労働審判(転勤)の答弁書「勝てる書き方のコツ」

転勤命令の有効性を争って従業員が労働審判を起こしてきた場合、会社はどのような答弁書を書き対応すれば良いでしょうか。

 

前提として、一般に労働審判において答弁書とはどのような役割を果たすものなのか確認しましょう。

 

労働審判を申し立てられると従業員側が作成した労働審判の申立書が裁判所から届きます。申立書の中には、転勤命令がなぜ無効か、後述するような様々な理由が記載されています。これらの記載に会社の立場から反論する書面が答弁書です。

 

答弁書は第1回の期日までに提出しなければならならず、その期間は長くても1か月ほどです。1か月と聞くと案外長いと思われるかもしれませんが、その間に、会社側は事実確認し、必要に応じて反論のための証拠を吟味し、解決方針を決定しなければなりませんので、多くの場合時間が足りないと感じることになります。

 

顧問弁護士がいないのであれば、まずはどの弁護士に相談すべきか検討することから始めなければなりませんから、さらに時間がかかるでしょう。 労働審判では原則として第1回期日までに全ての主張を行い、証拠を提出しなければなりませんので、結果として答弁書は数十ページに及ぶことになります。

 

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さて、それでは転勤命令の有効性が争われた場合、具体的にどのように答弁書を書けば良いかみていきましょう。

 

一般的に、従業員側が転勤命令の有効性を争う方法としては

①当該従業員と会社との労働契約上、勤務地が限定されており、当該従業員の同意が無い限り、そもそも会社に転勤を命じる権限がない

②業務上の必要性がない

③不当な目的で下された転勤命令である

④転勤によって従業員側に著しい不利益がある といった4パターンです。

 

まず、①そもそも会社に転勤を命じる権限がないとの主張に対しては、当然のことながら、会社としては、会社に転勤を命じる権限があるとの反論を行うことになります。

 

全国規模で展開する会社であれば、多くの場合、労働契約上「転勤を命ずる場合がある」と明記されていたり、就業規則上転勤について定められていたり、雇用の際に転勤命令に従う旨の誓約書を提出しているでしょう。

 

会社側としては特別な事情が無い限り、これらの規定や誓約書の存在を主張していけば良いので簡単です。

 

他方、万が一、転勤を命じる旨の規定や誓約書が存在しない場合は、会社には多くの支店や出張所があり多くの従業員が転勤している事実や、労働契約締結時に勤務場所の特定の合意がなされていていない事実を主張立証していくことになります。

 

具体的には、当該従業員入社当時から、会社は全国に支店や工場を展開していて、他の従業員も転勤を経験している事実を、主張立証していくことになるでしょう。

 

次に、②業務上の必要性がないとの主張に対しては、業務上の必要性の存在を主張立証していくことになります。

 

裁判上、ここにいう必要性とは、それほど高度の必要性が求められているわけではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進等、企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは業務上の必要が認められるとされています(東亜ペイント事件)。

 

したがって、例えば、当該従業員の能力開発や会社の業務全体の把握のため中期間転勤を命じる前例が多数あり、その一環として転勤命じた場合は、得られる能力の具体的内容やこれまでの前例等を主張立証していくことになるでしょう。

 

③不当な目的で下された転勤命令であるとの主張に対しては、不当な目的の不存せず正当な理由(業務上の必要性)があるとの反論をしていくことになります。

 

例えば、問題の従業員が、元来、東京で営業の仕事をしていたとします。会社が、転勤命令により、同従業員に対して遠く離れた他県の工場でのライン作業に従事することを命じた場合、距離も遠く、業務内容も著しく異なることから、「事実上退職を強要する不当な目的で転勤を命じた」と主張して転勤命令の無効を主張してきた場合を考えてみましょう。

 

このようなケースですと確かに一見退職を強要しているようにみえます。会社としては不当な目的は存在しないと主張するとともに、転勤の正当な目的を主張立証する必要があります。 転勤の正当な目的とは、具体的には、先ほどの②業務上の必要性と同様の理由になる場合もあるでしょうし、さらに高度の経営上の必要性から、転勤を命じる場合もあるでしょう。

 

例えば、前述のケースで、会社全体の売上が落ちてきており、営業の人員に余剰が生じている一方で、他県の自社工場では人員不足であるなどの事情がある場合、整理解雇を回避するためにやむを得ずとった措置であることを主張立証することになります。

 

その際は、引越費用を会社が負担したことや、他の営業社員と比して、当該従業員が転勤に適していた、例えば、独身で扶養家族がいないであるとか、営業成績が悪く他の営業職と比べて必要性が低かったなど、当該従業員に限って転勤を命じた合理的な理由を主張立証していくことになります。

 

最後に、④転勤によって従業員側に著しい不利益があるとの主張に対しては、㋐そのような不利益は無いと主張するか、㋑不利益があったとしてもそれを上回る業務上の必要性があるということを主張していくことになります。

 

㋐不利益の不存在を主張するというのは、例えば老親の介護等の事例を考えてみます。

 

これに対しては、近隣に住む他の兄弟姉妹の有無であるとか、老親の配偶者、経済状態等を主張し、会社が知り得ない事実については早期に釈明を求める(相手に対して回答を促す)ことが必要になります。 また、転勤命令前は、老親の介護等を会社に一切知らせずに、転勤を命じられてからはじめて申告したといった事情は、「介護の必要性がそこまで切迫していなかった」ことを基礎づける事情の一つとなるでしょう。

 

他に、例えば単身赴任の必要性などは従業員はある程度は甘受すべきもので、それを不利益と評価するかはケースバイケースです。会社としては、準備期間を与えたことや、単身赴任者に対する金銭的補助の存在に関する資料等を提出し、当該従業員の不利益は比較的僅少であることを基礎づける証拠を出していくことになります。

 

㋑不利益を上回る業務上の必要性というのは、前述した②業務上の必要性がない、③不当な目的での転勤命令との主張への対応と重複する部分もありますが、例えば、整理解雇を回避するためのやむを得ない措置であったことを主張立証していくこともあります。

 

この場合、具体的には会社の経営状態や、経費削減に努めたこと、他の従業員に比して当該従業員の営業成績が悪かったこと等を立証することになります。また、当該従業員の能力開発のために必要な転勤であれば、転勤により得られる能力の内容などを具体的に主張立証していくことになります。

 

以上、様々な観点から書きましたが、労働審判の手続は、迅速性が求められ、準備期間が短く、第1回期日でほぼ勝負は決まってしまうなど通常の訴訟とは大きく異なります。労働審判の申立書が届き、充実した答弁書の作成が難しいと感じたら、早急に弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

 

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