契約書の作成を弁護士に依頼するメリットとは?
取引においては「契約書」が重要になりますが、それは契約書には主に次のような役割があるからです。
- ●契約相手との間で契約内容を確実に確認して文書で残しておくため
- ●当事者間で紛争が起きた場合に備えるため
簡単な契約書や定型的な内容であれば、会社の法務部でも対応できると思いますが、複雑な契約や大型契約、新規契約などでは法的な穴や抜けのない契約書を作成するのは難しいでしょう。
契約書に不備があると、顧客・取引先・従業員などから訴えを起こされてしまい、その対応に大きな費用・労力がかかってしまうこともあります。
また契約書を精査しなかったために、相手方に有利な内容のまま契約してしまい、不利な条件を強いられてしまう場合もあります。
本記事では、こうしたトラブルを未然に防ぐために、弁護士に契約書を作成してもらう、あるいはリーガルチェックをしてもらうメリットについて解説していきます。
目次
契約書とは?なぜ必要なのか?
契約書の役割とは?
会社を経営していく、あるいは何かの取引をするうえで大切なこと、ものはさまざまありますが、契約書もその一つです。
契約をする際、当事者の申し込みと承諾の意思表示が合致していれば、口約束であってもほとんどの契約は法的には成立するとされています。
第522条(契約の成立と方式)
- 1.契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
- 2.契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
しかし、通常、取引先と契約する際は契約書を交わしていると思います。
それは、契約書には主に次のような役割があるからです。
契約相手との間で契約内容を確実に確認して文書で残しておくため
契約が合意に至るまでには、双方でさまざまな話し合いが行なわれます。
その内容を一つひとつ口頭で取り決めたとしても、書面にでも残さなければ忘れてしまうでしょう。
また、お互いの認識が食い違っている場合もあります。
そこで、相手方との契約で合意が成立したこと、またその内容を確実に確認するため、そして備忘のために契約書を交わして、書面として残しておきます。
紛争が起きた場合に備えるため
ビジネスなどにおける取引では、想定できたトラブルだけでなく、予期せぬトラブルも起きる可能性があります。
契約書には、契約内容に双方が納得したうえで署名・捺印をするので、契約書があれば「この内容で取り決めました」という強力な証拠になります。
つまり、契約書という「証拠」があれば、トラブルを未然に防ぐことができるのです。
また、仮に紛争が起きたなら、相手方の契約違反の場合は契約書の内容に基づいて損害賠償請求をすることができますし、裁判に発展した場合でも契約書の内容を主張していくことができます。
契約書にはどのような項目・内容が記載されるのか?
契約書には基本的に記載するべき内容・項目があります。
ここでは主な6つの項目について解説します。
タイトル
どういった取引の契約についての契約書なのか、まずタイトルが入ります。
不動産の売買契約であれば「建物売買契約書」「土地売買契約書」など、商品・物品・製品売買契約であれば「商品販売業務委託契約書」「製品制作契約書」などです。
前文
「この契約は、このような契約です」ということを最初に説明する文章を前文といいます。
不動産の売買契約書であれば、次のようなものになります。
何のための契約なのか、について一番初めに明らかにすると同時に、「甲」「乙」「本件不動産」といった略語をここで取り決めてしまおうという役割もあります。
契約の内容・条項(条・項・号)
契約の内容について、「第1条1項1号」というように記述していきます。
たとえば、不動産の売買契約書であれば次のように始まります。
契約書というのは「甲」と「乙」の合意なので、甲と乙が何について合意したのかというのを「第○条 〇〇」というように、順番に各項目について取り決めて記述していきます。
その際、自社と相手方それぞれの「権利と義務」について記述していくことが大切です。
後文
契約書の最後に、「以上をもって、すべて合意しました」「その証拠として契約書を2通作りました」ということで、後文が入ります。
作成年月日
日付が空欄の契約書を見ることがありますが、これではこの契約がいつ合意されたのかがわからないため、裁判では争いになってしまいます。
裁判では、契約自体が、ある出来事があった前なのか、あるいは後なのかが重要になるため、必ず日付を漏らさず書いておくことが大切になってきます。
当事者の表示
当事者の甲乙それぞれが住所・氏名を記入して、捺印します。
印鑑がないと、後から相手方が「約束していない」と言いだしてトラブルになることもあるため、必ず双方が署名・捺印することが必要です。
契約書で注意するべきその他のポイント
その他の事項
不動産の契約の場合には物件目録を記載し、「どこの土地なのか」ということを特定します。
これがないと、どこの土地で何平米あるか、といったことがわからず、争いになる可能性があります。
物件目録にはしっかり目を通して、登記簿謄本の記載と間違いがないかなどを確認することも大切です。
印紙を貼らないとペナルティ!?
