朝型勤務にも残業代が発生する!?残業代請求の基礎知識【弁護士が解説】

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朝残業

 

この数年、日本の企業の間で朝型勤務を実施する動きが広がっています。

日本のビジネスパーソンは長時間労働が多く、働き過ぎといわれますが、そうした旧来の働き方を見直し、朝早くから仕事を始めることで効率的に働き残業時間を減らし、夕方からの時間を有効に活用しよう、という試みです。

 

会社にとっても残業代の削減につながることから、労使ともに朝型勤務を推奨しようという流れがあるようです。

 

2015年4月20日、厚生労働大臣は「夏の生活スタイル変革」との要望書を経団連に提出。経済界が朝型勤務の導入を図るように要請しました。

 

また、7月1日には、国家公務員22万人を対象に夏の朝型勤務「ゆう活」がスタート。8月末までの実施で、勤務時間を1~2時間前倒しして、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実現を目指すとしています。

 

こうした動きには、もちろん賛否両論あるようで、「朝は仕事に集中できる」という賛成派から、「夜の飲み会まで時間をどうやって潰そうか…」という否定派(?)まで、さまざまな意見が出ています。

 

ところで、一見いいことずくめにも思える朝型勤務ですが、じつは思わぬ落とし穴が潜んでいるかも…といったら、あなたはどう思いますか?
果たして、それはどんな落とし穴なのでしょうか?

 

今回は、朝型勤務と残業代との関係について法的に解説します。

 

【未払い残業代による労働トラブルが急増中】

 

近年、労使間のトラブルが増加しています。

「平成26年度個別労働紛争解決制度施行状況」(厚生労働省)によると、総合労働相談コーナーに寄せられた相談件数は103万3047件で前年度比-1.6%の微減ながら7年連続で100万件を突破しています。

 

内訳は、労働者からの相談が61万6613件、事業主からの相談が29万2400件、その他が12万4034件で、労働者からの相談が圧倒的に多いのがわかります。

 

また、労働トラブルの中でも「未払い残業代」に関する問題が目立っています。

「平成26年度過重労働解消キャンペーンにおける重点監督実施状況」(厚生労働省)によると、違法な時間外労働について次のような結果が出ています。

 

・違法な時間外労働があったもの:2304事業所(50.5%)
※そのうち、時間外労働の実績がもっとも長い労働者の時間数が、
 月100時間を超えるもの:715事業場(31.0%)
 月150時間を超えるもの:153事業所( 6.6%)
 月200時間を超えるもの: 35事業所( 1.5%)

 

・賃金不払残業があったもの:955事業所(20.9%)

 

なんと、半数の会社で違法な時間外労働が行われ、5社に1社は賃金不払残業をさせていたことがわかりました。

 

【従業員がもらえる残業代とは何なのか?】

 

そもそも残業代とは、法律でどのように定められているのでしょうか。

労働に関する法律の中に「労働基準法」があります。
これは、会社が守らなければいけない最低限の労働条件を定めたもので、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図る目的があります。

 

この中に「法定労働時間」が定められています(第32条)。

 

会社(使用者)が、社員(労働者)を働かせることができる労働時間は、原則として1週間で40時間、かつ1日8時間(法定労働時間)までというものです。

 

この基準以上の時間、つまり法定労働時間外の勤務をさせたとき、会社は従業員に「割増賃金」を支払わなければいけません(第37条)。

 

割増賃金は、時間外労働(残業)、休日労働、深夜労働などによって発生します。

労働基準法上、原則として、会社は社員に対し1週間に少なくとも1日は休日を与えなければなりません。
これが、「法定休日」と呼ばれるものです。

 

法定休日に社員を労働させた場合、会社は社員に対し「休日労働」として割増賃金を支払わなければなりません。

 

また、午後10時から午前5時までの間に社員を労働させた場合、会社は社員に対し「深夜労働」として割増賃金を支払わなければなりません。

 

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【残業代はどのくらい認められるのか?】

 

会社が支払わなければならない残業代の割増率は、以下のように細かく決まっています。

 

①1ヵ月の合計が60時間までの時間外労働、及び、深夜労働については2割5分以上の率
②1ヵ月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合の時間外労働については5割以上の率
③休日労働については3割5分以上の率
④深夜労働については2割5分以上の率

 

