株主間契約とは?|ポイントと注意点を解説
ベンチャー企業やスタートアップ企業など、上場していない株式非公開会社を複数人で起業する、あるいは経営していく場合、それぞれが会社の株式を保有することになります。
その際、リスクを管理して、円滑な経営を行なっていくためには、株主同士がお互いに守るべきルールを定めることが必要です。
そこで重要になってくるのが「株主間契約」です。
本記事では、株主間契約について、
- ・具体的な内容
- ・必要になるケース
- ・株主間契約のメリットとデメリット
- ・注意するべきポイント
- ・株主間契約書に記載するべき条項
などについて、網羅的に解説していきます。
目次
株主間契約についてまずは知って
おくべき3つのこと
株主間契約とは?
「株主間契約」とは、ある会社の運営に関する合意事項について、複数の株主の間で締結する契約のことです。
言い換えるなら、株主同士がお互いに守るべきルールを定めることで、無用なトラブルを防いで円滑な経営を行なっていくための契約ともいえます。
「会社法」により、会社の設立や組織、運営、管理などのガバナンス(企業統治)、株式譲渡、清算などには原則的なルール(デフォルト・ルール)が存在します。
ビジネスを行なっていくうえで、もちろんルールは大切なのですが、当事者にとっては、このルールを変更・修正したい、新たな事項についてあらかじめ合意しておきたい、という場面が現れるでしょう。
このような時に、株主間契約が重要になります。
「会社法」は、会社に関するさまざまなルールがまとめられている法律で、2005(平成17)年に成立、2006年に施行されています。
会社法の目的は、利用者の視点に立った規律の見直し、会社経営の柔軟性・機動性の向上、会社経営の健全性の確保などにあります。
それまで会社に関するルールについては、商法の一部や有限会社法などに規定がありましたが、会社法が成立したことで一元化されたという経緯があります。
大枠では会社を設立するための条件、組織、運営や管理、清算の手続きから、細かくは帳簿の保管期限などまでが規定されています。
【参考資料】:会社法(e-Gov)
株主間契約が必要になるケースについて
では、どういったケースで株主間契約が行なわれるかというと、たとえば次のようなシチュエーションなどが考えられます。
- ・複数の主体が共同で株式非公開会社を設立・運営する場合
- ・ジョイントベンチャー(合弁会社)やスタートアップなどへ投資をする場合
- ・株主が入れ替わる・新たに参加する場合
- ・M&AやIPOの実現を目指す場合
- ・会社設立後に株式を売却する場合
- ・株式譲渡を禁止したい場合
- ・会社のデッドロック(株主総会の決議ができない膠着状態等)を回避したい場合
- ・少数派株主の意向を反映しやすくする場合
共同出資により、ジョイントベンチャー(合弁会社)を設立したり投資する場合や、スタートアップなどへ投資をする際、出資後の会社経営について、あらかじめリスク管理を行なっておくために株主間契約で取り決め、締結するケースが多いといえます。
また、もともとの経営者と新たな経営者が株主として併存する場合や、M&A等で株式を譲渡する際などでも株主間契約によってルールを決めておくケースもあります。
株式が未上場の非公開会社の場合、基本的に株主間の信頼関係に基づいて経営が行われているため、信頼関係が失われたり、株主が入れ替わると経営が立ち行かなくなる事態が発生する可能性があります。
こうした場合に対処するため、事前に株主間契約を締結しておき、リスク管理を行なっておくわけです。
株主間契約の効力を確認
株主間契約は、当事者同士が締結する契約のため、契約の当事者間でのみ有効となりますが、会社に対しても一定の契約を締結することもあります。
たとえば、会社の株主A・B・Cがいる場合、
- ・株主A・B・Cの間で株主間契約を締結
- ・株主A・B、あるいは株主A・C、株主B・C間で株主間契約を締結
- ・株主A・Bと会社の間で株主間契約を締結
といったような組み合わせでの契約も可能です。
また仮に、株主A・B間のみで株主間契約を締結した場合、その契約の効力は株主Cと会社にはおよびません。
株主間契約を締結するメリットと
デメリットを理解する
株主間契約を締結する目的やメリットとしては次のことなどがあげられます。
メリット①会社経営に関する
ルールを柔軟に設定できる
会社法上、経営に関するルールを定めるには、定款変更や種類株式の発行等さまざまな方法が認められています。
しかしながら、設定できるルールの項目や範囲が決められているため、必ずしも目的・ニーズを満たせない場合があります。
