会社が第三者からネットで誹謗中傷を受けた時の対処法
SNSなど、インターネット上での誹謗中傷や悪口などが社会問題になっています。
誹謗中傷の標的は会社にもおよんでおり、経営者や経営幹部にとっては、もはや“対岸の火事”として他人事にはしていられない状況になっている、といっても過言ではありません。
本記事では、実際にこの瞬間にも誹謗中傷の被害にあっている会社にとって、また今後のリスクに備える会社にとっても重要な対処法について解説していきます。
大切なポイントは、次の3点です。
- ・インターネット上の誹謗中傷投稿やコメントの削除を依頼する。
- ・発信者情報開示請求を行なう。
- ・発信者が特定できたら、刑事告訴や損害賠償請求を検討する。
各ポイントにおいて、注意するべきこと、間違ってはいけない手続きがあるので、詳しく見ていきましょう。
目次
会社が誹謗中傷で受ける悪影響とリスクとは?
インターネット上のSNSなどに誹謗中傷が投稿された場合、会社が受ける影響やリスクには次のようなことが考えられます。
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(2)売り上げの低下・業績の悪化
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(3)取引先からの信用の低下・契約解除
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(4)従業員のモチベーションの低下
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(5)採用活動への悪影響
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(6)炎上リスク・負のスパイラルへ
インターネット上の誹謗中傷は、想像以上に情報が広がるのが速く、その範囲は広範におよびます。
デジタルタトゥーと呼ばれるように、インターネット上に書き込まれたコメントや画像などの情報は事実無根であったとしても、一度拡散すると半永久的に残ってしまい、完全に削除するのが難しいのが特徴です。
そのため、誹謗中傷コメントへの対応が遅れてしまうことは非常に大きなリスクとなりますし、不適切な対応をしてしまうと炎上につながる可能性もあり、会社にとっては致命傷になりかねません。
また社外だけでなく、会社内部への影響にも十分注意する必要があります。
従業員のモチベーションが下がってしまえば、業績にも大きな悪影響が及んでしまう可能性があります。
会社が第三者からインターネット上で誹謗中傷を受けた時の対処法
会社としては、まず次の対応から行なっていきます。
事実確認
会社に対して誹謗中傷の書き込みがされているという情報を得たなら、ただちに事実確認を行ないます。
実際に書き込みがあるのか、また、あった場合はその内容を確認し、投稿内容について事実調査・確認を行ないます。
投稿内容の保存
誹謗中傷の書き込みが確認できたなら、その後の法的責任追及のために、書き込みや投稿内容を証拠として保存しておきます。
スクリーンショットで保存、紙にプリントアウトするなどの方法が考えられます。
サイト管理者・運営会社に削除依頼
サイト管理者や運営会社が特定できているなら、ただちに直接、削除依頼を行ないます。
一般的な利用者の多いサイト(X(旧Twitter)やInstagramなどのSNS、5ちゃんねるなどの掲示板など)の場合、依頼フォームが用意されていることが多いので、削除の条件などを確認して依頼します。
メリットは、費用がかからず手軽に請求できること。
デメリットとしては、サイト管理者側が削除請求を拒否する可能性もあることがあげられます。
なお、この手続きは投稿内容の削除を求めるだけのものであるため、投稿者の情報開示は請求できないことに注意が必要です。
裁判所に仮処分申請を行なう
サイト管理者や運営会社が削除要求に応じない場合は、投稿削除を求めて法的に仮処分の申請を行なうことも可能です。
仮処分とは、裁判所に暫定的な措置を求めるもので、認められた場合、裁判所はサイト管理者や運営会社に対して削除命令を発令します。
この削除命令に応じるサイト管理者などは多いので、会社側が削除依頼をするより効果は大きいといえます。
発信者情報開示請求
サイト管理者や運営会社が削除に応じたとしても、それだけでは被害者(会社)側の損害の回復は十分だとは言えません。
匿名による誹謗中傷の書き込みは、その人物を特定するのが困難な場合がほとんどですが、書き込んだ人物を特定し、今後、法的責任を追及する必要もあります。
その際に重要なのが、プロバイダ(インターネット接続事業者)に対する「発信者情報開示請求」です。
ただし、請求に対してプロバイダ自らが削除や発信者情報開示に対応することは、ほぼないのが現状です。
そのため、発信者情報の開示を強く求める場合には、訴訟を提起して民事での裁判に進む必要があります。
【参考資料】:インターネット上の誹謗中傷等への対応(警察庁)
発信者情報開示請求について詳しく解説
発信者情報開示請求の概要
誹謗中傷の被害にあった会社としては、加害者(発信者)が匿名の、どこの誰なのかわからない状況では、損害賠償請求をすることができません。
そこで、加害者の身元を特定するため、プロバイダに対して発信者情報開示請求をすることで、IPアドレスの開示を求めます。
IPアドレス(Internet Protocol Address)は、インターネットに接続しているデバイスに割り当てられる、インターネット上での住所を示すもので、ここから特定できる情報と、できない情報があります。
- ・通信が行なわれた国(日本の場合は、都道府県まで特定が可能)
- ・IPアドレスの保有者
- ・回線情報
- ・端末情報(PC、スマートフォン、タブレットなど)
- ・OS(ソフトウェア)
<特定できない情報>
- ・氏名
- ・住所
- ・その他の個人情報
IPアドレスからは加害者の氏名や住所を割り出すことができないため、プロバイダに対して、該当するIPアドレスを利用していた者の個人情報の開示を請求する、という流れになります。
発信者情報の保存期間に注意!