【割増率一覧】
④深夜労働
時間内労働 100% 125%
①時間外労働(1か月60時間以内分) 125% 150%
②時間外労働(1か月60時間超分) 150% 175%
③休日労働 135% 160%

 

ただし、この割増率のうち上記②に関しては、この原稿を書いている時点では中小企業には適用が猶予されています。

 

【②の割増率の適用が猶予される中小企業】

資本金の額又は出資の総額が 又は 常時使用する労働者の数が
5000万円以下 小売業 50人以下
5000万円以下 サービス業 100人以下
1億円以下 卸売業 100人以下
3億円以下 上記以外 300人以下

 

自分が働く会社が上記に当てはまるかどうか確認することが必要です。

 

【残業代の計算方法とは?】

 

次に、具体例をあげて残業代を計算してみましょう。

たとえば、9時から17時までが1日の所定労働時間で、休憩が途中に1時間あり、日給7000円で働いている従業員がいるとします。
この従業員が9時から23時まで働いたら、いくらの残業代が発生するでしょうか?

 

残業代は、以下の計算式によって求められます。

「残業代」=「基礎賃金」×「割増率」×「残業時間数」 
※基礎賃金は通常の労働時間又は労働日の賃金

 

・基礎賃金は、7000円(日給)÷7時間(所定労働時間)=1000円です。
・法定内残業(17時~18時)は、1000円(時給)×1時間=1000円です。(割増なし)
・18時~22時の残業代は、1000円×1.25×4時間=5000円です。
・22時~23時の残業代は、1000円×1.5×1時間=1500円です。

 

以上の計算から、このケースで従業員がもらえる残業代は、なんと7500円にもなることがわかりました。

 

思っていたより残業代は多くもらえることがわかった人も多いのではないでしょうか。

 

仮に、1ヵ月に20日間、同じように1日5時間の残業をしたとすると、100時間で残業代はいくらになるでしょう?
当然もらえる残業代を、もらえていない人がいるとしたら…もったいないと思いませんか?

 

じつは実際に、こうした未払い残業代訴訟が急増しています。

 

ちなみに、未払い残業代請求で、実際に獲得された事例をあげてみます。
かなりの金額になります。

 

「事例①」
・不動産会社勤務の35歳・男性
・月給:37万5000円
・回収額:約367万円

 

「事例②」
・運送会社勤務の運転手
・月額保障給:30万3000円
・回収額:約634万円

 

「事例③」
・ソフトウェア会社勤務のSE職
・回収額:約1001万円

・飲食店勤務の調理師
・回収額:約268万円

 

>>>そのほかの残業代請求の事例はこちら 

 

【朝型勤務に残業代は発生しないのかという疑問】

 

ところで、残業といえば夜遅く会社に残ってするもの、というのが多くの人のイメージだと思います。
私たちは長年の慣習から、それが当たり前だと思い込んで疑問にも思わないことがあります。

 

しかし、ちょっと待ってください!

 

朝型勤務の時間は、「法定時間外」ではないのでしょうか?

 

たとえば、始業時間が9時、終業時間が18時、休憩時間が1時間の会社があるとします。
前述のように、法的に見れば、1日のうち8時間以上は法定労働時間外になるので、仮に7時に出社したならば、7時~9時の2時間分が、「労働時間」といえるならば、残業代が当然発生します。

 

この「労働時間」といえるためには、その朝に出勤した業務が、
①業務に関連する
②義務づけられたか、余儀なくされた
③会社の指揮監督下にある
とう用件が必要です。

 

この用件を満たす早朝出勤であれば、朝であっても残業代が発生します。

 

典型的な例としては、「明日は、朝7時に来て、会議資料を作るように」と言われたような場合ですね。

 

もう少し具体的に考えていきましょう。

 

【朝の残業代が法的に認められるのはどんなとき?】

 

事例を個別に見ていきます。

 

「朝早く出勤するのが業務命令の場合」
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間のことをいいます。

 

そして、
④業務に関連する
⑤義務づけられたか、余儀なくされた
⑥会社の指揮監督下にある
とう用件がそろった時に、使用者の指揮命令かに置かれた時間となります。

 

「朝の研修や勉強会へ出席した場合」
出席が義務づけられていたり、強制参加の場合、または出席しないことで不利益がある場合(賃下げ・配転など)は労働時間にあたると考えられます。

 