その点、株主間契約は契約自由の原則により、幅広く柔軟に、かつ詳細にルールを盛り込むことができます。
メリット②手間のかかる
手続きが必要ない
定款を変更する場合は、株主総会を開き、決議を経る必要があります。
また、新たな種類の種類株式を発行する場合は、株主総会決議を経たうえで、その内容を登記簿に記録する必要があります。
しかし、当事者である株主が合意して、株主間契約を締結すれば、こうした手間のかかる煩雑な手続きは必要なくなります。
メリット③当事者以外に
契約内容を公開する必要がない
会社の定款は、株主や債権者は自由に閲覧することができます。
また、種類株式の内容は誰でも登記簿上で確認することができます。
一方、株主間契約は登記事項ではなく、その存在や内容を公開する必要がないので、当事者以外には存在や内容を秘密にしておくことができます。
そのため、当事者以外の第三者に知られたくないような経営に関する内容を盛り込むことができます。
なお、内容の流出防止を徹底するには、株主間契約自体に「秘密保持条項」を入れておきます。
一方、デメリットとしては次のことなどがあげられるため、注意が必要です。
デメリット①会社やすべての
株主に対する法的効力がない
会社の定款は、会社およびすべての株主を法的に拘束するものです。
一方、株主間契約は合意した株主を拘束するものであるため、会社やすべての株主に対する法的拘束力がありません。
たとえば、株主総会などで株主間契約の内容に反する決議をしたとしても、株主総会自体が正しい手続きに則っていて、定款に違反していなければ、その決議は有効になります。
デメリット②契約内容が必ず
実行されるわけではない
株主総会などの手続きが定款に違反している場合、決議の取消などを求めることができます。
しかし、株主間契約の違反は、あくまで契約違反にすぎないので、会社法違反として法的保護を受けられるわけではありません。
契約内容を無視したとしても会社法違反となるわけではないため、違反に対するペナルティの実効性が低いケースがあることから、契約内容が実行されないといった事態が起きる場合があるのです。
たとえば、株主間契約に基づき、ある議案について賛成することを株主間で取り決めたにもかかわらず、株主のひとりが反対票を投じた場合は契約違反ではありますが、その反対票は会社との関係では有効になります。
仮に、その反対票のために議案が否決されたとしても、「株主間契約違反であるから無効であり、可決されるべき」と主張しても、否決の結果を覆すことは難しくなるのです。
そこで、株主間契約書に損害賠償の条項を盛り込むなどの対応をするのですが、相手が損害賠償金を支払ってでも契約内容を無視した対応を取りたい、といった場合などではそれを阻止するのは難しい現実があるのです。
デメリット③株主間契約が複数あると整合性が取れなくなる
可能性も
株主間契約を結ぶのはいいのですが、株主間契約の数も増えていくと、契約間で矛盾が生じてしまい、解釈や判断が複雑になってしまう可能性があります。
会社運営に支障をきたさぬよう、矛盾や違反が生じないように管理・処理していくことは煩雑で手間がかかることになってしまいかねません。
株主間契約で注意するべき
ポイントをチェック
株主間契約は、会社と株主の権利・利益に大きな影響を及ぼすものです。
利益の最大化を目指しながら事業を行なっていくためには、株主間契約における契約書の作成・締結でのリーガルチェックが欠かせません。
ここでは、創業者や発行会社側の立場から注意するべきポイントについて解説します。
株式の強制売却権に要注意
株主間契約における契約書には、「強制売却権」の条項が記載される場合があります。
強制売却権(ドラッグ・アロング・ライト)とは、たとえばM&Aなどで株式を買い取りたいという第三者が現れた時、一定割合以上の株主が株式売却に賛成した場合は、自身の株式を強制的に売却させられてしまうものです。
この条項があると、創業株主などはIPOを目指していたのに、他の出資者(株主)がM&Aによる株式の売却を望んだときに、強制的に株式を売却させられてしまいます。
投資家側が経営者に対して、株式の強制売却を要求するケースがあるので、不本意な株式売却を防ぐためには、創業株主などは強制売却権の記載を拒否したり、発動条件を精査することが重要です。
事前承認事項の範囲は適切か
確認する
株主間契約における契約書には、通常「事前承認事項」を記載します。
これは、一定の重要事項については出資者の事前承認が必要、とする規定ですが、範囲を過度に設定しすぎると、会社の意思決定に遅れが出てしまい、ビジネスの好機を逃しかねません。
株主にとって不利益になってしまわないよう、適切な範囲で承認を得られやすいように設定するべきでしょう。