印紙税法の定めによって、不動産譲渡に関する契約書や、金銭消費貸借契約書などを作成する場合は収入印紙を貼付し、消印を押す必要があります。
複数の契約書を作成する場合は、契約書それぞれに印紙の貼付が必要です。
ただし、収入印紙が必要ない場合もあるので国税庁のホームページなどで自分が契約する契約書には印紙が必要なのか調べるといいでしょう。
印紙を貼ったら印紙と契約書の間に押印したり、ペンで線を引いて消印をします。
これは二度と使えないようにするためです。
契約書は2通作成したなら、それぞれ印紙を貼って、印紙の費用は折半するというのが一般的ですが、双方の取り決めになります。
印紙を貼っていないと税務署の調査が入った場合はペナルティがあるので注意が必要です。
【参考資料】:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで(国税庁)
契約書の作成を弁護士に依頼するメリットとは?
ビジネスを行なっていくうえでは、さまざまな契約が発生します。
契約書に不備があると、顧客や取引先、従業員から訴えを起こされてしまい、その対応に大きな費用・労力がかかってしまうこともあります。
また、相手方に有利な内容の契約書を精査せずに契約してしまったことで、自社が不利な条件で契約をしてしまう場合もあります。
そこで大切なのは、次のポイントです。
- ・契約書が必要な場合は作成を弁護士に依頼する
- ・契約書があるなら内容のリーガルチェックを弁護士に依頼する
簡単な契約書や定型的な内容であれば、会社の法務部でも対応できるでしょう。
しかし、複雑な契約や大型契約、新規契約などでは法的な穴や抜けのない契約書を作成するのは難しいと思います。
そこで、弁護士によるリーガルチェック(法務確認)が必要になるのです。
弁護士に契約書作成やリーガルチェック(法務確認)を依頼すると次のメリットがあります。
トラブルを未然に防ぐことができる
契約書に関する専門的な知識のある弁護士に依頼すれば、トラブルの芽となり得る箇所や自社に不利になる項目などを法的に修正・強化することができるので、契約に関わるトラブルを未然に防ぐことができます。
安心して契約を交わすことができる
業界・業種に特有の慣例や、関わる法令などの知見がないままでは、どういったトラブルが発生する可能性があるのかわからず、リスクと不安を抱えたまま契約をしなければいけません。
そこで弁護士に契約書作成やリーガルチェックを依頼すれば、取引の実態に即した契約内容を盛り込むことができます。
また、相手方が作成した契約書は基本的に先方が有利な内容になっていることがほとんどです。
その点、弁護士に依頼すれば安心して相手方との契約にのぞめるでしょうし、契約後は重要なビジネスパートナーとして友好な関係を築き、継続していくことができるのです。
弁護士に契約書作成を依頼する、あるいはリーガルチェックを依頼することで次のことが可能になります。
- ①当事者間で合意した内容をしっかりと明確化できる。
- ②契約書の実効性や有効性を高めることができる。
- ③トラブルが発生した場合は有力な証拠とすることができる。
- ④中小企業などが大手企業と対等な契約を結ぶことができる。
弁護士は必ずチェックする!契約書作成の重要ポイント
ここでは、トラブルを未然に防ぐために、あらかじめ契約書に記載しておくべき13の項目について解説していきます。
これらが契約書に規定されていないとトラブルが起きたり、自社に損となる契約になりかねないので、弁護士は、リーガルチェックでこれらの条項を確認します。
また、弁護士が依頼を受けて契約書を作成する際は、これらの条項を確実に規定していくのです。
履行期日
支払期限などを規定しておかないと、取引先からの入金や納品でトラブルが起きかねません。
そこで、契約の当事者双方が、「何を」「いつまでに」「するべきか」について、履行期日を明確に既定しておきます。
たとえば、「甲は乙に対し、令和○年○月○日までに、本件土地を現状有姿のまま引き渡す。」というように明記します。
存続期間
「いつまでその契約が続くのか」について必ず定めておかなければなりません。
そこで、次のような規定を明記しておきます。
「本契約の期間は、平成○年○月○日から平成○年○月○日までとする。」
「本契約の期間は、平成○年○月○日から○年間とする。」
なお、存続期間後の対応についても、次のような内容を規定しておきます。
