営者は、「民法」や「消費者保護法」などとの関連から、「利用規約」や「プライバシーポリシー」を策定し、サイトで公開する必要があります。
これら以外にも、じつはインターネット通販・ECサイト運営にはさまざまな法律が関係しています。
「規制の存在を知らなかった」「法律の内容を誤解していた」では済まされない事態を招く前に、まずは法律の知識を知って、適切な対策をとっていきましょう。
目次
インターネット通販・ECサイト
とは?
インターネット通販(ネット通販)とは、インターネットを通じて商品を購入できるサービスで、インターネットショッピング、オンラインショッピングなどとも呼ばれます。
おもに、次のようなサービス形態があります。
- ・BtoB(企業間取引)
- ・BtoC(企業と個人・一般消費者間の
取引) - ・CtoC(個人間取引)
ECサイトとは、ショッピングができるWebサイトのことで、実店舗でないためネットショップとも呼ばれます。
ちなみに、企業がECサイトを構築して、仲介業者を通さずに直接販売する形態はDtoC(D2C)と呼ばれます。
インターネット通販・ECサイト
運営に関わる法令とは?
インターネット通販を行なう際、ECサイト運営者(事業者)等が知っておかなければいけない、さまざまな法令(法律と命令)の知識があります。
近年では法規制が多岐に渡り、広範囲におよんでいます。
ECサイトには、実店舗とは異なる規制も多いので、正しい情報を得て、知識を身につけていくことが大切です。
- ・民法
- ・特定商取引法
- ・消費者契約法
- ・景品表示法
- ・個人情報保護法
- ・不正競争防止法
- ・不正アクセス禁止法
- ・独占禁止法
- ・プロバイダ責任制限法
- ・著作権法
- ・資金決済法
- ・電子消費者契約法 など
ECサイト運営者が最低限、知っておくべき法律知識について
ここでは、ECサイトの運営に関わる法令(法律と命令)の中から、おもなものを解説していきます。
特定商取引法
特定商取引法とは?
「特定商取引法」は、事業者による違法・悪質な勧誘行為などを防止し、消費者の利益を守り、被害を防止することなどを目的としています(第1条)。
消費者トラブルを生じやすい取引としては、訪問販売や電話勧誘販売、通信販売などが例示されており、事業者が守るべきルール、および消費者を守るルールとしてクーリング・オフ制度などを規定しています。
そのため、ECサイトの開設・運営にあたっては、特定商取引法の知識が必要になります。
【参考資料】:特定商取引法ガイド(消費者庁)
ECサイトに掲載するべき事項について
特定商取引法ではトラブル防止のため、ECサイトなどには次のような、表示しなければならない事項があります(第11条/通信販売についての広告)。
「特定商取引法ガイド」から抜粋してみます。
- 1.販売価格(役務の対価)(送料に
ついても表示が必要) - 2.代金(対価)の支払時期、方法
- 3.商品の引渡時期(権利の移転時期、
役務の提供時期) - 4.申込みの期間に関する定めがある
ときは、その旨およびその内容 - 5.契約の申込みの撤回、または解除に
関する事項(売買契約に係る返品特約が
ある場合はその内容を含む) - 6.事業者の氏名(名称)、住所、
電話番号 - 7.事業者が法人であって、電子情報処理組織を利用する方法により広告をする場合には、当該事業者の代表者、または通信
販売に関する業務の責任者の氏名 - 8.事業者が外国法人、または外国に住所を有する個人であって、国内に事務所等を有する場合には、その所在場所および電話番号
- 9.販売価格、送料等以外に購入者等が
負担すべき金銭があるときには、その内容およびその額 - 10.引き渡された商品が種類、または
品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任についての定めがある
ときは、その内容 - 11.いわゆるソフトウェアに関する取引である場合には、そのソフトウェアの動作環境
- 12.契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨および販売条件、または提供条件
- 13.商品の販売数量の制限等、特別な販売条件(役務提供条件)があるときは、
その内容 - 14.請求によりカタログ等を別途送付
する場合、それが有料であるときには、
その金額 - 15.電子メールによる商業広告を送る
場合には、事業者の電子メールアドレス
【参考資料】:特定商取引法の規制対象となる
「通信販売」(消費者庁)
通信販売広告について(消費者庁)
特定商取引法の改正でECサイトの表示規制が強化されて
います!