契約書の内容は柔軟に当事者のニーズを盛り込む
契約書の雛形は、インターネット上で手に入れることができますが、そのまま使用することはおすすめできません。
会社によっても各株主によっても、それぞれにニーズが異なってくるため、適宜、柔軟に作成していくのがいいでしょう。
なお、株主間契約を締結する際には、次のポイントも確認しておきましょう。
- ・複数の株主間の公平性が保たれているか。
- ・対応が困難、あるいは不利益が生じるような義務が課されていないか。
- ・株主間で対立が起きた場合の解決手続きが規定・記載されているか。
株主間契約書にはリーガルチェックが必要になるので、一度、弁護士に相談してみるのもいいでしょう。
株主間契約書に記載するべき条項について解説
株主間契約書に記載する条項はさまざまありますが、基本的には、株主同士の利益を守り、経営を円滑に進めていくために必要な条項を盛り込んでいくことになります。
ここでは、おもな条項について解説します。
売渡強制条項
株主が取締役を退任するなどして、その地位を失った場合、その後も会社に影響力を及ぼすことを防ぐ必要があります。
「売渡強制条項」というのは、取締役ではなくなった株主に対して、退任時に会社の全株式を他の株主に売り渡す(譲渡する)ことを義務付ける条項です。
株式の譲渡禁止条項
株主としては、信頼関係のない第三者が知らないうちに会社の株式を取得して、経営参画してくることを防ぐ必要があります。
そのため、他の株主の承諾がない第三者に対する株式譲渡を禁止する条項を記載します。
議決権拘束条項
株主同士の意見が対立したり、一部の株主が造反することで、株主総会が空転したり、経営が停滞することは避けなければいけません。
そのため、議決権行使に関する事前の協議・合意を行なう義務について定める条項を記載します。
デッドロック条項
株主同士の意見が対立し、会社の意思決定ができなくなる=デッドロックが起きた場合の解決方法、手続きについて規定する条項も記載します。
具体的には、合意に至らない場合に、賛成当事者が反対当事者の保有する株式を買い取ることができる権利について規定します。
事前承認条項
経営に関する重要事項を決定する際、経営者の判断だけでなく、株主の事前承認が必要であるという条項=事前承認を規定します。
強制売却権条項
「強制売却権」(共同売渡請求権/ドラッグ・アロング・ライト)とは、発行会社の株式を買い取りたいという第三者が現れた時、多数派の株主が賛成・合意した場合は、創業者や残りの株主も強制的に株式を売却しなければならないというものです。
イグジット(株式売却によって投資資金を回収して利益を得ること)の機会を平等にするために記載する場合もあります。
先買権条項
ある株主が株式を売却したい時に、他の株主や投資家がその株式を優先的に買い取れる権利を「先買権」といいます。
先買権条項は、出資者が自分とは敵対するような第三者に株式が譲渡されることを防ぎたい場合に求めてくることがあります。
共同売却請求権
ある株主が株式を売却しようとする際に、他の株主も同時に株式を売却できるように請求する権利を「共同売却請求権」といいます。
イグジットの機会を平等にするために記載する場合があります。
情報開示に関する条項
株主が把握しておきたい情報、たとえば会社の決算内容、貸借対照表や損益計算書(月次)、訴訟や紛争、新規事業などの情報公開を会社側に義務付ける条項です。
違反時のペナルティ条項
株主間契約に違反した当事者(株主等)に対して、違約金などのペナルティを課す規定の条項です。
拒否権条項
業務執行に少数株主の意向も反映させるために、一定の重要事項の決定については少数株主の事前の承諾を条件とする条項です。
株主間契約の契約書作成・リーガルチェックは弁護士に任せると安心
です!
ここまで、株主間契約の内容、メリットとデメリット、契約書の記載条項や注意ポイントなどについて解説してきました。
ベンチャー企業やスタートアップ企業にとって、これから会社を成長させていくためにも、またリスク管理を行なっていくうえでも、株主間契約はとても重要なものになります。
株主間契約の内容は、各企業や株主のニーズによって違いがあります。
また内容の決定には、さまざまな法的リスクの分析を行ない、株主間契約書のリーガルチェックの実施も大切です。
株主間契約を進めていくには、企業法務に強い弁護士に相談・依頼することもご検討ください。
なお、企業法務に関しては顧問弁護士を持つと安心して経営に専念することができます。
顧問弁護士を持つことには、さまざまなメリットがあります。
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