懲戒解雇した者に退職金不支給にできるか?

一般的には、退職金制度を設け、労働協約や就業規則等に退職金の定めを置いている場合には、懲戒解雇の場合には退職金は支給しない旨の退職金の不支給条項を設けていることが多いと思われます。

 

この場合、当該不支給条項に基づいて退職金を不支給とすることができるか否かについて、裁判例では、鉄道会社の社員が電車内で痴漢行為を行い、懲戒解雇され、就業規則の規定に基づき退職金を不支給とした事案について、懲戒解雇は有効とした上で、「賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。

 

ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される。

 

このような事情がないにもかかわらず、会社と直接関係のない非違行為を理由に、退職金の全額を不支給とすることは、経済的にみて過酷な処分というべきであり、不利益処分一般に要求される比例原則にも反すると考えられる」として、不支給を認めず、ただし、会社、従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいた会社にとって相当の不信行為であったことを考慮し、使用者に本来に支払われるべき退職金の3割についての支払いを命じました(小田急電鉄事件 東京高判平成15年12月11日労判867号5頁)。

 

したがって、結論としては、懲戒解雇の場合に、退職金を不支給あるいは減額することもできますが、不支給とするには、労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要になります。

 

例えば、故意に会社の個人情報を流出させ、会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせた場合には、退職金を不支給とすることもできると考えられます。

 

反対に、上記のような重大な影響を及ぼさない軽微な理由で懲戒解雇になった場合には、退職金の不支給が認められないどころか、その懲戒解雇自体が無効となることも考えられます。

 

以上のとおり、懲戒解雇の場合であっても、一律に退職金を不支給とできるわけではなく、懲戒解雇の理由、会社への影響などの個別具体的事情を考慮して判断されることになります。