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残業代の知識まとめ きっとあなたも損をしている!?

最終更新日 2022年 06月27日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

近年、会社と社員の間で起きる労働トラブルが複雑化、社会問題化しています。

時間外労働や不当解雇、安全・衛生問題、パワハラ・セクハラなど、さまざまな問題が起きていますが、その中でも多いもののひとつが残業代などの賃金未払い問題です。

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今回は、働く人にとって重要な賃金、その中でも残業代の未払い問題を中心にまとめてみました。

もはや他人事ではない!?労働トラブルが増えている

厚生労働省が公表している「平成25年度個別労働紛争解決制度施行状況」によれば、総合労働相談コーナーに寄せられた相談は、労働者からのものが630,070件、事業主からのものが298,031件で、年間約105万件あまりにもおよびます。

平成14年度が約62万5,000件だったことと比較すると、1.7倍に増加しています。

これは、単純に計算すると1日に約3,000人もの人が労働相談に駆け込んでいることになります。

また、これも厚生労働省が公表した統計ですが、平成23年4月から平成24年3月までの間に、賃金不払いの是正を指導され割増賃金を100万円以上支払った企業は1,312社で、支払われた割増賃金の合計額は、じつに145億9,957万円にもなっています。

ところで、労働基準監督官が、ある日会社にやって来て立ち入り調査や監督指導を行うことを「臨検」といいますが、厚生労働省が2014年11月に実施した「過重労働解消キャンペーン」における重点監督の実施では以下のような結果が公表されました。

〇違法な時間外労働があったもの:2,304事業所(50.5%)
〇労働時間の把握方法が不適正なため指導したもの:1,035事業所(22.7%)
〇賃金不払残業があったもの:955事業所(20.9%)

5社のうち1社に残業代の未払いがあったことになります。

ここ数年、訴訟の数は減っていますが、労働事件自体は増えています。

あなたは、これらの数字を多いと思いますか? それとも少ないと思いますか?

労働トラブルは、自分には関係ないものだと思いますか? それとも、すでに職場での問題を抱えているでしょうか?

いずれにしても、雇用している会社側も働いている社員側も、もはや労働トラブルは他人事ではないという時代になっているのかもしれません。

企業が巨額な未払い残業代を支払った驚きの実例

実際、労働基準監督官による是正勧告によって企業が莫大な未払い残業代を支払ったケースの実例を紹介します。

事例① 大和ハウス工業

2011年4月、大和ハウス工業は2010年12月までの2年間で計約32億円の残業代を支払っていなかったと発表。

労働基準監督署の是正勧告を受けて行った社内調査で分かった。グループ32社のうち16社で未払いが発覚。全社員の約4割にあたる9,387人が1人当たり月平均で約1万4,000円の残業代を受け取っていなかった。残業時間は全体で151万時間を超えていた。

事例② 王将フードサービス

2014年7月、王将フードサービス(中華料理店チェーン「餃子の王将」を展開)は、社員とパート従業員の計923人に対し、2億5,500万円分の賃金の未払いがあったと発表。

2013年7月から2014年2月までの間に、全国の直営店で残業時間を適正に管理せず、残業代の一部を払っていなかったとして労働基準監督署から実際の労働時間に見合った残業代を支払うよう是正勧告を受けた。この問題などの責任を取る形で役員2人を降格処分にし、全役員と監査役の報酬を減額するとした。

 

事例③ 秋田魁新報社

2014年10月、「秋田魁新報」を発行する秋田魁新報社は、従業員の残業代と深夜割増賃金の未払いについて労働基準監督署から是正勧告を受けた。同社の調査では、未払いは約220人の1~6月分で計約7,500万円になる見込み。

未払い残業代のトラブルは、社員など労働者にとってはもちろん大きな問題ですが、会社にとっても事業存続にもかかわる重大問題となる場合があります。

また、会社名が世間に公表されたり、取引先との信用を失うなど会社にとって大きな損失になりかねないということは十分知っておくべきことでしょう。

あなたにも未払い残業代がある!?正しい残業代の請求方法とは?