サイト管理者が、IPアドレスのログ情報(利用履歴を記録したデータ)を保存しているのは、多くの場合で投稿から約3~6か月と考えられています。
そのため被害にあった会社側は、サイト管理者などに対して加害者のIPアドレスの開示を請求する際は、同時にIPアドレスのログ情報の消去禁止も求めることが一般的だといえます。
IPアドレスのログ情報が消去されてしまってからでは、加害者の身元を特定することは非常に困難になってしまうので、できるだけ早急に対応することが大切になってきます。
プロバイダ責任制限法とは?
発信者情報開示請求の根拠となる法律は、「プロバイダ責任制限法 第5条」です。
以前は、発信者を特定するには2回の裁判手続が必要でした。
これは、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダのそれぞれに対して、別々の手続きをとる必要があったからです。
そのため、会社側(被害者)が加害者に損害賠償請求する裁判手続も含めると、計3回の裁判手続が必要となっていました。
しかし、簡易かつ迅速に発信者情報の開示手続きを行なえるよう、プロバイダ責任制限法の改正が行われ、2022(令和4)年10月に施行されています。
現在では、「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」により、「発信者情報の開示請求を1つの手続で行なうことが可能権利が侵害されたことが明らかであること」になっています。
なお、この非訟手続により、海外の事業者に対する発信者情報開示請求についても、手続きが簡易になっており、訴状の送達などにかかっていた時間も短縮されています。
【参考資料】:インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)(総務省)
発信者情報開示請求の注意ポイント
権利侵害の明白性
多くのケースでは、「権利が侵害されたことが明らかであること」が問題になります。
権利侵害の明白性では、「権利侵害の事実」と「違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないこと」がポイントになります。
「違法性阻却事由」というのは、通常であれば違法である行為が違法にならないような特別の事情のことで、刑法では、「正当防衛」「緊急避難」「正当行為」の3つが明記されています。
発信者情報開示請求では、情報を開示される側(発信者側)のプライバシーや表現の自由が考慮されるため、違法性阻却事由について請求者側が主張立証することが求められます。
(一般的な不法行為に基づく損害賠償請求では、請求者側が違法性阻却事由について主張立証する必要はありません)
正当な理由の存在
開示請求者が発信者情報を取得するためには、合理的な必要性が求められます。
正当な利益として、開示請求者が次のような法的手段をとるにあたり、発信者本人を特定する必要性がある場合に認められることになります。
- ・発信者に対する削除要請のため
- ・民事上の損害賠償請求権の行使のため
- ・謝罪広告などの名誉回復の要請のため
- ・差止請求権の行使のため
- ・刑事告発のため など
発信者情報の内容
総務省令で定められている発信者情報は、次のものになります。
- ☑氏名
- ☑住所
- ☑メールアドレス
- ☑発信者のIPアドレス/IPアドレスと組み合わされたポート番号
- ☑携帯端末のインターネット接続サービス利用者識別番号
- ☑SIMカード識別番号
- ☑発信時間(タイムスタンプ)
発信者情報開示請求の手続きについて
任意開示手続き
発信者情報開示請求は、裁判を起こさなくても行なうことが可能です。
これは「任意開示」と呼ばれる手続きで、発信者情報開示は民事上の請求権として規定されているからです。
任意開示を求める方法としては、弁護士会照会(弁護士法23条の2に基づく照会)などの方法がありますが、強制力はありません。
そのため現状としては、プロバイダが任意開示に応じるケースは多くはありません。
裁判上の請求手続き
そこで、一般的な方法としては、裁判上の請求手続を利用することになるでしょう。
いずれにしても、発信者情報開示請求をする場合は、弁護士のサポートを受けながら行なっていくことが早期解決のポイントになるので、弁護士に相談・依頼をすることをおすすめします。
法的な対処として会社側ができること
発信者の身元が特定できた場合、会社側としては次のような法的措置が可能です。
刑事告訴
警察などの捜査機関に刑事告訴(被害者などが犯罪被害の申告をして、加害者の処罰を求めること)をして、適切な刑事処分(罰金刑や懲役刑など)を求めることができます。
発信者の刑事責任を問う場合、次のような犯罪が成立する可能性があります。
名誉棄損罪
不特定多数の人が閲覧する可能性があるインターネット上での書き込みや投稿には、名誉棄損罪が成立する可能性があります。
刑法第230条
