労働審判(残業代)の「防御5つの型」

 

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労働審判において社員から残業代の請求がなされた場合、会社がとるべき防御方法は、固定残業制や変形労働時間制などの各会社が事前に導入している諸制度に応じて様々なものがあります。

 

もっとも、どのような制度を導入しているかにかかわらず、どの会社でも共通して検討すべき5つの防御の型があります。

具体的には、以下の5つの主張になります。

 

① そもそも会社が残業代を支払う義務を負う「労働者」ではない

② 基礎賃金が正しくない

③ 割増率が正しくない

④ 残業時間数が正しくない

⑤ 消滅時効が完成している

 

①の型は、そもそも、残業代の請求をしている社員が、会社が残業代を支払う義務を負う「労働者」ではなく、したがって、会社は残業代を支払う必要がないという反論です。

 

会社が法令上残業代を支払わなければいけないのは、「労働者」、すなわち、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」に限られます。

 

例えば、自己所有のトラックを持ち込み、会社の指示に従って製品等の輸送業務に従事する運転手などは、会社に「使用される者」ではありませんので、「労働者」には該当せず、会社は残業代を支払う必要がないということになります。

 

もっとも、気をつけなければいけないのは、残業代の支払義務を負う「労働者」であることを否定するためには、単に当該社員と会社との契約の名称が「雇用契約」ではなく「業務委託契約」や「請負契約」となっていれば良いというわけではないということです。

この「労働者」性が否定されるためには、実態として、当該社員が「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」ではないことが必要となります。

 

裁判では、

・時間・場所の拘束の有無、程度(拘束の程度が強ければ労働者性を肯定する事情と評価されます)、

・契約に対する諾否の事由の有無(自由がなければ労働者性を肯定する事情と評価されます)、

・契約内容の遂行に当たっての指揮命令の有無(指揮命令に従っている場合には労働者性を肯定する事情として評価されます)、

・経費の負担の有無(受託者が経費を負担するような場合には労働者性を否定する事情として評価されます)

 

等の事情が考慮されて、労働者に該当するか否かが判断されますので、会社としては、これらの事情を具体的に主張していく必要があります。

 

また、残業代は、簡単に言えば、「通常の労働時間又は労働日の賃金(基礎賃金)」×「割増率」×「残業時間数」という計算式によって算定されます。

 

そのため、会社としては、この計算式に登場する「基礎賃金」、「割増率」、及び、「残業時間数」について、それぞれ、残業代の請求をしている社員の主張が間違っていると反論をすることが考えられます。

 

これらの反論が、上記の②~④の型になります。

 

②の型の「基礎賃金」の額に関しては、法令上、基礎賃金に算入することのできない手当等が決まっています。

 

それにもかかわらず、残業代の請求をしている社員の主張する基礎賃金には、この算入することのできない手当等が含まれてしまっていることが多くあります。

 「基礎賃金」の額が大きくなれば、支払うべき残業代も大きくなりますので、会社としては、この「基礎賃金」の誤りを指摘しなくてはなりません。 

 

例えば、「基礎賃金」に算入することができない手当等には、「家族手当」、「通勤手当」、「別居手当」、「子女教育手当」、「住宅手当」といった手当や、結婚手当などの「臨時に支払われた賃金」、「賞与」などの「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」などがあります。

 

また、③の型の「割増率」についても、法令上細かく規定されています。

 

具体的には、1か月の合計が60時間までの時間外労働、及び、深夜労働については2割5分以上の率、1か月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合の60時間を超える時間外労働については5割以上の率、休日労働については3割5分以上の率といった具合です。

労働審判では、残業代の請求をしている社員が、この割増率を間違えて請求していることも多いですので、会社としては、誤りがないかしっかりと確認して反論を行う必要があります。

 

 ④の型の「労働時間数」については、会社が把握している時間数と社員が主張する時間数に食い違いがあることが非常に多いです。

 

労働時間に該当するためには、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている」必要がありますので、例えば、始業時間に関して言えば、通勤時間は労働時間に含まれませんが、作業着等への着替えの時間、朝礼等の義務的な時間は含まれます。

終業時間に関しても、同様に通勤時間は含まれません。

 

また、社員の手待ち時間は、形式的には休憩時間でも、昼休みの電話番など実際には労働から離脱していない場合には労働時間に該当します。

会社としては、このような点を踏まえながら、社員の主張する労働時間数に誤りがないかしっかりと確認して反論を行う必要があります。

 

最後に、⑤の型、消滅時効が完成しているという防御方法ですが、この防御方法は適用される場合が多く非常に重要です。

 

というのも、残業代は2年間という短い期間の経過によって消滅時効が完成し、2年以上前の残業代については会社は支払義務を免れることができるからです。

したがって、社員の残業代請求がいつの分から請求されているか、消滅時効が完成していないかは、必ず確認することが必要です。

 

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