- ・更新するのか、しないのか
- ・これで契約終了なのか
- ・自動的に更新するものなのか
- ・更新する際の手続きでは何が必要か
契約解除
「甲又は乙が以下の各号のいずれかに該当したときは、相手方は催告及び自己の債務の履行の提供をしないで直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。なお、この場合でも損害賠償の請求を妨げない。」
このような契約解除条項を入れておき、本契約のうち一つでも違反したときは契約を解除できるようにしておきます。
なお契約違反以外にも、監督官庁から営業停止を受けたときのような「信用を失うような行為」があったときは、民法の規定では解除できません。
しかし、上記のように契約書に定めておけば、相手方に信用を失う行為があった場合にはすぐに解除できます。
そして、他の会社と契約をすることができるので、トラブル防止になります。
期限の利益喪失
「甲が以下の各号のいずれかに該当した場合、甲は当然に本契約及びその他乙との間で締結した契約から生じる一切の債務について期限の利益を失い、甲は乙に対して、その時点において甲が負担する一切の債務を直ちに弁済しなければならい。」
このような条項を「期限の利益喪失条項」といいます。
たとえば、AがBに3,000万円で土地を売却する際に、一括で支払えないために300万円の10回払いにした場合、Bには利益があるので、これを「期限の利益」といいます。
しかし、Bの分割支払いが滞った場合、Aの損害になるので残金を一括で支払うように請求するために「期限の利益喪失条項」を規定しておくわけです。
分割支払いの契約では、この条項を契約書に入れておくべきです。
損害賠償
損害賠償については、契約書に規定がなくても民法の規定により損害賠償請求をすることができますが、注意的にこの条項を規定しておくといいでしょう。
「甲又は乙は、解除、解約又は本契約に違反することにより、相手方に損害を与えたときは、相手方に対してその損害の全て(弁護士費用及びその他の実費を含むがこれに限られない。)を賠償しなければならない。」
なお弁護士費用については、商取引で債務不履行があって裁判を起こす場合、誰が負担するかという疑問があると思います。
これは、各自が支払うことになっているのですが、「損害の全て(弁護士費用及びその他の実費を含むがこれに限られない。)を賠償しなければならない。」という条文を入れておけば、弁護士費用を相手に請求することができるわけです。
ですから、自社が有利になるようにこのような条項を契約書に入れておくべきなのです。
違約罰
たとえば、AがBに土地を売却する際、Bが金額を支払わないために取引が遅れたことによってAがどのような損害を被ったのかを証明するのは難しい問題です。
そこで、次のような違約罰条項を規定しておきます。
「甲又は乙は、解除、解約又は本契約の重大な義務に違反することにより、相手方に損害を与えたときは、相手方に対して代金総額(消費税込)の20%相当額の違約金を賠償しなければならない。ただし、これを超える損害が発生したときは、その超過額も賠償しなければならない。」
このように違約罰を定めておけば、損害額などを証明しなくても20%相当額の違約金が損害賠償になるわけです。
取引において、相手の債務不履行の際に自社の損害額を証明しにくい場合は違約罰を定めておくのがいいでしょう。
危険負担
建物の売買で、契約書に記載した引渡期日の前に、たとえば震災等で建物が倒壊などしてしまった場合は建物の引渡しができません。
その際、引渡ができないからこの売買自体がなくなるのか、あるいは引渡しできないが契約したのだから代金を支払う義務があるのか、という問題が起きる可能性があり、これが「危険負担」の問題になります。
例として次のような条項を規定して、契約書に記載しておきます。
「引渡前に生じた本件物品の滅失、毀損、減量、変質、その他一切の損害は買主の責に帰すべきものを除き売主が負担し、本件物品の引渡後に生じたこれらの損害は、売主の責に帰すべきものを除き買主が負担する。」
契約不適合
「いつまでの間に」「契約に適合しない内容が見つかった場合にはどうするのか」について契約書で定めておく必要があります。
たとえば、次のような条項を入れておきます。
