下請法の適用対象と規制の概要を解説│違反となる取引とは?
「下請法」は、取引において下請事業者が不利益を被ることが多いため、立場や資本力で優位にある発注者(親事業者)による、資本力等が小さい下請事業者への不当な取引を防止するために制定された法律です。
下請法には、下請取引における親事業者の義務や禁止行為などが定められています。
「親事業者の義務」
・書面の交付義務
・書類の作成・保存義務
・下請代金の支払期日を定める義務
・遅延利息の支払い義務
「親事業者の禁止事項」
・受領拒否の禁止
・下請代金の支払い遅延の禁止
・下請代金の減額の禁止
・返品の禁止
・買いたたきの禁止
・購入・利用強制の禁止
・報復措置の禁止
・有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
・割引困難な手形の交付の禁止
・不当な経済上の利益の提供要請の禁止
・不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
ただし、すべての取引が下請法の適用対象になるわけではなく、「取引内容」や「資本金」によって異なります。
本記事では、下請法において、どのような取引が適用対象になるのか、また規制を受ける内容について、「下請法の60日ルール」や「トンネル会社規制」なども合わせて解説していきます。
目次
下請法の概要・目的・定義について
(1)下請法とは?
下請法とは、親事業者の下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を規制する法律です。
正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」の特別法として制定され、1956(昭和31)年に公布されています。
2003(平成15)年には法改正が行なわれ、規制対象が役務取引に拡大され、違反行為に対する措置が強化されています。
取引において、下請事業者は不利益を被ることが多いため、立場や資本力で優位にある発注者(親事業者)による、資本力等が小さい下請事業者への不当な取引(下請代金を発注後に減額する、支払いが遅延するなど)を防止するために下請法は制定されています。
下請法には、下請取引における親事業者の義務や禁止行為などが定められているため、親事業者は当然、下請法に違反しないようにしなければいけません。
ただし、下請法の適用対象、つまり、どのような取引が下請法違反になるのかについては、「取引内容」や「資本金」によって異なり、すべての取引が下請法の適用対象になるわけではないことに注意が必要です。
(2)下請法の目的と親事業者・下請事業者の定義
「目的」
下請取引の公正化・下請事業者の利益保護を目的とします。(第1条)
「親事業者(委託する側)・下請事業者(委託を受ける側)の定義」
下請法の対象となる取引は、事業者の資本金規模と取引内容により、次のように定義されています。(第2条第1項から第8項)
(3)親事業者の義務・禁止事項
親事業者の義務・禁止事項は次のように定められています。
「親事業者の義務」
●書面の交付義務(第3条)
発注の際は、直ちに法律で定められた書面を交付すること。
●下請代金の支払期日を定める義務(第2条の2)
下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること。
●書類の作成・保存義務(第5条)
下請取引の内容を記載した書類を作成し、2年間保存すること。
●遅延利息の支払い義務(第4条の2)
支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと。
【参考資料】「親事業者の義務」(公正取引委員会)
「親事業者の禁止事項」
●受領拒否の禁止(第4条1項1号)
注文した物品等の受領を拒むこと。
●下請代金の支払い遅延の禁止(第4条1項2号)
下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。
●下請代金の減額の禁止(第4条1項3号)
あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
●返品の禁止(第4条1項4号)
受け取った物を返品すること。
●買いたたきの禁止(第4条1項5号)
類似品等の価格または市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。
●購入・利用強制の禁止(第4条1項6号)
親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。
●報復措置の禁止(第4条1項7号)
下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会または中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。
●有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条2項1号)
有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。
●割引困難な手形の交付の禁止(第4条2項2号)
一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
●不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条2項3号)
下請事業者から金銭、労務の提供等をさせること。
●不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(第4条2項4号)
費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること。
【参考資料】「親事業者の禁止行為」(公正取引委員会)
(4)違反行為に対する罰則について
「罰金」
第3条・5条に違反した場合、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、50万円以下の罰金に処されます。(第10条)
「勧告」
親事業者は、違反行為をやめること、必要な措置を取るべきことの勧告を受ける場合があります。(第7条)
「報告徴収・立入検査」
公正な取引のために必要な場合、親事業者もしくは下請事業者は、その取引に関する報告を求められたり、立入検査が行なわれることがあります。(第9条)
【参考情報】「下請法の概要」(公正取引委員会)
下請法の規制対象となる4つの取引とは?