1.公然と事実を摘示し、人の名誉毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
※毀損(きそん)=壊し、傷つけること
・拘禁刑は、2022(令和4)年6月17日に公布された「改正刑法」で新たに定められたもので、2025(令和7)年6月16日までに施行される予定になっています。
・身体の自由を制限される自由刑の一つで、従来の懲役刑と禁錮刑を統合する形で創設された新しい刑罰です。
改正刑法(第12条)
- 1.拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、1月以上20年以下とする。
- 2.拘禁刑は、刑事施設に拘置する。
- 3.拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。
・なお、従来の刑罰である「拘留」は、刑事施設に1日以上30日未満拘置される刑罰ですが、拘禁刑が導入された後も廃止されず存続します。
侮辱罪
事実でなくても、インターネット上の書き込みや投稿で人を侮辱した場合は、侮辱罪が成立する可能性があります。
刑法第231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
信用棄損罪・業務妨害罪
うその情報をインターネット上に流して、会社の業務を妨害した場合には、信用棄損罪や業務妨害罪が成立する可能性があります。
刑法第233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
※風説(ふうせつ)=デマ、うわさ、など。
偽計(ぎけい)=人をあざむく計略、いつわりのたくらみ、など。
なお、上記の犯罪については親告罪になっています。
親告罪は、被害者が警察に告訴をしなければ、検察が起訴できない犯罪のため、加害者の刑罰を問うことはできないことに注意が必要です。
損害賠償請求
民事上の責任として、誹謗中傷の書き込みをした人に対して、損害賠償請求をすることができる可能性があります。
民法
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
損害賠償請求の流れとしては、まずは相手方に内容証明郵便で請求するのが一般的です。
ただし、相手方が応じない場合や直接やり取りをしたくない場合などでは、弁護士に依頼して代理人になってもらい、交渉を任せてしまうという選択もあります。
誹謗中傷したのが会社の従業員の場合の対処法
インターネット上の誹謗中傷の発信者が会社の従業員だった、というケースもあるでしょう。
その場合、まず会社としては、①発信者の特定を行ない、②誹謗中傷投稿などの削除を要請します。
その後は、③懲戒処分や④刑事告訴、⑤損害賠償請求などの検討を行ないますが、他の従業員への影響も考えて、慎重に進めていくべきです。
なお、懲戒解雇は裁判で権利濫用として無効と判断される場合もあるため、弁護士と相談しながら進めていくのがよいでしょう。
・従業員にSNSで会社の悪口や誹謗中傷をされた場合の対応
第三者からネット上で誹謗中傷を受けた場合は弁護士に相談を!
ここまで解説してきたように、インターネット上の誹謗中傷への対応は簡単なものではありません。
万が一、トラブルが発生した場合は、できるだけ早急に弁護士へ相談・依頼することをおすすめします。
- ・発信者の特定ができる
- ・刑事告訴や損害賠償などを代理で任せられる。
- ・相手方との交渉での精神的な負担を軽減できる。
- ・適切な法的対応により、企業ブランドの回復を図れる。
また、会社が直面するさまざまなトラブルに迅速に対応するために、顧問弁護士をもつことも検討してください。
顧問弁護士をもつことのメリット
いつでも気軽に相談できる!
- ・会社や経営者自身が抱える法的な問題について気軽に(電話やメールでも)、いつでも相談できる。
- ・法的な問題について必要な時に、しかも継続的・優先的に相談できる。
- ・法的トラブルが実際に起きた場合は、緊急性を的確に判断して、素早く解決してくれる。
トラブルの予防・リスクの軽減
- ・法的トラブルを未然に防ぐことができ、リスクを抑えることができる。
- ・経営者が気づきにくい会社の問題点を指摘してもらい、改善できる。
経費・労力の削減
- ・弁護士を探して依頼するための手間やコストを削減できる。
- ・社内に法務部を設置するコストをカットできる。
- ・通常の法律相談や簡単な書類(契約書)作成は無料になる場合がある。
- ・訴訟にまで発展した場合などの弁護士報酬は割引になる場合も多い。
社長のニーズに合ったサービスを提供
- ・自社が求める法務サービスを受けることができる。
- ・最新の法律の情報(法改正など)を提供してもらえる。
- ・トラブルの相手方にプレッシャーをかけることもできる。 など
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