特定商取引法の改正により、2022(令和4)年6月1日以降、ECサイトの表示規制が強化されています。
主な改正点は次の6点です。
1.最終確認画面における表示義務
前述したように、ECサイトから申込み(特定申込み)をする際は、最終確認画面(申込み確定の直前の画面)に次の情報を表示して、確認できる状態にする必要があります(第12条の6、第15条の4)。
- ・分量(個数、回数、期間等)
- ・販売価格(役務の対価)(送料についても表示が必要)
- ・代金(対価)の支払時期、方法
- ・商品の引渡時期(権利の移転時期、
役務の提供時期) - ・申込みの期間に関する定めがある
ときは、その旨およびその内容 - ・契約の申込みのキャンセル(撤回または解除)に関する事項(売買契約に係る返品特約がある場合はその内容を含む)
インターネット通販での最終確認画面というのは、消費者が画面内に設けられている申込みボタンなどをクリックすることで「契約の申込みが完了」 となる画面です(SNS・チャット型のECサイトも含みます)。
注文確定の直前で、上記の各項目を簡単に最終確認できるように表示することが求められています。
ECサイトの最終確認画面の表示に不備があれば、注文の取消が可能となるので注意が必要です。
詳しい内容は次のサイトを参照してください。
【参考資料】:通販事業者の皆さんへ 最終確認画面や
申込書面の表示方法の参考となる資料を
掲載しています。
貴社カートシステムでの 改正法への対応について
(消費者庁)
2.注文内容や契約の申し込み手続きに
関して、消費者を誤認させる表示の禁止
法律で定められた項目をECサイトに記載すればよいというだけでなく、最終確認画面に表示した注文内容や定期購入などの契約申込みの手続きについて、消費者が購入手続きが完了することを簡単に想像できないような表示も禁止となっています。
3.申し込みの撤回や解約をさまたげる不実の告知の禁止
不実の告知とは、簡単にいえば嘘ということです。
申込みの撤回や解約(キャンセル)を防ぐために、事業者が事実と異なること(嘘)を告げる行為が禁止されています。
これは、電話だけでなくメールも規制の対象となります。
4.消費者による注文の取消権の新設
前述の、最終確認画面に表示するべき6項目が事実と異なる表示であったり、必要な内容が表示されていなかったために、消費者が内容を誤認して注文を申し込んだ場合、消費者がその契約を取り消すことができる「取消権」が規定されています。
5.電話勧誘販売に関する規定の改正
以前は「通信販売」として扱われていた、消費者に電話をかけさせる方法(広告を新聞等に掲載する方法、テレビ放送、ウェブページ、SNS等)が、電話勧誘販売に該当する要件に追加され、規制が強化されています。
6.契約書面等の電子化
書面交付が義務付けられている取引形態(訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引、訪問購入)で、消費者の事前の承諾を条件に電子化を認めることになっています。
消費者契約法
消費者契約法とは?
消費者が事業者と契約をする際、両者の間には持っている情報の質や量、交渉力に格差があるため、消費者の利益を守る必要があります。
そこで、「不当な勧誘による契約の取消し」や、「不当な契約条項の無効」、「事業者は情報提供や説明に努める必要があること」などについて規定した法律が「消費者契約法」です。
【参考資料】:消費者契約法(消費者庁)
知っていますか?消費者契約法(消費者庁)
消費者契約法第4条により、事業者のECサイトの商品に関する次のような表示や記載については、契約の取消し原因にあたることがあります(第4条)。
- ・重要事項の不実告知
- ・断定的判断の提供
- ・重要事項についての不利益の不告知
- ・不安をあおる告知
- ・霊感等による知見を用いた告知 など
打消表示とは?
「〇〇にかぎります」、「あくまでも個人の感想です」といった表示を「打消表示」といいます。
これらの表示も前述の「取消権」に該当するため、注意が必要です。
【参考資料】:打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(消費者庁)
民法と利用規約
民法とは?
「民法」は、個人や法人といった私人間(個人対個人、法人対個人、法人対法人など)の行動に対して適用される法律です。
売買、雇用、賃貸借、請負、婚姻や離婚,相続、贈与など日常生活のさまざまな場面に関わってくる、権利義務の基本的な事項が規定されています。
ECサイト運営では、民法は必ず知っておくべき法律のひとつといえます。
利用規約とは?
「利用規約」とは、事業者(サービス提供者)が利用者(ユーザー)に提供するサービスについて、利用に関する統一的に適用されるルールを記載したものです。
利用者が負う義務や提供者の免責事項に関する条項などを記載します。
なお、ECサイトに記載する利用規約は、一般的には民法で規定する「定型約款」に該当します。
以前の民法には、定型約款についての条文の明記がありませんでした。
そこで、2020(令和2)年4月1日に施行された「改正民法」において、定型約款は次のように定義されました。
「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。」(改正民法第548条の2第1項柱書)
なぜ利用規約が必要なのか?
通常、事業者と利用者が契約を交わす場合、交渉により内容を決定し、当事者間で個別に締結します。
しかし、ECサイトでは不特定多数の利用者と契約する際、個々の利用者ごとに契約書を取り交わすことは現実的ではないでしょう。
そこで、事業者側があらかじめ定型的な約款=利用規約を作成しておくことで、個々の利用者が内容に同意した場合に契約が成立する仕組みになっています。
利用規約により、ECサイト運営者は、契約締結の手続きを簡易に、素早く、管理しやすくできるわけです。
利用規約の注意ポイント
一方的に利用者が不利益を被るような条項は、民法や消費者契約法により無効となる可能性があるので注意してください。
- ・利用者の利益を一方的に害する条項
- ・事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項
- ・利用者が契約を解除する権利を放棄させる条項 など
また、利用規約を有効なものとするためには、次のポイントなどにも注意してください。
- ・ECサイト上では事前に利用規約を掲載しておく。
- ・申込みや会員登録より前に利用規約を確認できる場所に掲載する。
- ・利用者が確実に同意したうえで申込みや注文に進めるようにする(利用規約に同意するチェックボックスやボタン等の設置)。など
なお、利用規約を作成する際の注意ポイントや盛り込む内容・項目については、こちらのページで詳しく解説していますので参考にしてください。
・利用規約の作り方と注意点
個人情報保護法とプライバシーポリシー
個人情報保護法とは?