下請法において規制対象となる取引は4つあり、製造業やサービス業など幅広い取引が対象になっています。
ここでは、公正取引委員会が公表している情報を参考に、取引内容について解説します。
(1)製造委託(第2条1項)
物品の製造や販売、修理を営んでいる事業者(親事業者)が、「規格、品質、形状、デザイン、ブランドなどを細かく指定して」、他の事業者(下請事業者)に物品等(物品、その半製品、部品、付属品、原材料、金型)の製造や加工などを委託する取引です。
<製造委託の例>
①物品を販売する事業者が物品や部品等の製造を他の事業者に委託
例1)自動車メーカー⇒部品メーカー/自動車部品の製造を委託
例2)スーパーなどの小売チェーン⇒食品メーカーなど/プライベートブランドの食品などの製造を委託
例3)出版社⇒印刷会社/書籍や雑誌などの印刷を委託 など
②物品の製造を請け負う事業者が物品や部品の製造を他の事業者に委託
例1)精密機器メーカー⇒部品製造会社/受注生産する精密機械に用いる部品の製造を委託
例2)建築材メーカー⇒資材メーカー/受注生産する建築材に用いる原材料の製造を委託
例3)金属製品メーカー⇒金型製造会社/受注生産する金属製品の製造に用いる金型の製造を委託 など
③物品の修理を営む事業者が修理用の部品の製造などを他の事業者に委託
例1)家電メーカー⇒部品製造会社/販売した製品の修理に必要な部品の製造を委託
例2)工作機器メーカー⇒部品製造会社/自社で使用する工作機械の修理に必要な部品の製造を委託 など
④自社で使用する物品を自社内で製造している事業者が製造を他の事業者に委託
例1)精密機器メーカー⇒資材製造会社/製品造運送用の梱包材などを自社で製造している会社が、その梱包材などの製造を委託
例2)工作機器メーカー⇒部品製造会社/自社で使用する工作機械を自社で製造している会社が、その部品の一部の製造を委託 など
(2)修理委託(第2条2項)
物品の修理を営んでいる事業者(親事業者)が請け負う物品の修理の全部または一部を他の事業者(下請事業者)に委託する取引、また事業者(親事業者)が自社で使用する物品を自社で修理する場合に修理の一部を他の事業者(下請事業者)に委託する取引です。
①物品の修理を請け負う事業者が他の事業者に修理を委託
例1)自動車ディーラー⇒修理会社/請け負った自動車の修理作業を委託 など
②自社で使用する物品の修理を自社で行なっている事業者が他の事業者に修理の一部を委託
例1)貨物運送会社⇒機械修理会社/貨物用リフトなどを社内で修理している会社が、修理作業を委託 など
(3)情報成果物作成委託(第2条3項)
情報成果物(ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザイン)の提供や作成を営む事業者(親事業者)が作成の全部または一部を他の事業者(下請事業者)に委託する取引、また事業者(親事業者)が自社で使用する情報成果物を自社で作成する場合に作成の全部または一部を他の事業者(下請事業者)に委託する取引です。
①情報成果物を提供する事業者が作成対応の一部または全部を他の事業者に委託
例1)ソフトウェアメーカー⇒ソフトウェアメーカー/ゲームソフトやアプリケーションソフトなどの開発を他社に委託
例2)アパレルメーカー⇒デザイン会社/商品のデザイン制作を委託
例3)家電メーカー⇒マニュアル制作会社/製品の取扱説明者の作成を委託 など
②情報成果物の作成を請け負う事業者が作成対応の一部または全部を他の事業者に委託
例1)広告代理店⇒CM制作会社/クライアントから受注したCMの制作を委託
例2)建設会社⇒建築設計会社/請け負った建築物の設計図面の作成を委託
例3)テレビ番組制作会社⇒音響制作会社・脚本家など/テレビ局などから請け負った番組制作に関するBGMや脚本作成を委託 など
③自社で使用する情報成果物を自社で作成している事業者が情報成果物の作成を他の事業者に委託
例1)家電メーカー⇒ソフトウェアメーカー/社内のシステム部門で作成する自社用経理ソフトなどの作成の一部を委託
例2)デジタルコンテンツ会社⇒ホームページ制作会社/自社ホームページのコンテンツの作成を委託 など
(4)役務提供委託(第2条4項)
役務(サービス)の提供を行なう事業者(親事業者)が、請け負った役務の全部または一部を他の事業者(下請事業者)に委託する取引です。
※建設業者が請け負う建設工事は下請法からは除かれており、建設業法の定めるところによります。
例1)ビルメンテナンス会社⇒清掃会社/請け負ったメンテナンス業務の一部であるクリーニング業務を委託
例2)ソフトウェアメーカー⇒顧客サービス代行会社/販売ソフトに関するコールセンター業務を委託
例3)貨物運送会社⇒貨物運送会社/請け負った貨物運送業務のうち、一部の経路の業務を委託 など
【参考情報】
「よくある質問コーナー(下請法)」(公正取引委員会)
「知るほどなるほど下請法」(公正取引委員会)
下請法で注意するべきポイント
(1)下請法の60日ルールに注意
親事業者が、物品等を受領した日(役務提供委託の場合は役務が提供された日)から起算して60日以内に、定めた支払期日までに下請代金を全額支払わない場合、下請法違反になります。
いわゆる「下請法の60日ルール」と呼ばれるもので、親事業者は注意が必要です。
たとえば、「毎月末日納品締切/翌月20日支払い」の場合、仮に6月1日に親事業者が下請事業者から受領したなら、この支払サイトでは7月20日に支払いが行われるため、受領日から支払日までは60日以内となり問題はありません。
一方、「毎月末日納品締切/翌々月10日支払い」というった場合、6月1日に親事業者が下請事業者から受領したなら、この支払サイトでは8月10日に支払いが行われるため、受領日から支払日までが60日を超えてしまうことになります。
【参考資料】
支払期日を定める義務について(公正取引委員会)
(2)トンネル会社規制とは?
トンネル会社規制とは、親事業者が直接、下請事業者に委託をすると「下請代金法」の対象となる場合、親事業者が下請代金法の適用を逃れるために、故意に資本金の小さい会社(子会社など)を取引の間に入れることを防止するものです。
こうしたケースでは、次の2点を満たす場合は、資本金がいくらであっても子会社と下請事業者の間には下請法が適用されることに注意が必要です。
①親事業者が子会社を実質的に支配している。
②子会社が受けた取引の相当部分または全部を下請事業者に再委託している。
以上、「下請法」の適用対象と規制の概要について解説しました。
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