2.前項の催告にもかかわらず、乙が定めた期間に甲が追完しない場合、乙は、甲に対し不適合の内容に応じた代金の減額を請求できる。
3.本条の規定は、乙による損害賠償請求又は解除を妨げない。」
建物を引き渡し後、シロアリや雨漏りなどの契約不適合が発見された場合、買い手は売り手に対して、6か月以内であれば修理させたり代金を減額させることができる、というような規定です。
保証人
金融機関等で融資を受ける場合に、「保証人を誰にしますか」と要求された経験がある方もいるでしょう。
お金を借りた本人が返済しない、できない時は本人に代わって支払う義務を負担するというのが保証人です。
「丙は、乙の連帯保証人として、本契約により生じる乙の甲に対する一切の債務の弁済につき、連帯して保証する。」
取引の際に、相手の信用力に疑問がある場合などでは、このような条項を入れておきます。
相殺の予約
「甲は、本契約又は本契約に限らないその他の契約等に基づき甲が乙に対して負担する債務と、本契約又は本契約に限らないその他の契約等に基づき、甲が乙に対して負担する債権とをその債権債務の期限にかかわらず、いつでもこれを対当額において相殺することができる。」
これは、たとえばAがBに土地を売却する契約において代金が7,000万円だったとして、じつは過去にBがAに7,000万円貸していて返済されていない、というような場合にはそれぞれの債権を相殺して、失くしてしまうことができるという条項です。
普通の商取引ではあまり行なわれませんが、A社とB社の間で商品をそれぞれ購入しあっているような場合は、お互いの商品代金を相殺するという条項を入れる場合があります。
諸費用の負担の条項
契約書などの印紙代、送料、振込手数料、固定資産税などの取引に関わる諸費用は誰が負担するのかについて決めておかないと、後からトラブルが発生する可能性があります。
次のような条項を契約書に記載しておきます。
「本契約の締結に要する印紙その他の費用は、甲が負担するものとする。
甲は、引渡期日に、引渡場所に本件物品を持参して引き渡す。なお、引渡しに要する費用は甲の負担とする。」
裁判管轄の条項
たとえば、東京に会社のあるA社と九州のB社の間での取引でトラブルが発生した場合、どこで訴訟を提起するかという問題があります。
東京のA社が東京地裁で裁判を起そうとしたところ、契約書には福岡地裁と記載されているなら福岡に行って裁判を起さなければいけません。
そのような事態に対応するために、次のような条項を入れておき、自社に有利な裁判管轄を決めておくことも必要になってきます。
「甲及び乙は、本契約に関し裁判上の紛争が生じたときは、訴額等に応じ、○○簡易裁判所又は○○地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。」
協議事項
契約に際してお互い仲良くやっていくために、必ずしも法的な効力が生ずる部分ではないが、「何らかのトラブルが発生した場合は双方で話し合って解決しましょう」ということを記載するのが協議事項で、次のような条文を記載します。
「本契約に定めのない事項、又は本契約の解釈について疑義が生じたときは、甲乙誠意をもって協議のうえ解決する。」
契約書の作成・リーガルチェックを顧問弁護士に依頼するべき理由
取引におけるトラブルを未然に防ぐために、上記のような条項を規定して契約書を作成する、あるいはこうした条項が入っているかをリーガルチェックするのは、契約書の実務に精通した弁護士でないと難しいでしょう。
こうした場合に頼りになるのが、顧問弁護士という存在です。
●顧問弁護士は、通常の弁護士のように目の前にある法的問題の解決を行ないますが、自社のことをよく理解してくれるので、経営者の方が気づかない会社の問題を察知し、適切なアドバイス、対応を行なうことができる、かかりつけのホームドクターのような存在です。
●顧問弁護士の最大のメリットは、将来的なリスクの芽を事前に摘み取り、法的なトラブル防止ができることですから、契約書の作成やリーガルチェックでは経営者は大きなメリットを受けることができます。
●契約書関係以外でも、「労働問題」「損害賠償問題」「債権回収」「企業紛争」「不動産取引」「相続問題」「事業承継やM&A」など、自社の状況やニーズに合った顧問弁護士と契約することで、さまざまなメリットを得ることができます。
経営者の方は一度、検討されることをおすすめします。
・顧問弁護士とは?|費用や相場・メリットについて