日本労働組合総連合会が2014年11月に発表した「ブラック企業に関する調査」。
この調査によると、前月に所定外労働をした2,284人に残業代の支払い状況をアンケートしたところ、以下のような結果が出たようです。

・全額支払われている/ 59.4%
・一部(50%以上)支払われている/ 8.5%
・一部(50%未満)支払われている/ 7.1%
・全く支払われていない/ 18.3%
・わからない/ 6.7%

一部もしくは、まったく支払われていないケースが33.9%と、じつに3人に1人の割合で残業代の未払いがあったことになります。

また、残業代の未払いのほか、募集時の労働条件の違い、労働時間が守られていない、職場での嫌がらせなどの労働トラブルに対して、何もしなかった人が36%いて、その理由は「面倒だった」(45%)、「改善されると思わない」(40%)、「みんなも我慢していると思った」(29%)、「どうすればいいか分からない」「だれに相談すればいいか分からない」が各2割前後あったということです。

ところで、こうした労働トラブルは本当に改善されないのでしょうか?
誰にも相談せずに我慢していればいいのでしょうか?

そんなことはありません、解決する方法はあるのです。

もちろん、ケースバイケースで対応の仕方は変わってきます。
そこで、未払い残業代に対する正しい対処法についてケース別に解説していきます。
ぜひ参考にしていただいて、今後に役立ててください。

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残業代は、どんな時に支払われるのか?

会社で社員として働く、ということは、多くの場合、取り決めた時間労働し、その労働時間に対して給料をもらう、ということです。

つまり、社員は労働時間を売っている、とも言えるわけです。
そうなると、自分が何時間働くかが重大な関心事となります。

では、法律では労働時間に関して、どのように決められているでしょうか?

「労働基準法」では、会社は社員を「1日につき8時間」、「1週間につき40時間」以上は働かせてはいけない、とされています。

しかし、現実には残業をしている方が多いのではないでしょうか。

これは原則として、1日8時間・週40時間働かせることができるが、例外的に残業させることができる場合を定めています。

それは、非常時の場合を除き、「労働組合か労働者の過半数代表者」との間で残業について定めた「36(さんろく)協定」を締結し、それを労働基準監督署長に届け出ていた場合です。

もし、この手続をしていなければ、会社は社員に残業をさせることは法律上許されず、残業させた場合には、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。

ぜひ、この「36協定」が締結され、労働基準監督署長に届け出られているか、ご自分の会社を調べてみましょう。

さて、36協定がある場合には、会社は社員に残業させることができますが、残業代はいつから発生するでしょうか?

もちろん、会社と取り決めた時間以上に働いた場合には残業代が発生するのですが、会社は法律上の残業代について、通常の賃金の1.25倍の割増賃金を支払う義務を負います。

問題は、この1.25の割増賃金がいつから発生するのか、という点です。

よくある間違いは、「会社と取り決めた時間」以上に働いた場合に割増賃金が発生する、という考えです。

たとえば、朝9時~17時までが勤務時間で、途中休憩1時間だった場合、17時を過ぎた時点で割増賃金が発生する、という考えです。

しかし、これは誤りです。

法的には、1日8時間・週40時間を超えたところから割増賃金が発生します。

もちろん、当事者間で、「7時間を超えたら割増賃金が発生する」と取決めた場合は、それに従うことになります。

“うちの会社には残業代はない”と言われていても請求できる?

ところで、「うちの会社には残業代はない」といって、残業代が支払われない会社も結構な割合であるようです。

なかには、就職する際に、「うちは残業代はないから」と説明し、いくら残業をしたとしても、「面接の時に説明しただろう。

それに、入社時誓約書に『残業代は一切請求しません』と書いてある。

うちは残業代は払わないよ」と言って、まったく残業代を支払わない会社もあります。

しかし、これは違法です。

いくら就職面接のときに説明したとしても、たとえ社員が誓約書に「残業代は一切請求しません」と書いたとしても、法的にはその誓約書自体が無効になりますので、残業代を請求することができます。

これは、労働法が強行法規であるためです。
つまり、労働基準法に反する当事者間の合意は、「全て無効」になってしまうということです。

したがって、この誓約書が無効になる結果、社員は会社に対し、働いた分の残業代を請求できる、ということになります。

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定時になるとタイムカードを切らされ、その後に残業させられる!?