「個人情報保護法」は、個人情報の取扱いに関して、その有用性に配慮しつつ、個人の権利・利益を保護することを目的とした法律です(第1条)。
【参考資料】:個人情報保護法の基本(個人情報保護委員会)
ECサイトの運営では個人情報をあつかうことも多いため、個人情報保護法の知識は欠かせないものになります。
プライバシーポリシーとは?
個人情報保護法に関係するものとしては、「プライバシーポリシー」があります。
プライバシーポリシーとは、企業(個人情報取扱事業者)が自社のウェブサイトなどで行なう個人情報の収集や活用目的、管理・保護方法などに関する取り扱いの方針を明文化して、公表するものです。
個人情報保護法ではその利用目的を、本人に通知し、または公表しなければいけないと規定しています(第21条)。
ここで問題なのは、利用者すべてに対して個々に通知するのは、企業にとっては非常に労力や費用がかかってしまうことです。
そこで、プライバシーポリシーに所定の事項を記載して、どのように配慮しているかをサイト上で公表することで効率化できるわけです。
つまり、個人情報を収集するECサイトでは、プライバシーポリシーの策定と明記は必須といえるのです。
記載するべき事項や注意するべきポイントなどについては、こちらのページで詳しく解説しています。
・プライバシーポリシーの作り方と注意点
電子消費者契約法
電子消費者契約法とは?
「電子消費者契約法」(電子契約法)は、民法の特例を定めたもので、全部で3条しかない法律です。
内容は、インターネット通販やECサイトでの消費者の操作ミスや意図しない購入を救済することなどが規定されています。
消費者の錯誤により申込みを
取消すことができる場合とは?
ECサイトから申し込む際、クリックミスや同じボタンを何度も押してしまうことなどで注文ミスが起きる場合があります。
そこで電子消費者契約法では、事業者と消費者との契約に限り、次の場合では消費者に重過失があったとしも、注文を取り消すことができると規定しています(第3条)。
- ・そもそも、消費者に申し込む意思がなかった場合
- ・消費者が自分の意思とは違う意思表示をしてしまった場合
たとえば、初めから申込みをする意思はなかったのに、誤って「申込」のボタンをクリックしてしまったケースや、商品を3個注文するつもりが30個と入力してしまったケースなどが該当します。
消費者の錯誤による申し込みを取消せないケースもある
一方、ECサイトの運営者は、消費者が「申込み」などのボタンを押した時点で、すぐに申込みを成立させるのではなく、「確認画面」などを設けて、消費者が確認できるようにしておけば、その申込みは取消すことができないとされています。
そのため、多くのECサイトでは「確認画面」を設置しているわけです。
【参考資料】:電子契約法について(経済産業省)
取引デジタルプラットフォーム消費者保護法
取引デジタルプラットフォーム消費者保護法とは?
インターネット通販では次のようなトラブルが多発しています。
- ・商品が届かない
- ・注文したのと違う商品やニセモノが届いた
- ・届いた商品が壊れていた、使用したら発火した
- ・交換や返品しようとしても販売業者と連絡が取れない など
こうしたトラブルを防ぎ、消費者の利益の保護を図るため、2022(令和4)年5月に施行されたのが「取引デジタルプラットフォーム消費者保護法」です。
取引デジタルプラットフォーム事業者への情報開示請求が
できる
取引デジタルプラットフォーム消費者保護法により、オンラインモールなどの運営会社に対して、販売業者の電話番号、メールアドレスなどの情報の開示を請求できるようになっています。
なお、開示請求ができるのは、損害額の合計が1万円を超えるときになっています。
【参考資料】:ネットショッピングでトラブルに遭ったとき あなたを守る「取引デジタルプラットフォーム消費者保護法」(政府広報オンライン)
取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の
利益の保護に関する法律(消費者庁)
インターネット通販・ECサイト
運営者の方は弁護士に相談を!
これまで見てきたように、インターネット通販・ECサイト運営にはさまざまな法律が関わります。
法律違反をしないためには、運営者には法律の知識が求められます。
しかし、すべての法律を熟知するのは大変なことだと思います。
そこで、ぜひ検討していただきたいのが、法律の専門家である弁護士への相談です。
「知らなかった…」、「誤解していた…」で法律違反を犯してしまう前に、まずは一度ご連絡ください。
弁護士法人みらい総合法律事務所では随時、無料相談を行なっています。(※事案によるので、まずはお問い合わせください)。
顧問弁護士についてのご相談も、いつでもお受けしています。
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