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建設アスベスト(石綿)被害の給付金制度の概要と請求方法

最終更新日 2024年 08月19日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

建設アスベスト(石綿)被害の給付金制度の概要と請求方法
 

この記事を読むとわかること

 
工場などでの仕事に従事していた方、あるいは工場の近隣住民の方が長期間、アスベスト(石綿)を吸い込んだことにより肺がんや中皮腫などを発症する健康被害の訴えが増えています。

本記事では、アスベスト(石綿)の健康被害の実態から法的規制の歴史と内容、おもな疾患と発症までの期間、建設アスベスト給付金制度の内容、給付金請求の手続き方法、給付金額などについて、わかりやすく解説していきます。

アスベスト(石綿)による健康被害の実態と法的規制について

アスベスト(石綿)とは?

アスベスト(石綿)は蛇紋石や角閃石が繊維状に変形した天然の鉱石で、耐火性や耐薬品性、耐腐食性、電気絶縁性などに優れていることから重宝され、建材や電気製品などさまざまな製品に使用されてきました。

たとえば、住宅やビルなどの建築物では外壁や屋根、鉄骨の柱や梁(はり)、天井、床の下地など。
工業製品では、自動車のブレーキや部品の結合部分のパッキン、冷蔵庫や洗濯機、エアコン、掃除機、ドライヤーなどです。

しかし、空気中に飛散したアスベスト(石綿)の繊維を長期間、大量に吸い込むことで人体に重大な健康被害を引き起こすことは以前から知られており、初めて指摘されたのは1900年代に発表された論文だったといいます。

その後、イギリスでは1924年に石綿症の診断基準が定められ、アメリカでは1970年代に裁判所が「1930年代からアスベストの産業界は危険性を認識していながら隠蔽していた」と認定したという歴史があります。

アスベスト(石綿)の健康被害の実態

日本においては2005(平成17)年、新聞の報道をきっかけに、アスベスト(石綿)を使用した建材の製造会社が、①従業員が肺がんや中皮腫で死亡していたこと、②工場近隣の住民や従業員の家族が中皮腫(ちゅうひしゅ)を発症、死亡していたことを公表。

これにより、アスベスト(石綿)による健康被害が社会的な問題となりました。

同年には厚生労働省が1999年度(平成11年度)から2004年度(平成16年度)までに、全国の労働基準監督署において石綿による肺がん、中皮腫の労災認定を受けた労働者が所属していた事業場に関する一覧表を公表。

その後、2012年(平成24年)には日本で1,400名の中皮腫による死亡者が発生していることが公表されました。

アスベスト(石綿)が原因のおもな疾患と発症までの期間

アスベスト(石綿)の吸引が原因となるおもな疾患と、発症までの期間は次のようになっています。

石綿(アスベスト)肺

肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つで、石綿のばく露によっておきた肺線維症が石綿肺と呼ばれています。

仕事でアスベスト粉塵を10年以上吸入した人が発症するとされ、発症までの期間(潜伏期間)は15~20年といわれています。

肺がん

アスベストばく露から肺がん発症までの潜伏期間は15~40年と考えられており、ばく露の量が多いほど発生率が高いとされます。

悪性中皮腫

胸膜(肺を取り囲む)、腹膜(肝臓や胃などの臓器を囲む)、心膜(心臓や大血管の起始部を覆う)などにできる悪性の腫瘍で、若い時期にアスベストを吸い込んだほうが発症しやすいとされます。

発症までの潜伏期間は20~50年と考えられています。

びまん性胸膜肥厚

胸膜の慢性線維性胸膜炎の状態で、発症までの潜伏期間は30~40年と考えられています。

良性石綿胸水

胸腔内に体液(胸水)が溜まってしまう状態で、発症までの潜伏期間は40年ほどと考えられています。

【参考資料】:アスベスト(石綿)に関するQ&A(厚生労働省)
石綿(アスベスト)関連疾患(環境再生保全機構)

日本におけるアスベスト(石綿)の法的規制(禁止)の変遷

日本におけるアスベスト(石綿)の法的規制は、次のような変遷をたどってきました。

  • ・1960(昭和35)年4月、「じん肺法」が施行。
  • ・1975(昭和50)年9月、「特定化学物質等障害予防規則」の改正により、アスベスト(石綿)の含有率が重量の5%を超える建材での吹き付け作業が禁止。
  • ・1995(平成7)年、「特定化学物質等障害予防規則」の改正により、アスベスト(石綿)の含有率が重量の1%を超える建材での吹き付け作業が禁止。
  • ・2004(平成16)年、石綿を1%以上含む製品(10品目)の製造、輸入等が原則禁止。
  • ・2006(平成18)年、「労働安全衛生法」の改正により、石綿を0.1%以上含む製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が原則禁止(一部の製品は猶予措置)。
  • ・2012年(平成24年)3月、すべての代替技術が確立したため、石綿を0.1%以上含む製品すべての製造、輸入、譲渡、提供、使用が完全に禁止。

建設アスベスト給付金制度をわかりやすく解説

建設アスベスト訴訟から法案成立までの流れ

「建設アスベスト訴訟」とは、建設業務に従事していた元労働者とご遺族が、アスベスト(石綿)による健康被害を被ったのは、国が規制権限を適切に行使しなかったからであるとして、国家賠償法に基づく損害賠償を請求した訴訟です。