では、終業時間になるとタイムカードを切らされ、会社から退出したことにさせられる取扱がある会社の場合はどうでしょうか?

この場合、労働時間はタイムカードで管理されているので、社員がタイムカードを切ったということは、その時点で労働時間ではない、と会社は主張しそうです。

しかも、証拠としてはタイムカードが出てきますので、会社側が有利になりそうです。

もちろん、タイムカードを切った後、社員が社内に残って遊んでいるような場合には、残業しているとはみなされませんので残業代は支払われませんが、こうしたケースでも、残業が会社の指揮命令下で仕事をしている場合には、やはり会社は社員に対して残業代を支払う義務を負います。

なぜなら、労働時間とは、会社の「指揮命令下」にある時間だからです。

会社がタイムカードで労働時間を管理していたとしても、実際に仕事が終わらず、事実上残業しないといけないような場合で、これを上司が黙認している場合には、会社の「指揮命令下」にあるとして、残業代を支払う義務が発生するのです。

では、自分に不利な証拠になるタイムカードは、どのように切り崩したらよいのでしょうか?

この点については、自分で作成した労働時間のメモ、パソコンのログイン・ログオフの記録、メールのやり取りの時刻、他の同僚の証言、などにより証明していくことになります。

年俸制でも残業代を請求できる?

では、給料が月給制ではなく、年俸制で定められている場合は、どうでしょうか?

この場合には、いくら働いても給料が年間で決まっているのですから、残業が発生しない、と思えそうです。

しかし、これも誤りです。

たとえ年俸制であっても、法律の定めは、1日8時間・週40時間を超えたら、割増賃金を支払うよう定めています。

労働基準法に反する労働契約は無効ですから、この場合も1日8時間・週40時間を超えたら時点で、割増賃金が発生することになります。

固定残業代制でも残業代が発生する?

最近、「固定残業代制」を採用している会社が増えています。
これは、残業代を「残業20時間まで月○万円」として、一定額を基本給に上乗せして支払う給与制度のことです。

この制度が適法に作られていると、確かに取決めた残業20時間までは割増賃金は発生しません。

しかし、事はそう簡単ではありません。

「固定残業代制度は無効」として、割増賃金の支払を命じる判決がいくつも出されているのです。

具体的には、判例ごとに要件が分かれているのですが、

①基本給と残業代が明確に区別され明示されていること。
②実際の残業代が固定残業代を上回るときに、賃金として支払う旨を就業規則や契約書で合意されていること。
③給与明細などに労働時間などを明示し、残業代がいくらになるのかを計算できること。

これらをもって固定残業代制は有効とされています。

まず、就業規則などを見て、基本給がいくらで固定残業代はいくらなのか、がわからなければなりません。

そして、給料をもらう際に、

「今月は●時間残業したから、固定残業の範囲内だ」

「今月は●時間残業したから、割増賃金が出るな」

などと社員がわかるようにしておかなければならない、ということです。

現実には、これがきちんとできていない会社が多いように見受けられます。

何度も繰り返しになりますが、労働基準法は強行法規であり、労働基準法に違反する就業規則や契約は全て無効になります。

会社としては、きちんと法律を守った制度設計をし、かつ、運用をして、経営基盤を強固にする努力が求められていると思います。

そして、社員など労働者もあきらめて泣き寝入りすることなく、法律を学んだり、適切な相談をしていく努力をしていくべきでしょう。

とはいっても、労働法は複雑で自分1人で対応するには難しい部分があるのも事実です。

万が一、交渉や訴訟になった場合などは専門家に相談することをおすすめします。

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