「ラッシュアワーを避けるための早朝出勤」
通勤電車のラッシュアワーを避けるための早朝出勤は、使用者の指揮命令下ではなく通勤時間は労働時間ではないため、時間外手当は発生しません。

 

「社長や上司の出勤が朝早い場合」
社長や上司の出勤が朝早いため、自分も早朝出勤しなければいけない空気がある…そんな場合はどうでしょう?
たとえば、命令がある場合や、社長や上司だけでは仕事ができないために自分も出社する必要があるような場合は労働時間にあたると考えられます。
しかし、気を使って朝早く出社しているような場合は認められません。

 

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【残業代を手に入れるにはどうすればいいのか?】

 

従業員が未払い残業代請求をするには、どうすればいいのでしょうか?

 

多くの場合、退職後に請求する人が多いです。
それは、どうしても在職中では請求しづらかったり、会社から不利益な対応を取られる危険があるからです。

 

流れとしては、まず会社に対して残業代の支払いを求める「内容証明郵便」を送付します。
次に、会社と従業員の間で解決に向けた交渉が行われます。
ここで和解が成立すれば解決となりますが、和解が成立しない場合は、労働審判や訴訟を起こすことになります。

 

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【未払い残業代請求の手続きのポイント】

 

未払い残業代請求をする際には、いくつかのポイントがあります。
以下にまとめます。

 

①会社の就業規則をきちんと把握する
会社と社員の間の労働条件については、基本的には労働契約、すなわち、両者の間の合意によって決まります。
しかし、社員1人ひとりと契約書を交している会社は、そう多くはないでしょう。

 

そこで重要になるのが「就業規則」です。
なぜなら、就業規則の規定は、それが「合理的」なものであり、かつ社員に「周知」されていれば、労働契約の内容となるからです。

ですから、従業員も労働契約の内容と同様の効力を持つ就業規則の規定について、しっかり把握しておく必要があります。

 

②証拠を残しておく
会社は労働者の労働時間を管理する義務があります。
しかし、会社がタイムカードで労働時間を管理していたとしても、実際に仕事が終わらず、事実上残業しないといけないような場合で、これを上司が黙認している場合には、会社の「指揮命令下」にあるとして、残業代を支払う義務が発生します。
また、会社がきちんと労働時間を管理していない場合もあります。

 

会社はタイムカードを証拠として提示してくることになりますが、従業員としては、自分で作成した労働時間のメモ、パソコンのログイン・ログオフの記録、メールのやり取りの時刻、他の同僚の証言などを証拠としていきます。
そのため、できる限りの証拠を残しておくべきです。

 

③何人かでまとまって請求する
退職前に請求する時は、他の同僚と一緒に請求することで、不利益な対応を取られることへの危険分散になります。
また、複数で請求すると、残業を実際に行っていた、という立証もしやすくなります。

 

④裁判まで持ち込み付加金を手に入れる
未払い残業代請求で、労働審判でも和解に至らず訴訟に持ち込んだ場合、裁判所が必要と認めたなら、会社は未払い残業代と同額を上限とした付加金を支払わなければいけません。
会社側の違反が悪質な場合などでは、全額が認められるケースも多くあります。

 

つまり、裁判で従業員側の主張が認められれば、最大で請求金額の2倍のお金を手に入れることもできるのです。
ちなみに、付加金は違反があったときから2年以内に請求しなければ無効となるので注意が必要です。

 

⑤未払い残業代請求の時効は2年
未払い残業代請求には時効があり、2年と定められています。
2年を過ぎると、残業代は無効になるので注意してください。

 

ここまで、残業代の基礎知識から基本について未払い残業代の請求方法まで解説しました。

 

「どうせ会社に言っても認めてもらえない」とあきらめている人や、「立場が悪くなるから我慢する」という人もいるでしょう。
また、「就業規則や法律は難しくて面倒だ」と感じている人も多いように思います。

 

確かに知識がないと、どうしていいのかわからないのが法律の世界かもしれません。
しかし知識を得れば、法律で認められている権利を放棄することなく残業代を手に入れることができます。

 

毎日、仕事をがんばっているビジネスパーソンには、ぜひこの機会に残業代に関する知識を手に入れて、正しく権利を使ってほしいと思います。

 

ただ、未払い残業代請求では会社側も弁護士に依頼して反論してくるケースがほとんどですので、「あきらめたくない」、「最後まで闘う」という場合は弁護士に相談することをお勧めします。

 

 

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