最高裁判所が、2020(令和2)年12月14日以降、国の上告受理申立てを受理しないとの決定を行なったことにより、国の責任を一部認めた高裁判決が確定し、2021(令和3)年5月17日の最高裁判決で、国敗訴の判決が言い渡されました。

これらの判決と「与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム」における検討を踏まえ、同年5月18日に、厚生労働大臣と建設アスベスト訴訟原告団および弁護団との間で、基本合意書が締結。

また与党において法案化が進められ、同年6月9日に議員立法により「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立し、2022(令和4)年1月19日には、同法が完全施行となっています。

【参考資料】:建設アスベスト訴訟に係るこれまでの経緯(厚生労働省)

建設アスベスト給付金制度の仕組みと内容をわかりやすく解説

対象者

次の1~3の要件を満たす方が、建設アスベスト給付金制度の対象となります。

  1. 1.下記の表 の期間ごとに、記載しているアスベスト(石綿)にさらされる建設業務に従事することにより、
  2. 2.石綿関連疾病にかかった、
  3. 3.労働者や一人親方・中小事業主(家族従事者等を含む)であること。

 

期間 業務
昭和47年10月1日~昭和50年9月30日 石綿の吹付けの作業に関する業務
昭和50年10月1日~平成16年9月30日 一定の屋内作業場で行なわれた作業に関する業務

 
※表の期間および業務は、最高裁判決等を踏まえ定められたもの。
※ご本人が亡くなっている場合には、ご遺族(①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母または⑥兄弟姉妹)のうち、最先順位者からの請求が可能。

給付金額

認定審査会の審査の結果に基づき、病態区分に応じて次の表のように 給付金が支給されます。

1.石綿肺管理2で、じん肺法所定の合併症のない方 550万円
2.石綿肺管理2で、じん肺法所定の合併症のある方 700万円
3.石綿肺管理3で、じん肺法所定の合併症のない方 800万円
4.石綿肺管理3で、じん肺法所定の合併症のある方 950万円
5.中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺管理4、良性石綿胸水である方 1,150万円
6.上記1および3により死亡した方 1,200万円
7.上記2、4および5により死亡した方 1,300万円

 
※給付金を支給された後、症状が悪化した方には、請求に基づき、追加給付金(表における区分の差額分)が支給されます。
※じん肺法所定の合併症は次の5つの疾病です。「肺結核」「結核性胸膜炎」「続発性気管支炎」「続発性気管支拡張症」「続発性気胸」。

給付金額の減額・調整について

<給付金の減額>
石綿にさらされる建設業務に従事した期間が一定の期間未満の方は給付金額が1割減額されます。

肺がん、石綿肺 10年未満
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚 3年未満
中皮腫、良性石綿胸水 1年未満

 
また、肺がんの方で喫煙の習慣があった場合は給付金額が1割減額されます。

なお、「短期ばく露による減額」と「喫煙の習慣による減額」のいずれにも当てはまる場合は、給付金の19%が減額されます。

<給付金の調整>
石綿関連被害で、すでに国から和解金の支払いを受けた方、裁判の判決により損害賠償等がなされた方も給付金の請求ができますが、国から支払いを受けた価額を限度として給付金の支給額の調整が行なわれます。

国以外(勤務先の企業等)から和解金の支払いを受けた方、判決による賠償が行なわれた方も給付金の請求を行なうことができますが、その金額に応じて給付金の支給額が調整されることがあります。

給付金の請求を行なうことができますが、その金額に応じて給付金の支給額が調整されることがあります。

給付金の請求期限

1. 次のいずれか遅い方の日から起算して20年

 
2.石綿関連疾病により死亡した日から起算して20年

給付金の請求手続き

給付金の請求手続きに関する大まかな流れは、次のようになります。

  1. 1.請求者が給付金を請求
  2. 2.厚生労働省が受付し、認定審査会に審査を求める
  3. 3.認定審査会が審査し、厚生労働省に結果を通知
  4. 4.厚生労働省が認定し、請求者に結果を書面で通知
  5. 5.(独)労働者健康安全機構から給付金が支給される

 
なお、「労災支給決定等情報提供サービス」というものがあります。
これは、建設アスベスト給付金の請求手続きの利便性向上のためのサービスで、すでに「石綿関連疾病に関する労災保険給付の支給決定」や「石綿救済法の特別遺族給付金の支給決定」を受けた方やご遺族に、支給に関する情報を提供するものです。

無料でサービスを受けられるので、問い合わせてみるといいでしょう。

建設アスベスト給付金制度のさらに詳しい内容については、厚生労働省のサイト、パンフレットを参考にしてください。

【参考資料】:労災支給決定等情報提供サービスをご活用ください(厚生労働省)
建設アスベスト給付金制度について(厚生労働省)
建設アスベスト給付金制度の概要(厚生労働省)

アスベスト(石綿)の健康被害は弁護士にご相談ください!

ここまで、アスベスト(石綿)による健康被害について解説してきました。

石綿を吸い込んでから疾病を発症するまでには数十年かかることから、今後も被害者の方は増え続けると思われます。

肺がんや中皮腫などを発症した場合、給付金を受け取ることができますが、請求するためには医師の診断書や石綿ばく露作業歴がわかる資料など、さまざまな書類・資料を用意して提出する必要があります。

そのため手続きは簡単とはいえず、ご本人やご遺族が個人で請求していくのは、なかなか難しいという現実もあります。

そこで検討していただきたいのは、弁護士への相談・依頼です。

みらい総合法律事務所では随時、無料相談をお受けしています。

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