医師(院長・勤務医・非常勤)の解雇が無効になる場合
【動画解説】医師(勤務医・非常勤)の解雇が無効になる場合
目次
医師(ドクター)は労働者か?
勤務医、非常勤医師、アルバイト医師などが、解雇される場合があります。
あるいは、契約期間満了により雇い止めがされる場合があります。
法律上、解雇や雇い止めは自由にできるわけではありません。
多くの場合に、解雇は法律上無効になる、ということをご存じでしょうか。
「自分の場合は業務委託契約書を締結しているから解雇ではない」と思っている人もいるかもしれません。
しかし、契約書の内容は関係ありません。
「業務委託契約書」を締結していても、実態が雇用契約であれば、労働関係法令が適用され、契約の一方的終了は、解雇となります。
また、「院長」という立場だとしても、雇用契約により雇用されていると判断されるのであれば、契約の一方的終了は、解雇となります。
実際、東京地裁平成8年7月26日判決(労働判例699号22頁)は、病院側が院長との契約を委任契約と主張したのに対し、裁判所は、雇用契約であると認定しています。
では、医師が労働者になる場合とは、どんな場合でしょうか。
「労働者」は、労働基準法においては、「事業・・・に使用される者で、賃金を支払われる者」(9条)とされています。
労働契約法では、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」(6条)とされています。
つまり、「使用従属性」がその本質ということになります。
過去の裁判例では、医師が「労働者」であると主張し、医院側が「業務委託契約」であると主張した事案において、東京地裁平成25年2月15日判決は、医師を労働者であると認定しました。
理由としては、以下のような事情を挙げています。
①医師は、基本的には、ほぼ週5日、本件医院という定められた勤務場所で、定められた診療時間において、医院が保有する医療機器や薬剤を用いて診療行為を行っていた。
②医院の指揮監督の下で、労働者である勤務医として稼働していたものと解するのが相当
③医師に対する報酬が「給与」として取り扱われていたことも、医師の労働者性を根拠づける事情というべきである。
つまり、時間的・場所的な拘束を受けて、医院の指揮命令に従って可動しており、当事者間でも「給与」として労働者扱いをしていた、というような理由です。
したがって、このような状況にあれば、たとえ契約書を締結しており、「業務委託契約書」と記載があったとしても、労働者として評価され、厳しい解雇法理が適用されることになります。
解雇は3種類
解雇には、大きく分けて、3種類があります。
・懲戒解雇
・普通解雇
・整理解雇
懲戒解雇は、労働者が規律違反や違法行為を行うなど、就業規則の懲戒規定に定められた重大な問題を起こした場合に、懲戒処分として行われる解雇です。
普通解雇は、能力不足、協調性不足、勤務態度不良などを理由とする解雇です。
整理解雇は、病院や医院などの経営が悪化し、経済的に医師の雇用継続が難しいような場合に行われる解雇で、リストラ解雇などとも言われます。
自分がされた解雇が、上記の3つのうち、どれに該当するのか、まず確認することが必要となってきます。
解雇が無効となる場合
では、医師、勤務医、非常勤医師、アルバイト医師に対する解雇が無効となるのは、どのような場合でしょうか。
まず、懲戒解雇については、懲戒処分としての解雇になりますので、懲戒に関するルールが病院や医院に定められていなければなりません。
具体的には就業規則があり、その中に懲戒規定があるかどうかです。
そして、就業規則は、ただあるだけではダメで、就業規則を労働者に周知しておかないと、有効になりません。
その上で、医師の行為が懲戒事由に該当するかどうか、ということになります。
次に整理解雇については、ただ単に病院や医院の業績が悪化した、というだけでは足りません。
主に4つの要素を総合的に検討して、解雇に合理性があるかどうかを判断します。
4つの要素というのは、
☑人員整理の必要性
☑解雇回避努力
☑人員選定の合理性
☑手続の妥当性
というものです。
これらの要素がない解雇は、無効となります。
最後に普通解雇です。
解雇が有効となるためには、
☑解雇理由の客観的合理性
☑解雇手続の社会的相当性
が必要になります。
これは、かなり厳しく判断されており、何日か欠勤しただけでは認められませんし、少し能力が不足しているくらいでは認められません。
病院や医院としては、教育指導を行う必要があり、何度注意しても改善しないような場合でないと、なかなか解雇は有効になりません。
医師の解雇が無効とされた裁判例
では、医師に対する解雇を無効とした裁判例をご紹介します。
まず、懲戒解雇の事案です。
東京地裁平成8年7月26日判決(労働判例699号22頁)の事案は、当初非常勤医師として勤務し、その後院長に就任した院長を懲戒解雇した、というものです。
この事案で、裁判所は、病院が懲戒事由として主張する「名誉毀損」「誹謗又は中傷」「病院の経営の悪さについての話を同病院に勤務する看護婦にしたこと」などについて、懲戒事由に該当しないこと、懲戒委員会が開かれていないなど、手続き的にも瑕疵が大きい、として、懲戒解雇を無効としました。
その上で、未払いだった賃金8875万円その他の支払を命じた、というものです。
次に、普通解雇の事案です。
大阪地裁平成15年11月7日判決(労働経済判例速報1858号21頁)の事案は、病院の放射線科の部長として勤務していた医師が、「無許可の二重終業の禁止違反」「放射線科パート事務員の配置転換命令への不服従」「病院の命令に違反したパート技師の雇用」「不良な勤務状況、無断欠勤、出勤簿への虚偽記載」などを理由として普通解雇されたものです。
この事案で、裁判所は、解雇は合理的理由が認められない、として解雇無効としました。
その上で、解雇日から判決確定日まで毎月97万3000円の支払いを命じました。
このように、医師の解雇は自由に認められるわけではなく、解雇を有効とする要件が要求されることになります。
そして、解雇が無効となった場合には、未払い賃金の支払を求めることができます。
解雇された場合の手続き
では、医師が医院または病院から突然解雇されたら、どうしたらよいでしょうか。
まずは、医院または病院に対し、「解雇理由証明書」の交付を求めることになります。
解雇の理由を確認することにより、その解雇理由があるのか、また、合理的な理由といえるのか、などを検討することになります。
弁護士に相談した場合も、解雇理由証明書があった方が適切な助言を得られやすくなります。
また、解雇された後は病院などに立ち入りを禁じられますので、資料収集ができなくなります。
そこで、解雇されそうな時には、就業規則、労働契約書、労働条件通知書、タイムカード、日報、メールなど、労働関係に関係のある資料を入手するようにしましょう。
その上で、弁護士に相談することになります。
相談の結果、解雇が不当解雇である、という結論になった場合には、病院等に対して内容証明郵便でこちらの主張を伝えます。
その後交渉に入り、交渉が決裂した場合には、労働審判や訴訟などの法的手続きに入っていくことになります。
参考記事:解雇に対する不服申立て方法は?│初期対応から不当解雇の判断基準まで
解雇されたら弁護士に相談を
解雇が有効か無効かの判断は、法的な判断になります。
法律の素人では判断ができないと思いますので、解雇されたら、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
そして、解雇が無効だとして争う場合には、病院等と交渉あるいは法的手続きを行うことになります。
元上司や院長、理事長などと交渉するのは精神的に難しいことも多いと思います。
また、法的な手続きは法律の素人ではかなり難易度が高いでしょう。
したがって、医師が解雇無効を争う場合には、できるだけ早いうちに弁護士に依頼してしまうのがよいと思います。
その場合の注意点としては、必ず事前に弁護士費用を確認し、委任契約書を締結するとともに、弁護士費用を委任契約書に明記してもらうことです。
この点にご注意ください。